シンジは夢うつつの中にいた。
使徒の攻撃による激痛で意識がもうろうとしていた。
「ここは……?」
シンジはぼやける視界の中、不思議な光景を見ていた。
目の前に自分がいた。
子供のころの自分。
子供のシンジは無邪気に誰かの引っ張っていた。
「かあ……さん……?」
シンジは思わずそう問いかけた。すると、夢の中の母親が微笑みかけてくれた。
「母さん……」
「大丈夫よ、そのまま楽に……あなたのことは私が守るから」
「……」
シンジはゆりかごの中のような心地よさを覚えて、そのまま目を閉じた。
「初号機、覚醒しました!」
マヤが狼狽気味に言った。
「覚醒?」
ミサトはモニターを凝視した。
たしかに、エヴァ初号機は立ち上がっていた。
使徒の2度の攻撃でボロボロになり、エネルギータンクが機能しなくなっているはずだ。理論上ありえないことが起こっていた。
覚醒した初号機は獣のような咆哮を上げた。
「どういうこと? 予備電源がまだ生き残ってるの?」
「いえ、回路が完全に遮断されています。理論上、動けるはずがありません」
「でも、現に動いているじゃないの」
誰の目にも初号機は動いていた。
科学者一同、理論的にありえない光景に困惑していた。
誰しもが困惑する中、ゲンドウと冬月だけは平然としてモニターを見つめていた。
「碇」
「ああ、間違いない」
ゲンドウは覚醒した初号機を見てにやりと笑った。
「おはよう、ユイ」
ゲンドウはそのようにつぶやいた。
覚醒した初号機は赤く輝く瞳で使徒を見据えた。
初号機の体はすでにボロボロだ。装甲の70%が破損しており、エントリープラグにも熱エネルギーが介入していた。パイロットの命も危うい状態だったが、初号機は力強く左上でを天に突き上げた。
その左腕は一瞬で復元された。
「ふ、復元されました」
「復元? どういうことよ。DG装甲は動力部にしか使われてないはずでしょ?」
ミサトはリツコに尋ねた。
「そうよね、リツコ」
「ええ、間違いないわ」
「じゃあ、どうして復元できるのよ?」
「私にもわからない。DG細胞の一部が変異を起こして金属を汚染したのかも」
リツコに言えることはそこまでだった。
想定外の状況だけに、どう対応していいかわからない。
ミサトはともかくシンジに通信を入れた。
しかし、通信不能だった。
「ダメね、シンジ君とは連絡がつかない」
「使徒内部にエネルギー反応。攻撃きます」
使徒は覚醒した初号機にめがけて破壊光線を撃ちだした。
目にも留まらぬ攻撃だったが、エヴァ初号機は完全に見切っていたのか、タイミングよく左腕を前に突き出した。
発生したATフィールドが使徒の破壊光線をはじき返した。
その破壊光線は使徒の装甲にしたたかに打ち付けられた。
激しい音と同時に使徒が後ろに転倒した。
「何が起こってるの? シンジ君が操縦しているの?」
それはありえない。シンジにこんな操縦ができるはずがない。
初号機は使徒の攻撃を跳ね返すと、ジグザグに鋭くステップして、使徒に飛び掛かった。
この動作1つとっても、人間離れしていた。シンジが操縦しているはずがなかった。
「まるでアムロ・レイが操縦しているみたい。いったいどうなっているの?」
「……」
リツコは何も応えなかったが、初号機の動きから何かを感じ取っているようにも見えた。
初号機は使徒に馬乗りになると、拳を次々と振り下ろした。
使徒の抵抗を力でねじ伏せ、やがて使徒の首根っこを掴み、むしり取った。
「……」
もはや見守るしかなかった。
初号機は使徒が動かなくなった後もしばらくの間、使徒に攻撃を加え続けた。
どちらが侵略者かわからないような光景だった。
現場に駆け付けたボスはその光景を見て不気味さを覚えた。
「おいおい、シンジの野郎、本性はこんな獰猛な性格だってのかよ?」
ボスも初号機には近づけなかった。
しばらくして、初号機の目から輝きが失われた。
ようやく、初号機は動きを止めた。
こんな結末を迎えるとは誰も予想できなかった。
しかし、使徒殲滅のミッションは成功という形になった。
ミサトは嬉しそうな表情を作ることなく、ミッションの終了を宣言した。
「対象は完全に沈黙しました」
「ご苦労、よくやってくれた」
ゲンドウは静かにそう言った。
ミッション完了だが、そこに居合わせた誰しもが、しばらくの間沈黙していた。
◇◇◇
ミッションは成功に終わった。しかし、ここからが忙しかった。エヴァ初号機や使徒の回収および、使徒襲来の被害状況の確認などの雑務もミサトらの仕事だった。
ミサトはエヴァ初号機の回収に立ち会った。シンジの安否が心配された。
エヴァ初号機の回収は、ボスの手によって行われた。ボスはマジンガーの救出からエヴァの回収まで、広く活躍することになった。
「装甲がドロドロに溶けちまってるわさ。シンジ、大丈夫か?」
ボスはエヴァ初号機をリフトに乗せた。
安否は不明だが、破損状況からすると、エントリープラグ内も高温にさらされている可能性が高かった。
すぐに冷却が行われて、エントリープラグが摘出された。
エントリープラグの外部は真っ黒に焦げていた。貫通はしておらず、LCLが漏洩しているわけではなかったので、LCLがシンジを守ってくれた可能性はあるが、中を確認するまではわからなかった。
救助班は手際よくエントリープラグを切断すると、中からシンジを救出してタンカに乗せた。
ミサトはすぐに駆けよった。
「パイロットの状況は?」
「外傷はなく、心肺機能は正常です。しかし意識がありません。強いショックを受けた可能性があります」
ミサトはシンジの顔を見つめた。
経験則から言うと、脳死状態ではない。軽い脳震盪程度で済んでいる可能性が高いと見た。
シンジはすぐに緊急治療室に運ばれていった。
ミサトは回収されたエヴァ初号機を見上げた。
いまは完全に沈黙しているが、あのとき確かに覚醒した。
エヴァはなぜ覚醒したのか?
大きな疑問が残ったままとなった。