スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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11、ソロモンへの思い

 マリはp25の司令官と面会して、任務内容の説明を受けた。

 マリは一年戦争の前には、p25で任務に当たっていた。当時は新兵として任務についていたが、今回は小隊長として参加することになる。わずかな間の大きな出世だった。

 

 司令部の面々も当時と変わっていた。

 一年戦争の最も大きな局地戦である「ソロモン戦争」で3人の司令官が亡くなり、6人が責任を取って役職を辞任していた。

 その後に入ってきた司令官はいずれもキャリア組だった。キャリア組は絵に描いたような偉そうな態度の者ばかりだった。

 

「というわけだ。ソロモン航路の修復が完了するまで、君たちには宇宙船の護衛を任せたい」

「ソロモン17線のすべてですか? 17線を04小隊だけで護衛するとなると、数がまったく足りないと思うのですが」

「私は17線の護衛をしろと言ったんだ。君は「了解しました」と答えるだけでいい。兵士の分際に意見する権利があると思っているとは、しつけがなってないな」

「……」

 

 マリは目を細めた。司令官はふんぞり返って、航路地図を指さした。

 航路地図には多くの宇宙航路が縮図になっていて、司令官はマリの部隊にソロモン17線という、最も大きい航路の護衛を言い渡した。

 ソロモン17航路は火星と地球および、ドイツ領最大のコロニー「c5」をつなぐ、ドイツにとっては大動脈となっている。

 少なくとも、200機以上の護衛をつけなければ十分に対応することができないが、マリの部隊は25機で構成されている。明らかに数が足りていなかった。

 

「17線には毎日17機の輸送機が通過する。しっかり守ってくれたまえよ。万一、敵の攻撃で輸送機が大破ともなれば、君の責任だよ。しっかりやりたまえ」

「意見させてください」

「ならん」

「04小隊で対応できるのは少なくとも2ブロックまでです。我々だけで17線を担当するのは不可能です」

「ならんと言っただろう。いいかね、兵士は黙って司令部の言うことを聞いていればいいんだ」

「机上の空論で無理難題をぶつけられても困ります」

「まったく最近の若い者は目上に対する敬意も知らんのか。一年戦争は終わったんだ。もうならず者も影を潜めている。そんなに多くつけなくても問題ないという我々の判断だ。わかったかね?」

 

 司令官は面倒くさそうにそう言った。

 

「報告ではここ3か月で4件の海賊被害が出ていますよね? それでも影を潜めたと言えるのでしょうか?」

 

 マリは反抗的に質問を繰り返した。

 

「兵士の分際が我々の決めたことに文句を言うのは筋違いだ。ともかく、君たちは護衛をすればいいんだ。わかったかね? こっちは少ない予算でやりくりしているんだ。君たちにはわからんだろうがね?」

「少ない予算ですか……今年度から予算が15%増額になったと聞きましたけど、その資金はどこへ消えたのでしょうね」

「なんだね? 我々が私的に使ったとでも言いたいのかね?」

「そこまでは言ってません。図星だからってムキにならないでください」

「ちっ、いいかね、我々は人事のすべてを掌握している。あまり反抗的だと、君の席はないぞ」

「雑巾がけ係ですか? それも悪くないですね」

 

 司令官はイライラを募らせていた。

 しかし、それでもマリは遠まわしに反抗的な態度を続けた。

 

「ともかく、今日PM9時から任務だ。ったく、生意気な小娘が。さっさと行け」

「それは失礼しました」

 

 何を言っても司令部の意向が覆らないことは、マリもよく知っていたから、そのまま部屋を後にした。

 

 ◇◇◇

 

 マリの部隊に任された任務はソロモン航路17線の護衛。

 ソロモン航路17線は主にエネルギー資源を運搬する輸送機と、民間会社が扱うモビルスーツを運搬する輸送機が通過する。

 

 先物市場は歴史的な資源高を記録しており、その影響でエネルギー資源は海賊たちの格好の獲物になっている。

 高価なモビルスーツなどは、管理が大変であるし、売り手を見つけるのが難しい。

 

 正規の軍事会社は、政府のロット番号がついたモビルスーツしか扱うことができない。

 なので、モビルスーツは裏取引のルートを持っていないと、金にならない。

 対して、エネルギーは世界中で同じだけの需要があるし、モビルスーツのように厳密に管理されていない。

 

 輸送機の襲撃事件は世界中で常に起こっている。

 宇宙航路のように、広大な世界ではレーダーによって捕捉できる範囲に限りがある。

 そのため、海賊らはいずれも宇宙を飛び交う輸送機を狙う。

 

 輸送機は戦闘用ではない。最低限のバルカン砲を備えているだけで、モビルスーツに狙われるとひとたまりもない。

 輸送機を人質に取られると、輸送機に積まれている資源もさることながら、その人員が盗られてしまうのが一番大きな被害だった。

 

 かつて、ロシア軍指導者の「アルゼンサワー」はこう言っている。

 

「核兵器は星を1つ滅ぼす。人は人類すべてを滅ぼす」

 

 人の恐ろしさを示したその言葉の通り、人は最大の兵器だった。

 科学者が寝返れば、技術が奪われる。

 だがそれ以上に恐ろしいこと、人が失われると、人の信心までも奪われることだった。

 

 国を想う気持ちに篤い愛国者も、恋人が拉致されたとたん、国を裏切ることもある。

 実際に、たった一人の愛のこじれによって滅んだ国は歴史上にいくつか存在した。

 

 ところが、こうした攻撃が効かない連中もいる。

 1つがミケーネ帝国だ。

 

 ミケーネ帝国の輸送機はAI操縦と奴隷として拉致した人間に稼働させている。

 しかも、輸送機が攻撃を受けると、自動的に自爆するようになっている。

 

 こうした非人道的な国家には、海賊らも近づかない。もっとも、こうした非人道的な国家から多くの海賊が生まれている。

 

 マリはこうした海賊らから輸送機を守る任務を任された。

 宇宙に上がってきてすぐに任された大役だった。

 

 しかし、航路全体を守るには数が圧倒的に足りない。

 少なくとも3部隊は必要になるところを、1部隊だけで任されることになった。

 

 司令官は平和ボケしているのか、護衛予算を大幅に削減し、代わりに私腹を肥やすために、意味のない天下り組織をたくさん作るようになった。

 そのしわ寄せを兵士らは負わされることになった。

 

 航路は24時間稼働している。そのため、すべての輸送機を守るためには、通常勤と夜勤組に分けて、対応する必要がある。

 マリの部隊は25人で構成されているが、軍の法律で、操縦任務にあたる兵士は1週間に4日までしか任務に当たってはならず、1日に11時間を超えて任務に当たってはならないという規定がある。

 

 そのため25人全員で同時に任務に当たることはできない。部隊を分けて、シフトを組む必要があった。

 一応、p25にすでに配属されていた兵士から6人が追加で参加してくれるということで、31人で17線の護衛に当たることができるようになった。それでも数は全然足りていない。

 

 マリは司令部にシフト表を提出した。

 

 部隊は5班に分けられ、アスカとアラドは第1班に割り振られた。

 夜勤は絶対に無理と申し出た8人はいずれも通常勤務のみで第2班に割り振られ、マリは第3班に入った。

 

 ◇◇◇

 

 9時。

 さっそく、第1班は護衛任務のために出撃することになった。

 アスカは任務に対していつもポジティブで、出撃の前はいつも笑顔でウォーミングアップをした。

 

「アスカ、元気だな。酔いはねえのか?」

 

 アラドがアスカのウォーミングアップを眺めながら尋ねた。

 

「あんたがとろいだけでしょ。せいぜい足を引っ張るんじゃないわよ」

「ああ、頑張るよ」

 

 アラドはまだ具合が優れなかった。一応、健康診断では異常がなかったので、今回の任務につくことになった。しかし、気力は20%減と言った感じだった。

 

「もう1つ憂鬱なのは、ソロモンの仕事ってことだな」

「なんで?」

「いやだって……」

 

 アラドは頭を抱えて顔を落とした。ソロモン戦争は、アラドにとってはトラウマの1つだった。

 この戦争で多くのパイロットが亡くなった。エース格だったオウカ、ゼオラやラトゥーニなど将来のエースパイロット候補らが命を落としたということになっている。

 アラドはこの戦争の時、火星に残った。実は、アラドの決断しだいでは、ソロモン戦争に参加することもできた。

 

 当時、アラドは補給機を担当していた。ソロモン戦争は大きなコロニーを経由するので、補給機は1機だけ参加ということになっていた。

 アラドは補欠だった。しかし、当時の司令官は「コロニーでの補給がままならない場合のため」として補給機をもう1機加える予定だった。

 だが、アラドがまだ新米であったことなどで、「任意参加」となった。

 そのとき、アラドは参加しなかった。

 

 理由は……。

 

「あんた、足手まといなんだからお留守番してなさいよ」

 

 ゼオラのその言葉で、アラドは参加しないことを決めた。

 たしかに、自分が出撃しても、足手まといの可能性が高い。補給任務も成功率3割というのが当時のアラドだった。

 

 しかし、もし参加していたら、自分の力でゼオラたちを守れるチャンスがあった。

 もっとも、当時のアラドに何かできたというわけではない。コアブースター1機で名将ガトーが乗るガンダム試作弐号機の核攻撃を阻止できたとは思えない。

 アラドもろとも巻き込まれて終わりというのが関の山だっただろう。

 

 それでも、アラドは後悔していた。

 

「バカね、あんたは」

「え?」

 

 アラドが顔を上げると、そこにはアスカの姿があった。

 

「仇を取るチャンスなのよ、これは」

 

 アスカの目は真剣だった。

 ソロモン戦争の悲劇は、アラドだけでなく、アスカにとっても悪夢だった。

 アスカはアラドとは対極的に、ソロモンの仇と捉え、この任務に本気だった。

 

「もう一度デンドロビウムが現れたら、私が討つ、絶対に」

「……」

 

 アラドは死神のような目つきだったアスカにゾッとした。

 もう一度、ソロモンの宇宙に試作弐号機が現れることはないだろう。しかし、アスカはそのときは、決して許さないという思いを闘志に込めていた。

 

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