スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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17、義勇兵

 ギガノス帝国の侵攻が始まって3週間が経過した。

 ネオホンコンを巡る地上戦は膠着状態で、ギガノス帝国の苦戦がニュースで広く扱われるようになっていた。

 しかし、宇宙戦はギガノス帝国の優勢が報じられていた。

 

 もともと、ギガノス帝国の狙いはコロニーであり、ネオホンコンが火星のEU領からエネルギー資源を得ていることを不服とする立場からの侵攻と考えられている。

 コロニーを占領し、エネルギー供給をストップすることで、エネルギー資源の高騰を誘発したいという狙いだ。

 

 ティターンズと利益を共有できる立場であったため、ティターンズはすぐにギガノスを支援した。

 しかし、侵攻から3週間。資源価格は横ばいで、ギガノスの想定の値動きにはなっていないようだった。

 

 事実上の資源価格の決定権を持つ中東諸国がアメリカとの協定で、資源価格の固定を取り決めた影響が響いていたようである。

 ギガノス帝国も資源立国であるが、一国の影響力には限界があった。

 

 しかし局地的な影響は少なくない。

 コロニーを失ったネオホンコンの宇宙難民は10万人以上にのぼると推定されていた。

 

 同時に、ネオホンコンはギガノス帝国との戦争を戦うために、義勇兵を世界的に募集するようになった。

 特に占領されたコロニーを奪還する「ギョク作戦」を行うための兵士と兵器の供給を国際社会に訴えていた。

 

 ギョク作戦は現在占領が確認されている9つのコロニーの奪還という大規模なものである。

 モビルスーツ90機、兵士1300人を目標に募集が始まった。

 

 EUからは、イギリス、クロアチア、オーストリアなどが援軍の提供を決めたが、ドイツは態度を固めなかった。

 

 ドイツが援軍貸与に消極的だったため、スウェーデン、イタリア、フランスも消極的なほうへ流れ、現時点では十分な義勇兵は集まっていなかった。

 中立のスイスは開戦時から「いかなる支援も行わない」と態度を決めていた。

 

 ドイツ軍が消極的だったため、アスカらにもさらなる待機命令が出された。

 

 しかし、アスカは義勇兵に参加するための準備を進めていた。

 軍が認めないなら、個人的に参加すればいいと考えた。

 アスカはもともと集団になびかない性格であり、一度行動を決めると徹底的だった。

 

 軍の法律に反する行動なので、二度と部隊には戻れない覚悟が必要だ。

 もっとも、アスカに逡巡はまったくなかった。

 部隊などくそくらえ。そんなことよりも、自分が正しいと思う戦いを続けること。それがアスカの人生観だった。

 

 軍のアイドルが目標ではない。

 アスカは自分が向かうべき戦場というものを理解していた。

 

 それでも、大きな不安を覚えずにはいられないことだった。

 一人でも参加するという強い意志はあったが、人間の本能ともいうべきものが、心を動揺させた。

 

 そんな中、アラドはアスカに協力するという決断をした。

 

「おれも一緒に行くよ」

 

 アラドはコロニーのデッキで一人たたずんでいたアスカのもとにやってきた。

 アスカは真顔でアラドと向かい合った。

 

「あんたバカでしょ」

「何だよ、バカって」

「二度とここには戻ってこれないってことよ。生きて帰れるかもわからないし。東アジアの機体なんてポンコツばかりだし。何のメリットもないわけよ?」

「なら、アスカも同類になるぜ。いいのかよ? お前はおれと違って将来有望なんだぜ。軍の長官まで一直線の出世コース。そこから犯罪者になろうってんだ。どっちが本当のバカだよ?」

 

 アラドとアスカでは将来性に歴然の差があった。

 アスカは確実に出世できる。エヴァ二号機のメインパイロットという最高の立場にいるのだ。

 それに対して、アラドは補給任務の常連だった。

 

「おれは別に軍に未練はねえし。惰性でとどまってただけだしな。もともと、おれは身寄りなんてねえしな。どこに行ったって変わらないんだよ」

「……」

 

 アスカは何も言わずに少し視線を落とした。

 出世とか、軍の恩恵とか、そういったものを無視すれば、二人は同じ立場だった。

 

 身寄りのない放浪者だ。

 

 こういう混沌とした時代だから、放浪者は軍隊に行き着いたが、時代が時代なら、もっと別の場所にたどり着いていたかもしれない。

 ロボットのない光景。学校に通い、適当に生きる日常。

 多くの者にとっての当たり前、しかしアスカたちにとっては想像もできない世界。

 

 放浪者たちにとって、「居場所」という概念はなかった。今もまだ放浪の途中。

 しかし、おぼろげな目的地は見えていた。

 

 仲間がいる場所。

 そこにたどり着くためには、この恵まれたドイツ空軍04小隊という肩書きを捨てなければならなかった。

 

 しかし、放浪者に迷いはない。そんな肩書きは何の悩みの種にもならなかった。

 

 アラドはデッキ越しに宇宙空間を見つめた。

 このメビウスの宇宙を越えた先にしか目的地はないことを確信した。

 

「おれは知りたい、本当にゼオラがいるのか。可能性があるなら、それに賭けたいんだ」

 

 アラドはただそのためだけに軍にいたから、その目的がある場所が軍の外にあるならば、そこへ向かうことにためらいはなかった。

 

「はあ……バカップルね、あんたたちは」

 

 アスカはアラドの表情を見下すように見た。

 アラドの表情からは強い意志が感じられた。その瞳はゼオラしか見えていなかった。ただ一途に追い求めるバカの目だった。

 アラドの眼光はアスカにはないものだった。おそらくは「愛」という概念に満ちた目。

 

「でも一つだけ言っておくわ」

 

 アスカはアラドに負けない強い視線を向けた。

 

「私の前にゼオラが現れて、私に銃口を向けてきたら……その時は」

 

 アスカはしばらく間合いを置いた。その間、アラドは表情を変えなかった。その先のアスカの言葉がすでに聞こえていたようだった。

 

「容赦なく撃つ」

 

 アスカがそう言うと、アラドは目を閉じた。

 何かしらの思案のあと、アラドは目を開けてうなずいた。

 

「それが戦争だ」

 

 アスカもうなずいた。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 アスカはきびすを返すと、戦いの舞台を目指した。

 

 ◇◇◇

 

 義勇兵に参加するためには、いくつかの関門を潜り抜けなければならない。

 厳密に統率されるドイツ軍では、兵士の行動には強い制限がかかっている。

 

 第一に、パスポート。

 兵士が保有するパスポートはすべて電子的に管理され、すべての位置情報を本部が掌握している。

 すべての渡航には、かなり厳しい渡航プランを提出しなければならない。

 

 アスカは次のルートをプランニングした。

 

 1、兵士パスポートで火星のアクルデン基地に渡り、観光滞在許可を所得する。

 2、アグルデン基地から、東部の空港より一般パスポートでベルリン火星区に入る。

 3、火星イギリス大使館の国際線でオールブリテン区に入る。

 4、イギリスのルートから義勇兵に参加する。

 

 イギリスは現在、民間軍事会社に義勇兵の斡旋を請け負わせている。

 航空兵部門と一般兵部門と医療従事者部門の3つに分かれている。

 医療従事者部門では、イギリス国籍を所得していない者でも簡単な身分証明だけで参加できるようになっていた。

 

 この部門を経由して、ネオホンコンに渡れば、あとは適当にどうにかなるだろうと考えた。

 

 アスカはこのプランを実行するために、まずは火星に渡るためのプランを司令部に提出した。

 

 プラン内容は以下。

 

 渡航エリア

 

 火星 BC47アグルデン区 アグルデン基地

 

 渡航目的

 

 ベルリン火星区の観光

 

 滞在日数

 

 3日

 

 それ以外にごちゃごちゃと記入しなければならないことは多いが、アスカは適当に書いて提出した。

 

 その翌日に、司令部ではなく、マリがアスカの部屋を訪問した。

 

「いきなり、火星を観光だなんて、あんた、何かたくらんでるでしょ」

 

 マリは特有の嗅覚でアスカのたくらみをかぎつけていた。

 アスカはごまかした。

 

「何をたくらむことがあるのよ。ベルリンで気球に乘るだけよ。心の洗濯よ」

「心の洗濯ねえ」

 

 マリはいぶかった。

 アスカは休養と言われると、逆に熱心に訓練に励むタイプであり、マリもよくわかっていたから、すぐに不自然さが際立った。

 

「あんた、いつもなら訓練に余念がないのに昨日今日と施設には来なかったわね」

「たまには休みたくなるときもあるわよ」

「あんた、司令部に何か色々言ってたみたいだけど、何を言っていたの?」

「別に」

「ともかく、許可はできないわね。私の権限で却下よ、このプランは」

 

 マリはアスカのたくらみをすべて突き止めたわけではないが、小隊長の権限でもみ消してきた。

 

 アスカは奥の手を使った。

 

「あー、わかったわよ。素直に本当のこと言ってあげるわ」

 

 アスカは少し取り直して姿勢を正した。

 

「デートよ、デート」

「はあ? デート?」

「だから、アラドとデートよ。マリは知らなかったでしょうけど、私たち付き合ってんのよ」

「……」

 

 マリは目を細めた。アスカの言葉は何よりも怪しさに包まれていた。

 

「アラドとあんたが? ないないない。どんなカップルよ、それ。この世に存在するわけないでしょ、そんなカップル」

 

 マリは確信を持って嘘だと断言していた。

 アスカは他にも色々弁明しようとしたが、矛盾が募るに募るばかりだった。

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