スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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1話 1年の爪痕 (アスカ編)

 その場所は以前とはまったく違っていた。

 たった1年で、いつもの食堂の光景は変わってしまった。

 

 喧騒も活気もすべてが消えてなくなってしまった。

 

 アスカは空軍基地の屋上から空を見上げた。

 すべてが変わってしまっても、空の色だけは変わらずそこにあった。

 

「もう二度と帰って来ないつもり?」

 

 アスカは独り言を空に向けてつぶやいた。それは風に溶け、悠久の一部となった。

 

「ゼオラ!」

 

 その後、アスカは大きな声で叫んだが、空からは何も返って来なかった。

 

「アラドが泣いてるわよ。この世界には、あんたみたいなもの好きは二人といないわよ」

 

 その後、基地のサイレンが鳴り響いた。アスカは髪の毛を手直しすると、基地の中に戻って行った。

 

 ◇◇◇

 

 ドイツは一年戦争で最も大きな被害を被った国の1つである。

 一年戦争の真っただ中、西ドイツ軍がDCから賄賂を受け取っていたという事実が公表されると、ドイツは分断に進んだ。

 EUはドイツの問題には触れたくなかった。特にイギリスは早くからドイツを見限って、一年戦争に対しては保守的な立場を貫いた。

 

 EUの要だったドイツ軍の分断は戦争を激化させた。

 これまで、ドイツ軍は「EU空爆プロジェクト」に少数精鋭のベテランを送り込み、EU全体でDCの本基地を攻撃していた。しかし、西ドイツの背信行為により、EU空爆プロジェクトが破綻。

 EU空爆プロジェクトはイギリス政府が資金の半分以上を出していたが、イギリスの撤退で資金が足りなくなった。

 

 その後、ドイツ軍は東軍の孤軍奮闘状態となる。

 

 マジンガーZを擁する地上戦は有利に進めたが、ドイツ軍が所有するコロニーは、東西ドイツ軍の間で分与の軋轢が生じ、事実上の内戦状態になる。

 ジオン軍がそのいざこざに紛れて、西軍を支援するようになる。

 

 ここで起こったのが、一年戦争最悪の「ソロモン戦争」である。

 このソロモン戦争では核が使用された。

 

 この戦争では、戦力不足を補うため、多くの若手が投入された。

 

 アスカは、当時オウカの部隊に参加していた。

 アスカは11歳の若さで、ドイツ空軍の一等兵に昇格するほどの実力を持っていて、14歳にはオウカの部隊のエースだった。

 

 ドイツ軍は「国防力向上のため、優秀なパイロットを幼少期より育てる」という方針を貫いている。国際社会の圧力もあったが、自分の身は自分で守るというのがEU全体の風潮でもあった。

 ドイツ軍だけでなく、スイス軍もドイツ軍と同じ方針を取っている。

 

 アスカはそうしたエリートプロジェクトの一環で育成された。

 

 オウカも同じプロジェクトから排出されたパイロットであり、火星衛星のコロニーを防衛する任務を任されていた。

 この部隊は非常に強力であり、ドイツ軍の要でもある。部隊には日本人も多く参加しており、オペレーターの加治リョウジは日本出身であり、現在ネルフで活躍しているミサトとは恋人関係の時代もあった。

 

 加治はもともと日本政府管轄のエージェントであるが、女癖が問題視され、ついには辞任させられる。

 その後はEUのプロジェクトに参加し、そこから優秀さが認められ、火星基地の任務につくことになった。

 

 加治はその女癖の激しさに裏打ちされた色男であり、その結果か、少女たちからは憧れの存在で見られており、特に若手パイロットの管理で高く評価されることになった。

 しかし、その部隊は悪夢のソロモン戦争で、約75名にも及ぶ犠牲を出すことになった。

 

 一年戦争で大車輪の活躍を見せていたジオン軍のアナベル・ガトーが東ドイツ軍の中心コロニーであるLN38に対して、大規模な核攻撃を仕掛けた。

 

 このとき、アスカは火星にいたので、この被害を被ることがなかったが、オウカ率いる部隊はこの攻撃をもろに受けた。アスカの上官にあたるオウカは犠牲になり、ほか、アスカの親友であったゼオラ、ラトゥーニ、プルらの犠牲も確実となった。

 オウカの部隊の一員で助かったのは火星にとどまっていたアスカ、アラド、加治ほか25名。

 残り75名は全滅。

 

 悪夢のソロモン戦争からしばらく、ようやく一年戦争が終結。

 アスカとアラドは地上に帰ることになった。

 

 世界は平和を取り戻すために復興が進んでいったが、アスカの心の空白は取り戻すことができなかった。

 ゼオラもラトゥーニもプルもいなくなった。彼女らは友人であり、ライバルでもあった。

 

 しかし、彼女らはもういない。尊敬していたベテランも多くが戦死して、かつてのドイツ軍はもうなかった。

 

 ◇◇◇

 

 アスカはドイツ空軍の司令官と面会した。

 

「惣流、正式に決定した。エヴァ弐号機のメインパイロットにな」

「本当ですか?」

 

 空白を感じていたアスカだったが、司令官の報告は明るい話題の1つだった。

 

「ああ、よく頑張ったな。すべての分野でNO1。文句なく弐号機のメインパイロットだ。即刻離脱した卑怯者のイギリス軍どもは今頃面食らっていることだろう」

 

 アスカはガッツポーズをした。

 

 EUは一年戦争後、もう一度結束を取り戻した。

 ネルフとEUが合同でエヴァプロジェクトを進めることになった。

 

 そして、零号機、初号機が開発される中で、遅れて弐号機が完成した。

 弐号機は零号機の改良によって造られたので、基盤としては初号機と同じだが、ネルフの色を反映した初号機に対して、弐号機はEUの技術が色濃く反映されたものだった。

 

 EUは弐号機メインパイロットにふさわしいパイロットを審査するために、16週間のテストを実施した。

 対象者は18歳未満の若手パイロット。

 16週間、毎日筆記試験から操縦試験を行い、そのスコアのトップを弐号機のメインパイロットにするということで決まっていた。

 

 アスカはそのテストで総合トップだけでなく、個別でもトップだった。

 以下はその結果である。

 

 百式操縦試験

 

 1位 アスカ  84,7554点(東ドイツ代表)

 2位 ジュドー 82、3847点(オランダ代表)

 3位 シャイン 78,9176点(イギリス代表)

 

 最下位 アラド 14,6645点(東ドイツ代表)

 

 メタスMA操縦試験

 

 1位 アスカ  81,9146点

 2位 さやか  81,2286点(西ドイツ代表)

 3位 ジュドー 78,7439点

 

 最下位 アラド 17,4935点

 

 ゲシュペンスト操縦試験

 

 1位 アスカ  97,6398点

 2位 ジュドー 83,7104点

 3位 アラド  76,8137点

 

 Gブル操縦試験

 

 1位 アスカ  85,7175点

 2位 ジュドー 81,9984点

 3位 シャイン 76,6319点

 

 最下位 アラド 6,1486点

 

 筆記試験 数学、自然科学

 

 1位 アスカ  100点

 2位 ジョン  100点(クロアチア代表)

 3位 スミス  100点(オーストリア代表)

 

 最下位 アラド 8,7613点

 

 

 アスカはEUの名パイロットを次々と抑えて、圧倒的なスコアでエヴァ弐号機のパイロットの座を勝ち取っていた。

 しかし、手放しで喜べない事情もあった。

 ゼオラ、ラトゥーニ、プルが参加していない。彼女らは一年戦争で命を落としていなければ、間違いなくこの試験に参加していた。

 そうなっていると、アスカのライバルとして立ちはだかったはずだった。

 

 天才的射撃手だったゼオラ、天才的反応速度を持っていたラトゥーニ、天才的操縦感覚を持っていたプル。彼女らが不在の試験だったので、アスカは手放しに勝利宣言できなかった。

 

 アスカにとっては競争に勝つことがすべて。勝つことが最大の喜びだった。

 これは幼少期からの英才教育の影響でもあった。それだけに、競争相手がいないということが、アスカにとっては一番心に空白を感じることだった。

 


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