一年戦争後、日本は初めてジオン国との首脳会談に臨むことになった。
ジオンは国として正式には認められていないが、国連の発表によると、「提示する3つの条件を満たせば、国家として認める」と声明をだしていた。
国連が提示した条件は以下である。
1、諸問題の解決にあたり、国際法に基づく判決を尊重すること
2、すべての軍事情報を開示すること
3、先進主要7か国との首脳会談に応じること
ジオン国の総統として、ジオン国のかじ取りを任されるようになったハマーン・カーンは国連の定めた条件を満たす意向を示しており、その一環で、日本との首脳会談を取り決めた。
日本はアメリカと連携する国であり、あらかじめ米国から首脳会談での確認事項を受け渡されていた。
首相である岸田を中心とする日本政府は一年戦争後、世界初となるハマーンを中心とするジオン政府との首脳会談に臨むことになった。
首脳会談は日本領の火星衛星コロニー「鳩山」で開かれた。
岸田はジオン政府のトップであるハマーン・カーンと握手を交わした。互いに世界平和の理念を尊重するように、報道陣の前では共に微笑みを分け合ったが、当然両政府に思惑があった。
日本政府は一年戦争後のかじ取りとして「日本軍のありよう」を見直そうとしているところである。
特に、岸田は一年戦争時代には外務大臣を務めており、一年戦争の早期終結に向けて画策していたこともあり、「軍事縮小」をテーマにしている。
だが、軍事増強を推し進めたい野党が攻勢をかけてきており、世論もこの不安定な情勢を心配して、野党の意見に賛同する流れがあった。
岸田は世界に世界平和は実現できることをアピールすることを主眼に置いていた。
一方、ハマーンは一年戦争後のジオン国の貧困を解決するために、金満の国である日本から経済援助を引き出す狙いがあった。
いま、ジオン国の貧困は深刻である。
もともと、ジオニズムはさらに資産を増やしたい資本家が差し向けた思想によって生まれた洗脳に過ぎない。株主らは貧者が死ぬことをなんとも思っていなかったので、貧困問題に対して一切の支援をしなかった。
ハマーンはジオン軍の総力をあげて恐怖政治で火星の資源地を占拠して、無理やり貧困問題を解決しようとした。
それに反発する資本家が「ティターンズ」という新しい思想で分裂した。
この混乱を抑えるにはとにかく莫大な資金が必要だった。
首脳会談は次の内容について行われた。
1、日本国とジオン国の平和条約の締結について
2、ジオン国への経済援助について
3、国交の正常化について
4、ティターンズについて
1は岸田の悲願であり、これを実現して再び求心力を取り戻したいという狙いがあった。
しかし、日本はジオン国との二国間だけでなく、米国の顔色をうかがいながらの外交となり、難航が予想された。
については、ハマーンの悲願であり、事前の調整では、日本から約4700億円のODAを受けることでの決着が濃厚だった。
3については、早期に実現できるようにという程度にとどまった。国交の正常化は国連の示す国としての条件が成立しなければ成すことのできないことだった。
4については特に長く議論が行われた。
岸田陣営の官房長官である高市はティターンズへの軍事攻撃を主張するなど過激な態度を取っていた。
高市はもとゼーレの諜報員であり、その後政治家に転身した。
極めて保守的な思想の持主で、一年戦争時代には、ジャブローのジオン勢力に対して徹底した軍事展開を主導した。日本政府も恐れる鉄の女だった。
「ティターンズについてお伺いしたいと思います」
ティターンズの問題は、高市が直接対応した。
「公式情報によると、ティターンズはジオン軍のザビ派主導のもと独立したということになっているようですが、その認識で間違いないですか?」
ハマーンは静かにうなずいた。
「連中が主要7社のオイルカンパニーの利権を一方的に主張してきたのです。条約では軍が6年間は権利を主張できるとしていたにも関わらずです。この独立はもともと予定調和だったと私は考えています」
ハマーンは形式的に答えた。
「その条約についてもお伺いします。主要オイルカンパニーのジオン軍への貸与が一年戦争勃発に引き金になったと言われています。なぜ、戦争が起こるとわかって条約を合意したのですか?」
高市は鋭い質問をした。
「石油利権をめぐっては当初から内戦状態にありました。軍が所有するという建前がなければ、一年では終わらない戦争になっていたと考えています。この合意は最良の妥協だったと認識しています」
「ですが、その合意がソロモン戦争を引き起こしましたよね。私には、意図されたものにしか見えないのですが」
高市は形式的な質疑を越えて踏み込んだ。隣にいる岸田はヒヤヒヤしてやり取りを見ていた。
「高市官房長官、それはあなたの穿ちすぎた妄想に他ならないと思います。ソロモン戦争に、我々のメリットは何もありません。結果を見てもわかること。我々は主要コロニーを多く失ったのです。どれだけの被害が出たか、あなたもよくご存知でしょう」
「私はそれが狙いだと考えているのです。ザビ派に忠実だった「ななはち部隊」がコロニーに残ったままだったのは偶然ですか?」
「……」
ハマーンは目を細めた。
「もう1つ面白い話を聞いています。ソロモン戦争に関与した部隊ですが、公式にはアナベル・ガトー率いるテラーズフリード部隊ということになっていますが、詳細の時系列をたどるとあまりに計画が精密すぎます。一部隊が関与した計画とは思えません」
「我々が支援したとおっしゃるので?」
「あなた方、あるいはその後ろにいる何か。シャドウミラーと呼ばれている非公式に暗躍する部隊があなたのバックにいるという話もあるようですよ」
そう言うと、ハマーンは上品に苦笑した。
「高市官房長官は悪い職業癖を政治に持ち込まれているようです。私はシャドウミラーなどという部隊は一度も聞いたことがありません。良からぬ陰謀論にのめり込み過ぎなのではないでしょうか?」
「では、シャドウミラーは存在しないと確信を持って申し上げられますか?」
「少なくとも、私はまったく存じ上げません。少なくとも、あなたたちの軍が内密に進めていると聞く人類補完計画のような陰謀めいたものはただの1つも存じ上げません」
「……」
「……」
高市とハマーンはしばらく無言のにらみ合いをした。
互いの陣営に、外には出せないいわゆる「陰謀めいた隠し事」があることは間違いなかったが、互いに核心を掴めないままだった。
会談を取り仕切っていた者が時間を告げた。
「そろそろ時間です。本日のところはここまででよろしいですか?」
「ありがとうございました」
高市は時間になるとさっと引いて、取り繕ったとは思えないほどの満面の笑みを浮かべた。
ハマーンは岸田ではなく、高市が日本のドンであることを確信して、重要人物として捉えた。
首脳会談が終わると、ハマーンは側近の者に尋ねた。
「日本政府はシャドウミラーの内容をどこで聞き付けたと推測する?」
「考えられる事実は2つしかないでしょう。1つはシャドウミラー側が日本政府と通じていること」
「それが本流か。もとより、連中を信用していたわけではないが、ヴィンデルは抜け目のない男だ」
「もう1つは我々の中に裏切り者がいて、リークした可能性です」
「身内の錆か。それも否定できぬことだな。人間とは放置すれば錆びつく生き物だ」
ハマーンはちょうど目の前に見えた火星を見つめた。
「シャア、お前は敵か味方か?」
ハマーンは誰に問いかけるわけでもなく、最大の疑問をつぶやいた。
◇◇◇
ドイツ軍は火星の軍事増強を決め、いくつかの主要部隊が宇宙に上がることに決まった。
その中には、若手中心で構成される04小隊も含まれている。
04小隊を率いるマリは宇宙行きを前に、新しい部隊の様子を確かめるために、シミュレーション訓練を実施した。
ちょうど、エヴァンゲリオン弐号機とヒュッケバインMKⅢがシミュレーション実装されたので、本格的な訓練ができるようになった。
実戦とシミュレーションは違う。
しかし、テスラが開発したVGと呼ばれるシミュレーションマシーンはかなり実戦に近い訓練を可能としており、一年戦争時も「シミュレーションスコアと実戦の実績はおおむね一致した」と成果を発表している。
なので、シミュレーションでスコアが上がれば、それはイコール実戦での活躍につながることを意味した。
アスカは完成したばかりのエヴァのシミュレーション機に乗り込んだ。
感触を確かめてみる。
ほぼエヴァ実機と同じ構造であるが、アスカには明確な違いを感じた。
「うーん、何かが違うわね」
アスカは何度も手の感触を確かめたが、違いは顕著だった。それは物質的なものではなく精神的なものだったのかもしれない。
アスカはエヴァ弐号機のコックピットに座ると、自分の居場所そのものというような安らぎを覚えた。
しかし、シミュレーションのレプリカコックピットからはそれほどの感覚はなかった。
「アスカ、感覚はどう?」
マスターキーからマリの声が聞こえて来た。
「なんか違和感。しょせんレプリカね」
「そんなはずないでしょ。0コンマ1ミリまで精密に同じように造られたって聞いてるのよ」
「でも違うのよ。魂が奮えるような気分にならないもの」
「なにあんた、いっつもそんな気持ちになってたの?」
マリは弐号機のサブパイロットなので、昨日弐号機の起動実験を経験した。しかし、魂が震えるような気分は経験していなかった。
アスカはよほど弐号機との相性が良かったということなのだろう。実際、アスカのシンクロ率は82%、マリは61%だったので、アスカのほうが弐号機にはかみ合っていた。
なお、マリはヒュッケバインMKⅡのシミュレーションに搭乗していた。新たに追加されたヒュッケバインMKⅢを操るアラドにも確認を入れた。
「アラド、新しいおもちゃの感触はどう?」
「ああ、マリ姉さん、すげえよMKⅢ.まるで翼が生えたみたいなんですよ」
「翼ねー。アスカといい、あんたといい、ファンタジックな世界に住んでんのね」
そんな新機を加えて、簡単な訓練が行われた。
想定は、コロニーP25に接近するモビルスーツの部隊を迎撃し、コロニーを防衛すること。
こうしたシミュレーションは部隊で何度も繰り返しているので、04小隊ともなれば容易にこなすことができる任務だった。
問題は、エヴァ弐号機やヒュッケバインmkⅢがどれぐらい機能するかだった。
マリは敵を索敵すると、部隊に通達した。
「各機に告ぐ。クラリオン4、レイモーン7、オーカス7、カラストル6 レイズ7……」
マリは隠語で作戦を通達した。
「イエッサー、突っ込むぜ」
アラドは気合を入れて目の前をにらみつけた。アラドは猪突猛進で回りが見えないから、レーダーと眼前を同時に見るようなことができなかった。だから、一度目の前に集中すると、レーダーが視野から消えた。
しばらくして、さっそくアスカから文句入った。
「コラ、バカアラド。ちゃんとレーダー見てんの?」
「あ、わりぃ」
アラドはレーダーに目を移した。エヴァ弐号機と連携して、敵機を右に誘導するはずが、自機だけが一方的に前に出てしまっていた。
「すまん、アスカ。気合入れすぎちまった」
「ったく、これだからアラドと組むのは嫌だって言ったのよ」
アスカはアラドと違い、レーダーと眼前を同時に見ることができた。加えて、アスカは未来の予想配置を複数頭に思い浮かべているというかなり高度な操縦ができた。
しかし、そんなアスカもアラドの暴走だけは予測できなかった。
「もっと右、右つってんのよ。アラド、右!」
「わかってるよ。でも、敵は想定より高度を取ってきてんだよ。このほうが追いやすい」
「あんたが追わなくていいのよ。あんたは囮なんだから。自分の仕事がなにかわかってんの?」
「ごちゃごちゃ言われてもわかんねえよ。敵を倒せばいいんだろ。もう無になる」
敵との距離が縮まると、もう無線でやり取りするだけの余裕はなかった。
アラドは無になって目の前のゲルググに飛び掛かって行った。アラドはヒュッケバインMKⅢに備え付けられた新兵器、ファングスラッシャーを装備した。
「ゴミアラド、挟み撃ち食らうことも想定できないの? このバカ」
アスカの明晰な頭脳が想定した局面とは異なり、アラドが無駄に突っ込んだので、すべてが台無しになった。
それでも、アスカはその中で出来ることをした。
アラドが無駄に突っ込んだせいで、案の定、アラドは劣勢に立たされた。
ゲルググとズサなど3機に好位置から狙われる羽目になった。
「やべえ」
アラドは無我夢中に振り切ろうとしたが、敵のAIもまずまず優秀で、しっかりと追尾してきた。
ズサのミサイルランチャーがアラド機を捉えようとした。
アラドはやられたと思った。
しかし、次の瞬間、輝くベールがミサイルランチャーを吹き飛ばした。
アラドと敵機の間に割り込んだエヴァ弐号機が展開したATフィールドが敵の攻撃を防いでいた。
しかも、ATフィールドの展開が巧みで、アスカは縦に長いフィールドを展開していた。そのため、敵は極端に高度を下げなければ、ATフィールドに突っ込んでしまう状況に持ち込まれた。
結果、敵は優勢を失った。
「おっ、生きてる?」
アラドが振り返ると、そこには自機を守ってくれたエヴァ弐号機の姿が見えた。
実戦ならば、アスカの援護防御がなければ死んでいてもおかしくなかった。
「アスカ、サンキュー。マジで死ぬかと思ったよ」
「あんた……これに懲りたら二度と暴走するんじゃないわよ……」
アスカはいつもよりもずっと顔に疲れをにじませた。
アラドの介抱は、暴れ者の子供の面倒を見るよりはるかに神経を使った。ある意味で、良い訓練になるのかもしれない。
その後、弐号機は想定以上の実力を発揮した。
アスカはATフィールドを巧みに攻撃的に使い、敵機を順に撃墜していった。
ATフィールドは敵の攻撃を防ぎ、敵を倒す力にもなり、万能性を発揮した。
マリはその様子を見てこうつぶやいた。
「あの子一人いれば、軍隊はいらないわ」
エヴァ弐号機のスーパーロボットぶりはそれほどに優れていた。