スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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33、「あなたは死なないわ」

 ヤシマ作戦の準備は完全に終了し、あとは使徒を迎えるだけになった。

 ゲンドウは冬月と共にネルフ本部から作戦の様子をうかがっていた。

 

「碇、もし使徒迎撃に失敗したら本当に起こるのだろうか、人類の終わり、サードインパクトが」

「それは神のみが知ることだよ。我々には神の決断を受け入れるしかない」

「だが、神に抗うことができるのもまた人間だ」

「抗うことさえもできんよ。すべては神が決める。そうだろう、ユイ……」

 

 ◇◇◇

 

 ミサトはリツコらと共に作戦のための最終調整をおこなっていた。

 ミサトは忙しく電話の対応をしていた。

 

「了解。送電管のレベルは? 問題なし? 1億ボルトを超えるレベルは中央バッテリーの回路を経由させて。え、地盤に難があるかも? そういうことはもっと早く報告してもらわないと困るんだけど」

 

 作戦がまもなくになってからネガティブな情報が入ってくると、自然と声に怒気が混じった。

 リツコらもいくつかのマニュアルパターンを作成した。

 

「先輩、地形の磁場の影響はほとんど無視できると思うのですが、使徒の影響は使徒の気まぐれで大きく変わりそうです。こればかりは使徒に話を伺ってみないとどうにもなりません」

「使徒の行動パターンを確率分布したわ。このグリーンの収束点を想定するしかなさそうね」

「それでもかなりムラがありますね。ほとんど運の勝負です」

「マヤ、あなた今日の運勢はどんな感じ?」

「え? 運勢ですか? 今日の星座の運勢はたしか1位だったような……」

「そう、私は12位。あなたたちは?」

「おれは8位」

「僕は9位です」

 

 科学者たちはみな星座占いを良く確認しているようであった。

 

「なら、マヤ、あなたに最後の選択を任せるわ。この6パターンのうち、どれが最善だと思う?」

「えーっと……」

「何考えてるの。考えたって正解なんてないわよ。自分の運勢を信じて直観で答えるのよ」

「わかりました。では……」

 

 マヤは画面を見ずにパターンの1つを選んだ。

 そのパターンがポジトロンライフルの照準計算プログラムに組み込まれた。科学者も最後は星座占い頼りだった。

 

 ◇◇◇

 

 星空がより濃くなった。作戦まで1時間30分。

 まもなく、初号機に乗り込む時間だった。

 

 シンジは最期の景色になるかもしれないと思って、一人静かに美しい正座を見上げていた。

 

「すごくきれいだな……」

 

 シンジは思わず星空に手を伸ばしていた。

 そういえば、少し前に開かれたパーティーの時に、レイが月に手を伸ばしていたのを思い出した。

 ふと、懐かしい光景と重なった。

 

「この星空、どこかで見たことが……それに綾波さんのあの時の……」

 

 シンジは深い深い記憶の片隅に既視感を覚えた。その既視感がこの星空と重なった。

 

「そうだ……母さんとプラネタリウムに行って、その時に……」

 

 あれはシンジが物心つくかどうかと言った昔のこと。

 シンジはそのときの光景を思い出していた。

 隣に母親がいて、母親がこう言った。

 

「あの満月。とてもきれいね。手を伸ばしたら届きそう」

 

 そう言って、母親は月に手を伸ばして……。

 

「碇君」

 

 深く回想していたシンジの背中に声がかけられた。

 感情のこもっていない語調だったが、その一言でシンジは現実に戻ってきた。

 振り返ると、そこにはレイが立っていた。

 

 レイの姿はバックの星空と調和していて、どこか人間を超越した存在のように見えた。

 シンジはしばらくその姿に見とれていた。

 

「時間」

 

 レイは用件を静かに伝えた。

 

「あ、うん」

 

 シンジは立ち上がった。

 レイは表情をまったく変えることなくきびすを返すと、そのまま幽霊のように歩きだした。

 

「あの、綾波さん」

「……」

「綾波さんは……怖くないの?」

 

 綾波は足を止めて小さく振り返った。赤く鋭い視線がシンジに突き刺さってきた。

 

「今回の作戦、成功率は50%ぐらいだって。それに盾も長くもたないって。死ぬかもしれない。綾波さんは怖くないの?」

 

 レイはすぐには答えなかったが、少し間を置いて尋ね返した。

 

「どうして?」

「え?」

「どうして怖いの? 人はいつか死ぬもの。いずれいなくなるもの」

 

 レイは淡々とそう言った。

 

「……」

「……」

 

 二人はしばらく無言で見つめ合っていた。

 

「僕は……怖いな」

「……」

「だって死んでしまったら、もう何も見ることができない。何も聞くことができない。触れることだってできない……」

 

 シンジは言いながら、これまで出会ってきた色々な人たちのことを思い出していた。

 

 いい出会いもあれば悪い出会いもあった。

 

 父親との出会いはいい出会いだったのだろうか、悪い出会いだったのだろうか。

 死んでしまうと、それを確かめることもできなくなる。

 

 シンジはやはり死ぬことが怖かった。死にたくなかった。

 シンジは視線を落とした。

 この静寂、この瞬間も死んでしまうとなくなってしまう。

 

「あなたは死なないわ」

 

 レイの唐突の言葉にシンジは顔を上げた。

 

「私が守るもの」

 

 レイはそう言うと、シンジの背中を向け歩きだした。

 

 シンジはレイの言葉が、かつて母親が自分に言った同じ言葉と重なるのを感じていた。

 

 ◇◇◇

 

 作戦のために、シンジはエヴァ初号機に乗り込んだ。

 

「どうしてだろう……僕は綾波さんのことをどこかで知っていたのだろうか」

 

 シンジは初号機に乗り込んだ後も、レイのことを考えていた。レイの放った言葉はシンジの胸の奥にしっかりと刻まれていた。

 

「綾波さんはいったい……」

 

 レイは偶然出会っただけのパイロットなのか。シンジは違うような気がした。

 

「ネルフ本部より最後の報告です。これより先、すべての通信システムがシャットダウンされます。パイロットは心して聞きなさい」

 

 初号機の中に機械音が入ってきた。

 

「シンジ君。こっちからの一方的なメッセージになると思うけど聞いてね」

 

 ミサトの声が聞こえて来た。これは録音されたものであるから、ミサトは一方的にしゃべった。

 

「まずは落ち着いて。あなたは国を背負っているけれど、あまりプレッシャーに感じなくていいから。そして、あなたは一人じゃないわ。私もこの作戦に参加しているし、甲児君もボス君も頑張ってくれたわ。リツコも今も忙しく頑張ってるわ」

「……」

 

 シンジはミサトの言葉を頼もしく感じていた。

 

「あなたのお父さんもよ。シンジ君の戦う姿を見守ってくれているわ。だから、みんなの力を借りて頑張るのよ」

「父さんか……」

 

 もし、このまま作戦が失敗して死ぬことになれば、結局父親のことを何も知ることなく終わることになる。

 父親のことなど嫌っていたが、そのような終わり方は嫌だった。

 

 ミサトの伝言が終わると、LCLがプラグ内で擦れ合う小さな音だけの静かな空間になった。

 

「やるか。僕がやらなきゃ」

 

 シンジは強い目になった。深呼吸をして操縦桿を力強く握りしめた。

 

「来た」

 

 シンジは目の前に小さく見えて来た第三使徒をにらみつけた。

 

「でもここまでだ。ここから先へは行かせない」

 

 シンジは第三使徒の威圧感に負けないように睨み返した。

 そのとき、シンジの視界に零号機の姿が見えた。

 

 零号機は初号機の少し前の高いところで超合金ニューZの盾を構えた。

 

「綾波さん……」

 

 シンジは心の中でレイに向けて小さくメッセージを伝えた。

 

「僕も君を守る。一撃で決めてみせる」

 

 シンジはポジトロンライフルを構えた。自国は10時6分。

 ヤシマ作戦が始まった。

 

 いつもよりずしりと重たいポジトロンライフルをしっかりと構えると、第三使徒が照準に入ってくるのを待った。

 

 ネルフ本部では、シンジがうまくやってくれることを見守ることしかできなかった。

 ミサトはスタッフらに再度マニュアルを確かめた。

 

「第一撃を外したときの冷却作業、エネルギーの充填作業。準備はオッケー?」

「はい、ライフルのバックアップも問題ありません」

 

 バックアップは完ぺきだった。完ぺきではあるが、それでもチャンスは最大で2回。2回以内に決めなければならない。

 ミサトは表情に緊張感をにじませた。

 

 その後ろではゲンドウがいつもの調子で見ていた。

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