それは早朝の出来事だった。
東京湾では、海底調査のために、調査鑑が出航した。
このプロジェクトは、ミケーネ帝国をけん制するための、潜水艦の航路を確立するための重要な海底調査だった。
意気揚々に出航した調査隊だったが、出向から1時間後、突如として爆破されることになった。
調査艦は大破。通信室との通信は途切れてしまった。
「謎の大爆発を観測しました。調査艦体「大山」の近辺です」
「どういうことだ? 敵機の魚雷攻撃を受けたのか?」
「いいえ、大山隊の近くに敵機の反応はありませんでした」
「では、なんだというのだ?」
そのとき、通信室は異常な高エネルギー反応をキャッチした。
「所長、高エネルギー反応。東京湾南端です」
「何者だ? ミケーネども、恐るべき機械獣を開発して攻め込んできたのか?」
「いいえ、ミケーネの機械獣ではないと思われます。このパターンは例の使徒では?」
「使徒だと? ええい、早く偵察機を送れ。モニターするんだ」
「偵察機、スクランブル発進しました。中央にモニターします」
モニターには、第三使徒の姿がまざまざと映し出された。
「なんだこれは? ひし形の飛行物体か?」
「なんという奇妙な物体か」
正四面体を2つ重ね合わせたようなクリスタル型の飛行物体がモニターに映し出された。
思わず、あっけに取られてしまうような奇妙な姿をしていた。
通信室のスタッフがあっけに取られている間に、第三使徒にエネルギーが充填。直後、すさまじい熱波が放たれた。
その熱で無人偵察機はやられてしまったようであった。モニター画面は消え、真っ黒になった。
「所長、警察に連絡したほうがよろしいでしょうか?」
「バカ野郎、警察にどうにかできるものか。自衛隊だ。ネルフに連絡を入れろ」
使徒出現の報はこうしてネルフに通達された。
午前6時前だったということで、ネルフの中心スタッフはまだ出勤していなかった。
ミサトもまだ起床したばかりで、半分眠ったような状態でスマホに入っていたメールの確認をしていた。
そんなときに、突如として緊急指令が届いた。大きな音が鳴ったので、ミサトは半開きの目を開いた。
ミサトは真剣な顔で緊急指令を見た。
「使徒襲来……ようやく来たのね」
ミサトは立ち上がって、素早く着替えをしながら、使徒殲滅のために必要な駒をそろえるために、各人に電話を入れた。
「甲児君、緊急指令は見た?」
「見ましたよ。せっかくの心地よい夢をぶち壊しにされて不快な気分ですよ」
「それならちょうどいいわ。安眠を妨げるクソ野郎をとっちめに行くわよ」
「了解っす」
ミサトは続けて、シンジとボスとレイにも連絡を入れた。
ミサトは車をかっ飛ばして、ネルフ本部に向かった。
ネルフはサイレンが鳴り響いていて、緊急事態を思わせる様子だった。
ミサトは次から次へと入ってくる電話に対応しながら、速足で本部の作戦室を目指した。
正直、防衛相のお偉いらの電話はどうでもよかった。彼らは実際に戦うわけではないのだから。
ミサトは防衛省からの電話を適当にあしらうと、リツコを捕まえた。
「リツコ、いまどこにいるの?」
「もうとっくに本部にいるわ。徹夜で仕事だったから、寝床は椅子の上だったわ」
リツコは疲れたようなそぶりでそう答えた。
「第三使徒襲来って聞いたけど、詳細はわかる?」
「いまさっきようやく映像を送ってくれたわ。なんだかこれまでとは勝手が違いそうでみんな驚いているわ」
リツコは第三使徒の映像を見ながら、これは一筋縄にはいきそうにないと直観した。
ミサトもようやく本部に到着した。
到着するなり、ミサトの視線は第三使徒を映した中央の大型モニターに向けられた。
「これはまた悪趣味なデザインなことで」
ミサトはそう言いながらリツコのもとに向かった。
「なんだか危なそうなやつね」
「危なそうではなくて本当に危なっかしいみたいね。敵の攻撃パターンを分析しているのだけれど、敵機を認識するなり、約8秒間のエネルギー充填の後に粒子砲で攻撃。これが攻撃射程と範囲と威力」
リツコは別画面に切り替えて、敵の攻撃データをミサトに見せた。
色々な専門記号が並んでいた。しかし、ミサトは一瞬で敵の攻撃力を悟った。
「これマジ?」
「マジみたいね」
「超合金Zでも初号機のATフィールドでも守れないわね」
ミサトはそれを知って難しい作戦になることを予感した。
しばらくして、甲児、シンジ、ボスがそろってやってきた。
「ミサトさん、来たぜ。敵はどこだ?」
「ご苦労さん、三人とも。レイは?」
「さっき電話したら、すぐ来るって言ってたぜ」
甲児が答えた。
「そんで、侵略者どもはどこだわさね? おれのボロットプレッシャーパンチで粉砕してやるってんだ」
「気合十分なのはうれしいけど、残念ながら今回は正攻法では攻略できそうにないのよ」
「どういうことですか?」
シンジが尋ねた。
「中央モニターを見てくれる? リツコ、粒子砲放射の映像を映してくれる?」
「了解」
リツコは映像から一部を切り取って、使徒が粒子砲を放つ瞬間を映像に映し出した。
映像は音がないが、その破壊力は十分に理解できた。周囲の建物が蒸発しているのが見えた。
鉄筋が昇華する温度がどれほどのものなのかは、甲児もよくわかっていた。
甲児はモニターをにらみつけるように見た。
「粒子砲中央温度は太陽の黒点付近と同等と推測されているわ」
「太陽……」
シンジには想像もできなかったが、それhとてつもないことなのだろう。
「この攻撃を受けると、超合金Zの場合、約2秒で融点に到達。つまり、一撃でも受けたらそこで終わりってこと」
「2秒……そいつはシビアな話だぜ」
「おまけにそれほどの威力であるにも関わらず、エネルギーの充填にかかる時間は約8秒。とても人間が相手にできる代物ではないわ」
ミサトの話を聞いていると、白旗を振るほかないように思えた。
「ミサトさん、おれは命がけでも飛び込む覚悟はあるぜ」
甲児は勇ましくそう言った。
「おいおい、甲児。何を一人でかっこつけてやがんだ。おれだって同じよ。ボロットと心中する覚悟よ」
ボスは勇ましくそう言った。
シンジははっきりと命を賭けるとまでは宣言できなかったが、命がけの任務に立ち向かう覚悟はできていた。
「ありがとう。でも、私も無謀な作戦は組めない。最終手段としてはあるいは仕方ないのかもしれないけど」
ミサトはそう言いながらも、有効な作戦を思いついているわけではなかった。
「ともかく3人はいつでも出撃できるように、スタンバイお願い」
「わかりました。ははは、ようやく燃えて来たぜ」
甲児は危険な敵が出て来たことでさらに持ち前の闘志を燃やした。
◇◇◇
シンジはエヴァ初号機に乗るため、初号機のあるエリアに向かった。
今回は本当に命に関わる戦いになるかもしれない。これまでは、なんだかんだ甲児やボスの影に隠れることができた。
しかし、今回は隠れることができない強敵がだった。
シンジはできるだけ強い気持ちで戦いに臨もうと集中していたが、それでも体が震えた。
「シンジ君」
エヴァ初号機のもとに向かうと、科学者の日向が声をかけてきた。
「日向さん、よろしくお願いします」
「いや、突然使徒が現れたと聞いて朝から振り回されたよ」
日向は疲れた様子を見せながら額の汗をぬぐった。
「零号機のスタンバイもあるからな。いつもの2倍の労働力だ。リツコ先輩がいてくれると早いんだけど、新人中心のオペレートだからな」
リツコやベテランは本部に待機しており、エヴァの起動作業は、日向をはじめとする若手が担当していた。
すでにマニュアルが成り立っているとはいえ、新人の仕事はぎこちなかった。しかし、みな丁寧な仕事をしていた。
「零号機もここにあるんですか?」
「ああ、こっちだ」
日向は零号機のもとにシンジを連れて行った。
零号機は初号機の隣で出撃に向けての準備が進められていた。
零号機はいわばエヴァのプロトタイプ。試作エヴァである。初号機はその試作エヴァをもとに細心の軍事テクノロジーを駆使して造られたものだった。
よって、初号機と零号機では、初号機のほうが性能が高い。
しかし、腐ってもエヴァ。零号機も最新の兵器と同等の大きな力を持っていた。
零号機のパイロットは綾波レイ。もともと、零号機は初号機の完成と同時に解体される予定だったのだが、零号機の性能が想像以上に高かったということで、少しの改良を加えて、今日復活を遂げようとしていた。
シンジはレイの姿を発見した。
レイは一人で零号機を見上げていた。誰とも会話することなく、ただただ零号機を見つめるばかりだった。
「ほんじゃ、シンジ君。準備まであと20分ぐらいあるから、あんまり緊張せずリラックスしてて。準備ができたらアナウンスで知らせるよ」
「はい、お願いします」
日向は駆け足で仕事場に戻っていった。
シンジは一人零号機を見上げるレイのもとにゆっくりと歩んだ。
零号機とシンジらの間には防音ガラスがあるので、エヴァ起動の作業音はここまでは届かなかった。
ゆえに、レイのいる場所はとても静かな場所だった。その静寂を乱すのは悪いような気もした。
しかし、シンジはレイのことをもっと知りたいと思った。これから一緒に戦うかもしれないのだから、ちゃんと打ち解けたいという気持ちがあった。
「綾波さん」
シンジが声をかけると、レイはまるでロボットのような動作でシンジのほうに顔を向けた。
「零号機、今日から動くんだね」
「……」
「綾波さんはどれぐらいエヴァの操縦経験があるの?」
「……」
「……」
間が持たないとはこのことか。何を言っても反応が返って来ないから、シンジはこの沈黙に居心地の悪さを覚えた。さすがにレイと向かい合っているのは気まずかったので、シンジは零号機のほうに目を向けた。
「なんだか初号機とは感じが違うね。なんというか……」
シンジは表現に困った。
シンジは初号機を操縦していて、いつも初号機から不思議なものを感じていた。エヴァはロボットとは思えないほど人間らしさのようなものがあって、シンジは初号機のコックピットの中で、誰かに抱きしめられているような安心感をいつも覚えていた。
しかし、零号機はどちらかというと、ロボットに近いように見えた。初号機からは人間を感じたが、零号機からは人間をまったく感じなかった。
「この前、綾波さんがエヴァは人だって言ってたよね。初号機に乗ってて、僕もその意味がわかった気がする。綾波さんも零号機に乗っていると、そう感じるの?」
シンジはそう言って、ちらりと横目を向けた。すると、レイが首を横に振っているのが見えた。
「零号機にも誰もいないから」
「え?」
「零号機には私しかいない」
「……」
シンジにはレイの言ったその意味を理解することができなかった。