エヴァンゲリオン弐号機の起動実験は多くの者が注目する中で行われた。
エヴァ弐号機はドイツ軍の最高傑作の1つでもある。ドイツ軍としては、この弐号機を大々的に公開することで、再び求心力を高めたいという魂胆があった。
もともと、エヴァンゲリオン計画は日本とEUとアメリカの合同開発として起こった。
25年前に起こったセカンドインパクトを受けて、当時ジオン軍のプレッシャーを感じていたEUが軍事力を強化するために、エヴァンゲリオン計画を持ち掛けた。
セカンドインパクトで最も大きなダメージを被ったのがEUだった。
多くの地域が水没し、汚職が横行する政治腐敗と重なって、EUの連携は事実上崩壊。ジオン軍はその勢いに乗じてオーストリア、クロアチア、オランダを事実上実行支配した。
アメリカは当時、革新党が与党を取っていて、当時の大統領が「EUは途上国をユーロの鎖でつなぐ奴隷的結束だ。我々はEUを同盟国とは見ていない」と発言。これが世界的分断を進め、ジオニズムの隆盛につながった。
その後、革新党が大敗。票田だったカリフォルニア、ワシントンなどで離反する議員が増え、リベラル党が与党へ。そして、アメリカは日本とEUを巻き込んでエヴァンゲリオン計画を発表。
しかし、当時のアメリカはエヴァを実用的な兵器とは考えていなかった。アメリカの政治家や軍のトップにはもとビジネスマンが多かった。だから、実利を重視する思想がはびこっていた。
エヴァンゲリオン計画はお金がかかりすぎたのだ。量産が難しいうえ、実戦導入できるかも怪しい。アメリカはギャンブルを嫌った。
結果、アメリカ、EU、日本の合同計画だったが、ほぼ日本とドイツだけが競い合って計画を進めているだけだった。
日本は零号機をいち早く完成。初号機の開発にも着手した。莫大な資金と優秀な科学者にに恵まれたネルフがドイツ軍を出し抜いてエヴァ計画でリードした。
ドイツも負けじとエヴァ弐号機の開発を進めたが、EU崩壊でユーロが紙切れになっていたうえ、多くの優秀な科学者がアメリカに逃亡したため、開発はおおいに遅れた。
その間に一年戦争が勃発し、ドイツ軍はジオン軍と連日の交戦を繰り広げることになった。結果、弐号機の開発はさらに遅れることになった。
紆余曲折あったが、ついに弐号機は完成。ドイツ軍は「零号機あ初号機よりさらに深くシンクロでき、運動性能も飛躍的に向上」とアピールした。
パイロットもドイツ軍の誇るエリート空軍の新人であるアスカに決定した。その実力とビジュアルで、弐号機の起動実験は最高の注目度となった。
この弐号機の起動実験には、ネルフも注目していた。しかし、ドイツは闘争心からか、ネルフ関係者の入国を停止して締め出した。
そのため、ミサトはネルフ本部から映像で弐号機の実権を視聴することになった。
ちょうど、シンジと甲児とボスも来ていたので、ネルフ本部は小さな映画鑑賞会のようになっていた。
ネルフの大モニターには弐号機の姿が大きく映し出されていた。赤いボディは初号機や零号機と違って輝かしいものに映った。
なお、この視聴会に、ゲンドウは参加していなかった。
シンジ、甲児、ボスらパイロット幾名の集団とリツコらの科学者の集団とミサトらの指揮官の集団と事務スタッフらが幾人か集まっていた。
「運動性は初号機より高いのは間違いないみたいですよ。ドイツもなかなかやりおると言ったところですね」
日向が言った。日向はネルフに入ったばかりの科学者であり、エヴァ計画自体には参加していなかった。しかし、ネルフへの忠誠心は高く、ドイツが優れたエヴァンゲリオンを開発したことにライバル心を感じていた。
「ふーむ、それはおれのボロットより優秀だってのか?」
ボスが尋ねた。ボスは日向とは仲が良かった。もともと、日向はボロット担当であり、ボロットのロケットパンチ導入に貢献した一人だった。
「そりゃ運泥の差だぜ。かかってる金が違うからな。ボロットにももう少し予算が下りたら改造もできるんだけどな」
「これだけ活躍してるってのにちっとも予算が増えないのはどうなってんだい」
「だよな。一回上層部に言ってやりたいもんだぜ」
「おうおう、言ってやってくれよ」
「アホ、平のおれの意見なんて門前払いだよ」
「頼りになんねえな」
日向とボスはぼやぼやと小言を放った。そうこうしている間に、弐号機は起動した。
弐号機はゆっくりと右足を前に踏み出した。
最初はゆっくり歩いて、徐々に小走りになり、やがてカメラが追えないほどに加速した。
「速いわね」
ミサトはエヴァ弐号機の運動性の高さに感心した。
「時速390キロ。うちの二体にはとうてい出せない数字ね」
リツコは部下のマヤと弐号機のデータを取りながら見ていた。
「これ、遠まわしに自慢してるわよね。嫌味な国だわ、ほんとに」
ミサトは壱年戦争時代、ドイツ軍で指揮を担当していたから、連中の性格をよく知っていた。
一年戦争では連携していたが、もともと日本とドイツは犬猿の仲である。
軍事開発競争では、お互いに強く意識しているところがあった。
「でも弐号機は宇宙任務に配属される予定みたいね。私たちには直接影響ないと思うわよ」
「宇宙でもオペレートできますっていうアピールでしょ。どの国も見栄だけは一人前ってことね」
ドイツ軍は弐号機を宇宙での任務につける計画を立てていた。零号機も初号機も地上任務しかこなせない。それに対して、弐号機は宇宙でも通用する。こうしてドイツ軍は求心力を高めようとしていた。
シンジは弐号機の起動実験の様子を釘付けになって見ていた。
「シンジ君、どう? 弐号機の感想」
ミサトがボーっとモニターを見ているシンジに尋ねた。
「すごいなぁ。どうしてあんなに動けるんだろ」
シンジはモニターを見つめたままそうつぶやいた。
「アスカ・惣流・ラングレー。ドイツ軍のNO1のパイロットが任命されてるもの。素人同然のシンジ君とは勝手が違うのはしょうがないわよ」
ミサトはそうフォローしたが、あまりフォローになっていなかった。
少し前まで、操縦のイロハも知らなかったシンジが初号機のパイロットをやっていることの異常さが際立つだけだった。
ドイツ軍では、超一流がパイロットを務めているのに対して、自分だけ父親のコネでパイロットをしているのが少し恥ずかしかった。
「あの、弐号機のパイロットの子……惣流さんという人はどんな人なんですか?」
「とっても聡明な子よ。13歳で一等兵。一年戦争では火星周辺コロニーの大車輪の活躍。絵に描いたような天才ね」
その情報だけでは、いまいち本人のイメージが浮かばなかった。なんとなくおしとやかでおとなしくて上品なイメージを思い浮かべた。
◇◇◇
エヴァ弐号機の起動実験は大成功に終わった。
弐号機の性能もさることながら、パイロットのアスカは弐号機の操縦を始めて1時間で、弐号機を自分の体同然に扱えるようになった。
前転、バック宙も思いのままに披露して、その運動性能の高さを世界中に見せつけた。
アスカは弐号機の操縦を始めて1時間であることを確信した。
「最高の気分。ここが私の追い求めた理想郷だわ」
アスカは弐号機の操縦席こそが自分の目指していた場所であると確信した。
「お母さん、見つけたわ。私の居場所」
アスカはそれを確信すると同時に、みるみるシンクロ率を高め、最終的には約85%にまで到達していた。
起動実験はドイツ軍総出で見守られた。
ドイツ軍は一年戦争後、いくつかの宇宙部隊を地上に帰還させており、空軍本部にはたくさんのパイロットが集まっていた。
アラド・バランガは一年戦争が終わった後、アスカと一緒に地上へと戻ってきていた。
アラドは宇宙に残りたかったが、ドイツ軍の強い命令もあり、アラドは渋々地上に戻っていた。
アラドには戻れない理由があった。
宇宙には大切な人がいるから。
もちろん、それはアラドの希望であり、実際にはその大切な人は「未帰還、死亡」と判定されている。
一年戦争最悪の戦い「ソロモン戦争」では非常に多くの仲間が失われた。
その中には、アラドにとってかけがえのない者が含まれていた。
アラドはその大切な人が死亡したということに納得していなかった。
当時、アラドは何度も上層部に次のように訴えていた。
「お願いします。捜索隊に参加させてください。ゼオラはきっと生きている。あいつが死ぬはずない」
しかし、アラドのその訴えが認められることはなかった。アラドの上官は次のように言ってアラドに言い聞かせた。
「アラド、気持ちはわかるが、受け入れなければならないこともある。パイロットにとって別れはつきものだ」
「しかし……」
「お前が執着するほど、ゼオラも成仏できなくなる。ゼオラの気持ちを考えるなら地上へ戻るんだ。お前が暗黒に縛り付けられていることを、誰も望んでいない。ゼオラもな」
「……」
アラドは渋々火星任務から地球へと戻ってきた。
アラドの大切な人はソロモン戦争で死亡した。死体が発見されたわけではないが、被害状況から、生存の可能性はゼロであると断定されていた。
アラドは地上に戻ってきてから、上の空で過ごすことが多くなった。
今日も弐号機の起動実験を見守ることを忘れ、ぼんやりと空を見上げていた。
気が付くと、集団からはぐれ、アラドは一人、展望台で空を見上げていた。
アラドにはどうしても納得できなかった。
ゼオラが死ぬわけない。
なんの根拠もないが、アラドはまだそれを確信したままでいた。今もどこかで生きていて、いつか必ず地球に帰ってくるはずだ。
しかし、あてがあるわけでもない。それに、自分にできることなど何もない。一年戦争後、ソロモン宇宙はジオン軍の空域になったから、アラドがその空域を探すことはできなかった。
でも、きっと生きている。アラドの勘がそう答えていた。アラドはドイツ軍の落ちこぼれと言われているが、時折見せる勘の良さはベテランからも一目置かれていた。
その勘がゼオラの生存を訴えていた。
アラドは空を見上げ、どこかにいるであろうゼオラに目を向けた。