スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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12、秘密

 p25コロニーの宇宙ステーションに輸送母艦機が到着したので、アスカとアラドは護衛任務に当たるため、輸送母艦機に乗り込んだ。

 それなりに見知った者が搭乗員として乗り込んでいたので、アスカとアラドは挨拶のために、搭乗員の何人かと面会した。

 

「アスカ、久しぶりね」

「さやか、あんたいつの間に輸送プロジェクトに入ってたの? つーか、連絡しなさいよ、そういうことは」

 

 アスカは旧友のさやかと輸送任務で偶然再会した。

 さやかはネルフ傘下の光子力研究所の弓所長の一人娘であり、ドイツの科学研究アカデミーに留学していた。

 留学前は軍に所属していたので、士官という立場でアカデミーに登録された。

 

 その間に一年戦争が勃発し、日本とドイツは共闘していたので、さやかはそのままドイツ空軍で補給任務に当たるようになった。

 一年戦争が終わると、アカデミーに復学せずにそのまま復旧任務に参加するようになった。

 日本に戻る目途が立たないまま、復旧任務に明け暮れ、最近は輸送機の搭乗員に参加していた。

 

 一年戦争の時代、さやかは地上任務に参加したため、アスカとは作戦を共にすることは一度もなかった。

 さやかはミサトが指揮するマジンガー部隊として任務に当たった。

 

 戦争が終わった後に一度だけ面会して、それ以降は今日まで面会する日が来なかったが、今日偶然再会することになった。

 

「緊急招集の形だったから、連絡できなかったのよ」

「で、どうなの。こっちの任務は? 輸送任務はハードだって聞くけど」

「本当にすごくハード。明け方まで3往復」

「夜勤で3連。相当ブラックね。軍のほうがシフトは恵まれてるわね」

 

 アスカとアラドは軍の規定が厳しく適応されるから、長時間労働は避けられるが、法的拘束力の低い民間事業はかなりハードな労働日程が組まれていた。

 労働時間的には苦しいが、民間事業の場合は、軍人に比べて命の危険にさらされる可能性が少ないという利点がある。

 

「アスカは弐号機で出るの?」

「そうよ。まあ、デビュー戦って言ったところね」

 

 エヴァ弐号機は今日初めて実戦に出ることになっていた。

 そのため、輸送機のほうも弐号機を想定した形に改良が加えられており、搭乗員の任務が増えてしまうという副作用があった。

 

「マリ少尉は?」

「マリは明日の明け方。一緒になる可能性はあるわね」

「アラド君は?」

「あいつはただのエキストラだから気にしなくていいじゃないの」

「誰がエキストラだ、コラ」

 

 噂をしていると、アラドもアスカの後ろにやってきていた。

 

「アラド君と一緒の任務なのね。良かったじゃない。同級生が一緒で」

「いいわけないわよ。こいつ、足手まといにしかならないんだから」

 

 アスカはアラドには厳しかった。

 その肝心なアラドはまだ宇宙ボケが抜けず、今でも気分が悪そうだった。

 

「アラド君も久しぶりね。具合悪そうだけど、大丈夫?」

「闘志は燃えている問題ない。ところでさやかさんはアフロダイで出るんですか?」

「私はただの輸送機搭乗員だから見てるだけ。いざというときはちゃんと守ってね」

「任せてください。おれのMKⅢがシャア・アズナブルだろうがなんだろうがキリキリマイにしてやるさ」

 

 アラドは格好つけてそう言った。

 

「バカじゃないの。へぼのくせして」

 

 アスカがすぐに横やりを入れた。

 

 ◇◇◇

 

 護衛の機体が搭載されると、輸送機はステーションを離れ、地球衛星のステーションに向けて発進した。

 母艦機が発進すると、遅れて輸送機が次々と通過していった。

 これらの輸送機は地球に資源を提供している。今日の地球人の豊かさはこうした輸送機によって支えられていた。

 

 この輸送機を守る任務は最も重要な任務ということができた。

 アスカとアラドはいつでも緊急出撃できるように、コックピットで待機した。

 敵が現れたらすぐに出撃して、輸送機を守る必要がある。

 護衛に失敗すれば、輸送機が敵機に撃ち落されるか奪われるかしてしまう。その場合、経済損失も人員喪失も計り知れない。

 

 ドイツ軍も輸送機の護衛を最優先任務として、エヴァ弐号機を送り込んでいる。

 この任務は決して失敗が許されなかった。

 

 とはいえ、現場としてはそうそう海賊行為が起こることはない。

 いくら、海賊行為が増えているとはいえ、毎日のように起こっているわけではない。

 

 アスカもアラドも気合を入れて任務を開始したが、敵が現れることなく2時間が経過した。集中力を研ぎ澄ましていたアスカもあくびが出るような時分になった。

 レーダーとにらめっこしていても何も起きない、ただ座っているだけの任務。ある意味、拷問的な任務である。

 

「何も起きないわね」

 

 アスカがつぶやいた。

 

「いいことじゃねえか、平和で」

 

 アラドも眠そうにしていた。

 

「こうして座っていると眠ってしまいそうだわ」

「アレックス中尉も言ってたろ。軍人は睡魔との戦いだって」

「あんた、カフェイン剤飲んだ?」

「おれ、そういうのあんまし効かないからな。気合で乗り切るようにしてる」

 

 アスカはカフェイン剤を放り込んだ。エヴァ弐号機のLCLは初号機のものと違い、脳神経を刺激する作用が強いとされているが、アスカは弐号機の中に心地よさを感じているのか、あまりそういう作用を覚えなかった。

 

「アスカ、しりとりでもするか?」

「猫」

「さっそく始めるのかよ。コアラ」

「ラッコ」

「鯉」

「いりこ」

「こんぶ」

「ぶりっ子」

「こ、こ……こいのぼり」

「はい、あんたの負け。いま妥協したでしょ」

「ああ? そっちもぶりっ子とか卑怯な手を使ってただろ。ぶりと言わずぶりっ子とかわざわざ言いやがって」

「細かいことグダグダ言ってんじゃないわよ。もう一度。犬、あんたのことよ」

「誰が犬じゃ!」

 

 夜はとても長くなりそうだった。

 

 ◇◇◇

 

 午前0時を回ったころ、加治は留置所に忍び込んでいた。

 留置所の警備もそれなりに厳しいが、身内の加治は警備の手を知り尽くしていたので、簡単にかいくぐることができた。

 

 ラミアは足音に反応して目を覚ました。

 足音だけで、誰が近づいてきているのか理解することができた。

 

 ラミアが体を起こして待っていると、拘留施設の部屋が開いた。

 拘留施設は牢屋にはなっていないが、それなりに厳しく管理されている。

 加治は部屋を開くと、その先にいたラミアに挨拶をした。

 

「やあ、約束どおり来たぜ」

「……」

「約束だったろ。今宵は美しい夜景を共に見ようと」

「……おほほほほほ」

 

 ラミアは恥じらうように、しかしおかしな笑い声をあげた。

 

「本当に来ましたことですわね。冗談かと思っていましたことですわよ」

 

 ラミアはおかしな敬語を使った。

 

「おれはレディとの約束は必ず守る男なのさ。さあ、行こうぜ」

「わたくしを外に連れ出したら、犯罪に該当するのではないことでございますか?」

「法なんて関係ないさ。おれたちの未来は何人も止めることができないのさ」

 

 加治はそう言うと、小さな明かりをつけた。加治のゆるい笑顔が浮かび上がった。

 とても軍隊の施設で働いている者が見せる笑顔ではなかった。ラミアはその笑顔を不思議そうに見ていた。

 

 加治はラミアを連れだすと、施設の屋上にやってきた。

 

「見ろ、ここからの夜景は美しいぜ」

 

 加治が示した先には、本当に美しい夜空が広がっていた。

 加治が言うように、美しい夜景だった。宇宙のすべてを一望できるような、そんな空間になっていた。

 

「前は軍のすけべたちがお忍びに利用してたんだが、いまは利用が禁じられちまった。だが、おれたちには関係ないさ」

「……」

 

 ラミアは加治と並んで、夜空を見上げた。

 このとき、ラミアは「夜空が美しい」と感じた。夜空を見て美しいと感じたことはこれまでなかった。そのような感情は任務に不要だからインプットされていなかった。

 しかし、いまははっきりと夜空の美しさを感じることができた。

 こうして、夜空を見上げていると、自分が何の任務で地球にやってきたのかもすべて忘れてしまいそうだった。

 

「あなたは私の素性を探るために色々と画策しているのでございますことでしょう?」

 

 ラミアが尋ねた。加治はラミアのおかしな敬語にも慣れて、むしろそれをチャームポイントと捉えるようになっていた。

 

「まさか。すべては夜空よりずっと美しい君とのひと時を得るための画策さ」

「嘘がお上手なことで」

「嘘じゃないさ。君と巡り合えた運命に感謝しているよ」

「あんまり女の勘を見くびらない方がいいですことよ。私から情報を探り出そうとしているのは見え見えのことですわ」

「そうだな、君のことはもっと知りたいと思っている。例えば、君のキスの作法とかベッドでの仕草とか」

 

 加治はそう言って、ラミアを見つめた。

 ラミアはそれもすべて、加治の演技だと理解していたが、それでも特別な感情を覚えてしまった。

 ラミアはごまかすように笑みを浮かべると、その後、加治のほうに真剣な目を向けた。

 

「いいですわ。あなたが一番知りたがっていることを教えてさしあげますでございますわ」

 

 ラミアはそう言うと、

 

「火星衛星「ラフレシア」の情報ネット「シャドークロ―」。ファイアーウォールのパスワードは……」

 

 ラミアは加治に顔を近づけると、耳元でパスワードを伝えた。

 

「それからもう1つ……」

 

 ラミアは加治から離れると、背中を向けた。

 

「これ以上、私に近づくな。死ぬことになるぞ」

「……」

「できれば、お前を殺したくない。だから、近づくな」

 

 ラミアはそう言うと、拘留施設に自分の足で戻っていった。

 加治は何度かうなずいた後、もう一度夜空を見上げた。

 ちょうど、かつて誰かが自分自身に言った言葉を思い出した。

 

「別れましょう。あなたを殺したくないから」

 

 それは軍関係者のような野蛮な女性が放つ特有の優しさだったのかもしれない。

 

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