スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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16、真実の筋道

 アスカは嫌な夢を見て目を覚ました。

 宇宙に来て2週間が経過していたから、そろそろ脳が宇宙に順応してきた。

 宇宙に来てしばらくは夜勤シフトということもあり、短い仮眠を断続的に暮らす過酷な体制だった。

 勤務中はカフェインを多投していたから、余計に睡眠に無縁だった。

 

 ギガノス帝国のネオホンコン侵攻を受けて、部隊が待機を命じられると、休む時間も長くなった。

 結果、夢を意識する機会も増えた。

 

「嫌な夢……」

 

 アスカは頭を押さえた。顔を上げると、コバルトの宇宙が見えた。

 ちょうど、その宇宙を放浪する夢だった。もがいても前に進めず、時間が経つに連れ、もといた場所に戻れなくなるような恐怖心を覚える夢だった。

 

 そして、夢の終末は最悪だった。

 はるか遠くの宇宙へ流されたアスカは誰かに巡り合う。

 かつての旧友、ゼオラだった。

 

 アスカはホッとした。ずっと長い間孤独の中にある夢だったから、自分の知った仲間がいることは最大の安心だった。

 アスカはゼオラに手を伸ばした。

 

 ゼオラは微笑んだ。

 が、しかし……。

 

 ゼオラは銃を構えて、アスカに発砲した。

 アスカは胸に銃弾を受けた。体全体が締め付けられるような感覚、痛いのかそうでないかもわからない。

 体が1点に吸い込まれ消滅していくような感覚。

 

 最後にもう一度見上げる。

 目の前にゼオラはいなかった。そして、視界は暗転した。ここが死の世界なのかと思った。

 

 そして、アスカは目を覚ました。

 かつての友人に撃たれる夢。これ以上の悪夢はなかった。

 

 悪夢の影響か、アスカは眠るのが怖くなった。

 しかし、暗闇にたたずんでいると、気分が苦しくなったので、アスカは部屋の備え付きのパソコンを立ち上げた。

 

 アスカは今回の戦争の動向を注視するため、いくつかの情報サイトをお気に入りに入れていた。

 上から片っ端にチェックした。

 

 戦争はアスカが寝ている間にも進み、ギガノス帝国の攻撃で新たにネオホンコンのコロニーが陥落したそうであった。

 犠牲者は推定で、ネオホンコン側1775人、ギガノス帝国側1120人。

 

 ネオホンコンの抵抗も十分に機能しているようであった。

 地上戦では、シャイニングガンダム、ドラゴンガンダムの活躍もあり、南部「小低」への侵攻を進めていたギガノス軍が撤退したという。

 

 アスカは一通り情報を確認した後、衛星動画を公開している個人サイトを見つけた。

 戦争の様子を映した動画はだいたい報道規制がかかるものだが、違法な個人サイトはどこかからハッキングしてきて自サイトで公開していた。

 

 その動画は約4時間映されていた。ドラグナーの機動部隊がコロニーの対空システムを破壊する作戦の様子をあらゆる角度からとらえていた。

 

 アスカは頭からその動画を見た。

 ドラグナーで侵攻するギガノス軍には、支援に乗り出しているティターンズの機体もいくつか見られた。

 ティターンズは木星連合の支援を受けているのか、かなり改造が加えられたアプサラスを戦線に展開していた。

 

 アプサラスのメガ粒子砲が3機を一挙に巻き込むシーンが映っていた。

 

「あら、お見事」

 

 アスカは姿勢を変えて、画面に見入った。

 敵ながら、かなりの砲撃能力だった。ちょうど、敵が一列に並ぶであろうタイミングでメガ粒子砲が放たれていた。

 しかも、ただ一直線に並ぶだけでは巻き込めない。距離的に、メガ粒子砲の到達時刻は11秒先になる。

 11秒あれば、機体は安全圏に逃れられる。

 

 このアプサラスは相手の機体が岩礁に入り、身動きが取れなくなった場所に整列した瞬間を虎視眈々と狙い、一掃していた。

 

「……」

 

 アスカは何かに気づいて動画を撒き戻した。

 もう一度アプサラスのメガ粒子砲を確認した。

 

 さらにもう一度。

 もう一度。

 アスカは繰り返し、アプサラスを見つめた。

 

 アプサラスの砲台角度の調整の仕方、そして砲撃のタイミング。

 それらの癖が何かに引っかかった。

 アスカはさらにもう一度アプサラスの砲撃を見て、思わずつぶやいた。

 

「ゼオラ……?」

 

 まさかと思った。そんなことがあるわけないと。

 むろん、確信したわけではない。ただ癖が似ているというだけだ。

 アスカは動画を一時停止して、過去の記憶を探った。

 

 ゼオラとは何度もシミュレーションで立ち合っている。

 長距離の砲戦では何度も激戦を繰り広げて来た。

 

 ゼオラの狙った敵を撃ち貫く能力の高さをアスカはよく知っていた。

 見越し撃ち、乱れ撃ち、追い撃ち。

 ゼオラは何をさせても徹底しており、いずれ敵を追い詰めて仕留める。その射撃の嗅覚は軍の中でも突出したものだった。

 

 目の前のアプサラスはゼオラの癖である徹底した容赦ない砲撃を展開した。

 後に、アプサラスは相手機体を多く撃ち落し、結果的に、コロニーの防衛線はがら空きになった。

 

 そこへドラグナー部隊が攻め込んでいった。

 

「……」

 

 一度ゼオラではないかと目星をつけると、そうとしか思えなくなった。

 そして、ゼオラだと思うと、他の機体にも自然と意識がいった。

 

 とてつもないドラグナーが一機意識された。

 レザーソードの扱いがあまりに巧みだった。接近戦になると、すべてのモビルスーツを蹴散らして行く。

 紙一重で敵の攻撃を回避し、バルカン砲はシールドで防ぎ、強引に間合いを詰める。

 攻撃的だが、突出した反射神経で敵をかわすその神がかり的な腕の持ち主は一人しかいない。

 

「プルにしか見えない。それ以外にいないでしょ、こんな雑な突撃を成立させるやつ」

 

 プル以外……一応、アラドもまぐれで成立させることもあるが、アラドはいま部屋で眠っている。

 アスカは結局、二度寝することなく、そのまま動画を見て朝を迎えた。

 

 電話が入ったので、アスカは動画を見ながら応答した。電話はマリからだった。

 

「9時25分に会議室に集合」

「はいはい」

 

 アスカは適当に答えた。意識は動画に吸い寄せられていた。

 

「何度見てもこのアプサラスはゼオラ、このドラグナーはプル。確定だわ」

 

 アスカは自分の勘だけを頼りにそう断言した。

 この衛星動画の内容だけでは確信できないが、アスカはすでに確信していた。自分の勘に誤りはないと思っていた。

 

「でもなんで……? 捕虜として拘束されたってこと?」

 

 アスカはまだ確定したわけではないが、ゼオラやプルがティターンズの部隊に参加していることを前提に話を進めた。

 一年戦争後、国連はジオン軍にすべての捕虜情報を公開させていた。ジオン軍もそれに応じていたが、そのリストにゼオラとプルの名前はなかった。

 もちろん、あの戦争の途中ですべての捕虜を把握していたかはわからない。

 一部、報告されていない者もあるかもしれない。

 

 いずれにしても、生存しているという事実が、アスカの意識を強く覚醒させた。

 

「決まりだわ」

 

 アスカはパソコンを閉じると息を吐いた。

 

「連れ戻す」

 

 アスカは自分の真の任務を見つけ出した。

 

 ◇◇◇

 

 会議があったが、形式的なものだった。

 ギガノス軍が意外と苦戦しているなどなどと説明を聞いただけで、アスカの所属する04小隊は依然として待機が命じられた。

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 

 アスカはゼオラやプルを連れ戻すことだけを考えていた。

 

 しかし、問題はどうやって助け出せばいいかということだった。

 この動画を見せて、上層部が理解するとは思えないし、ゼオラもプルもあくまで末端の兵士。軍の上層部が救出のための作戦を組むとは思えない。

 

 アスカは一応、上層部に動画を見せて説明したが、結果は同じだった。

 

「考えすぎだ、アスカ。そんなわけないよ」

「ですが、先ほど説明した通り、ゼオラの砲撃の癖とここまで一致するのは偶然では起こりえないと思います」

「あーわかった。一応、上にはそう伝えておくから、とりあえず夕方までは部屋で待機しといてくれ」

「……」

 

 取りつく島はなかった。他の方法を探すしかない。

 アスカが落胆して部屋を出てくると、ちょうどアラドが外で待っていた。

 アラドは会議の時から、アスカの様子がおかしいことに気が付いていて、心配になって様子を見に来ていた。

 

「何を言ってたんだ?」

「ちょっとね」

 

 アスカは歩き出した。アラドはその隣について歩き出した。

 

「朝から元気ないよな。どっか具合が悪いのか?」

 

 アラドはアスカにとって一番近い存在。しかし、一番役に立たない存在でもある。

 ろくに戦えない、補給任務もこなせない。

 

 しかし、おそらくはアスカと同じ志を持つ仲間。

 アスカはこの発見をアラドに話そうか悩んだ。

 

 アラドに話せば、おそらくアラドは理解してくれるだろう。

 だが、アラドのようなバカがゼオラの生存を知ったら何をするかわからない。勝手に突撃して返り討ち。その未来しか見えなかった。

 

 色々悩んだ結果、アスカはアラドに言った。

 

「ちょっと来て、私の部屋に」

「部屋って……でも、それは……」

「バーカ、なに変な想像してんのよ」

 

 アスカはアラドの頭にゲンコツを落とした。

 

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