スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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18、集う戦士

 火星は数年の間に大きく発展した。

 火星のテラフォーミング計画が始まったのが今から37年前。本格的な火星都市計画はセカンドインパクトと同じ年の15年前であるから、わずか人類の進撃はあまりに早かった。

 

 アグルデン区はEUが開発を進めていたエリアであるが、EU崩壊後はドイツの統治下に入った。

 一年戦争の間も発展が進んでおり、今となっては地球の大都市と変わらないほど賑やかな都市になっていた。

 

 ところどころ、オーストリアの国旗が上がっているのはかつてのEU時代を彷彿とさせる。

 ドイツはEU維持を願う者が多かったため、今でもこの都市はEUとしての街並みを残している。

 

 アグルデン区はエネルギー資源開発特区として始まっているため、化石燃料の油田が広がる地域周辺には数多くの石油抽出施設がある。

 このあたりの油の香りに魅せられて移住してくる者は少なくなかった。

 

 火星移住に必要な初期費用は約20万ユーロと言われている。

 かなりリーズナブルになったと言える。

 一年戦争勃発時には、早期退職し火星へ向かうサラリーマンが増え、マーズラッシュと呼ばれる現象が歴史に残った。

 ただ、火星の生活は不自由が多い。

 

 まだ介護施設などの生活インフラが不十分であるうえ、多くの物資を地球からの輸入に頼っているため、地球の生活に比べ、1割以上は割高のものを買うことになる。

 雇用のほとんどが油田の3K職である。給与の割に厳しい仕事であり、田舎暮らしの延長で火星に移住した者の多くが3年以内に地球に帰っている。

 

 こういう出戻りを皮肉って「火星の引力に騙された愚か者」と差別する風潮が興ったりもした。ヨーロッパではそれほどではなかったが、日本をはじめとするアジア地域では、その同調圧力に耐えられず、また火星に出戻る者も少なくなかったようである。

 軍事施設の一部を火星に移す計画も各国で怒っており、リスクヘッジの先端として、火星は利用されている。

 

 火星移住が最も早かったのがネルガル工業である。早くから地球を離れ、本社の中心を火星に移していた。

 結論から言うと、この決断は功を奏して、今ではネルガル工業が木星テラフォーミング計画の中心を担っている。

 

 ジオン公国も行動は早く、ギレンはネルガル工業の筆頭株主になるために財産のすべてを費やしたと言われている。

 すべてを費やして手に入れたネルガル工業の株価は当時の160倍。ジオン公国の経済規模は単純に160倍になったに等しかった。

 ジオニズムの隆盛はこの財力を無くしては成り立たなかっただろう。

 

 アスカはアラドと共にアグルデン区にやってきた。

 このあたりは馴染み深い。一年戦争時代はこのあたりが生活の中心だったから、こうしてやって来ると、故郷の雰囲気を感じた。

 

「そういや、ここのバイク屋、潰れたんだな」

 

 アラドは愛車をたびたび壊しては、ここで修理を依頼していたから、その店がつぶれたのを見て、寂しさを感じていた。

 

「何やってんの、早く来なさいよ」

「お、おう」

 

 アラドはアスカに突かれて、歩き出した。

 

 ◇◇◇

 

 二人の計画はここからベルリン特区へ行き、イギリスに渡る予定になっている。

 ここまではうまくいった。

 偽りの婚前旅行の体でやってきたが、案外うまくいくものであった。

 

 二人は航空兵としてではなく医療従事者として義勇兵に参加することになるので、渡航に対して厳密な身分証明を必要としない。

 あらかじめの予定通りイギリス領に入ることができた。

 

 イギリスは民間軍事会社がネオホンコン軍に参加する義勇兵を募っている。

 イギリス政府は1人当たりの義勇兵に4万ポンドの資金を出しており、このビジネスは金のなる木である。

 とにかく一人でも多くの兵士を囲い込みたい軍事会社は犬でも猫でも引き込もうと、多くの広告を打っていた。

 

「正義のための戦いに出よう」

「手厚いサポートで学生も歓迎」

「月給3000ポンドを保証」

 

 景気のいい用語が並んでいた。

 アスカとアラドはさっそく義勇兵の手続きをした。

 

 医療従事者の欄にチェックを入れると、簡単な健康診断が行われたのち、「次のチャーター機に乗ってください」と誘導された。

 

 チャーター機に乗り込むと、あとは待つだけである。

 

「案外簡単だな。こんな簡単にいくとは思わなかったぜ」

「私の完ぺきな計画のおかげよ」

 

 アスカは息をついてこれからの戦いに集中するために目を閉じた。早ければ今夜にも戦いに出ることになるかもしれない。

 

「あれ、ほんとにゼオラだったんだろうか」

 

 アラドは独り言のようにそう言った。

 

「あんたの目は節穴? まだ確信できないの?」

「いや、なんか信じたくないなと思って」

 

 アラドは視線を落とした。

 アスカに見せてもらったアプサラスの砲撃行動はゼオラの癖がそのまま出ていた。

 世界に、ゼオラと同じようなパイロットが二人といるとは思えないから、映像のパイロットをゼオラであると確信したが、その場合いくつかの疑問が出てくる。

 

 どのようにしてソロモン戦争を生き残ったのか?

 ギガノス軍の捕虜となり、そのまま今回の侵攻に参加したのか?

 

 ゼオラは自分のことを覚えてくれているのか?

 かつてのように会うことができるのか?

 

 アラドは嫌なことを想像した。

 これまでのゼオラではなくなっているような気がした。

 ゼオラの向けた銃口は容赦なく自分を撃ってくるような気がした。

 

 同時に変わっていてほしくないとも願った。

 自分の思いと同じであってほしいと。

 

 もう一度、ソロモン戦争の前と同じ関係でありたいと。

 

 アスカは思い悩んでいるアラドを横目で見て、小さく息を吐いた。

 

「あんた005の新作映画見た?」

「え? いや、見てねえ」

「じゃあ、ネタバレしてあげる」

「なんだよ、ネタバレしてあげるって。嫌がらせじゃねえんか。別にいいけどよ」

「主人公トム・クルーガーの最愛の恋人は実はDC軍の特殊工作員だったの。最後は撃ったわよ、最愛の恋人を」

「……」

「その後、くだらないどんでん返しがあったけど、あとは自分で確かめなさい」

「……」

 

 映画の話を本気で考えても仕方なかったが、アラドは最愛の人を撃つ瞬間の男の気持ちを想像した。

 

 どうやっても自然に想像できなかった。

 国家のために、個人の感情を捨てたのだろうか。

 

 その決断は、男に生まれた者ができるものではないような気がした。

 自分なら撃てないと思った。

 

 ◇◇◇

 

 ネオホンコン軍の義勇兵はそれなりに集まっていた。

 ギガノス帝国のドルチェノフ大統領は次のように声明を出していた。

 

「我々が正義と主張する軍事作戦を妨害する国際社会の団結は悪魔の鎖のようである。人間の良心を失った者たちの結束は、我々の正義の光をより輝かせるだけだ」

 

 ドルチェノフはさらに軍事圧力を強化するとも話した。

 

 そんなギガノス帝国の戦いもそれほど余裕があるわけではない。

 ギガノス帝国に参加しているティターンズはそれほど体力のある軍事集団ではない。バックボーンにジオン公国があるとはいえ、ジオンも積極的に支援はできないはずだ。

 

 実際に、ギガノス帝国の軍部は揺れている。

 ドイツの情報筋はある内部分裂の様子を突き止めていた。

 

「グン・ジェム部隊から幾人かの反乱組が出ているようだ。もしかしたら、国家分裂につながる恐れもある。その場合、ドルチェノフが暴走しかねない」

 

 ギガノスの主力部隊から反乱者が出ているということは、国内でもこの侵攻に反対する者が少なくないようであった。

 

 そんな不安定な戦況になっている今回のネオホンコン危機であるが、今日からアスカとアラドが加わることになった。

 

 アスカらは医療従事者として参加したが、ネオホンコン軍の基地に向かうと、自分たちの身分を明かした。

 

「アスカ・惣流・ラングレーだと? エヴァ弐号のパイロットがどうして?」

 

 義勇兵をまとめていた小隊長は目を大きくした。

 

「細かいことはお気になさらず。とりあえず、モビルスーツもドラグナーも一式扱えますので」

 

 ドイツ空軍の主力がこのような不正規軍に参加することは異例だったが、いまは一人でも多くのパイロットを必要としているネオホンコン軍はそのままアスカとアラドを兵力として投入することにした。

 

 ◇◇◇

 

 アスカらは義勇兵としてネオホンコン軍に参加した。

 アスカは前線で主力で戦う力を持っているが、アラドにはそれだけの力がない。

 

 そのため、アラドはアスカとは分かれて、補給機の任務を請け負うことになった。

 アラドは格納庫のコアブースターを見上げた。

 

「親の顔より見たコアブースターって感じか。おれには親はいねえけど」

 

 アラドは新天地にやってきても、コアブースターが主戦力だった。

 ドイツ軍に残っていれば、新兵器のヒュッケバインMKⅢを操縦できたわけだから、大幅なレベルダウンと言えた。

 

 しかし、後悔はない。ここにいなければ見つけ出すことのできないものがあるのだから。

 

「おーい、そこの人」

 

 アラドは後ろから呼ばれて振り返った。

 

「おーい、あんた、アラド・バランガさんだろ?」

「おんや、どっかで見たことあるような、誰だったか?」

 

 アラドは後ろからやってきた少年を見て、記憶をたどった。知っているが、思い出せなかった。

 

「ジュドー・アーシタだよ。ほら、エヴァ計画んとき、ゲシュのテストで一緒に戦ったろ」

「思い出した。ニュータイプだ」

 

 アラドはようやく思い出した。

 ジュドー・アーシタ。クロアチア在住の若手パイロットだった。

 地球にいたころ、エヴァンゲリオン弐号機のパイロットを決める際に、何度か顔を合わせていた。

 弐号機パイロットの座を勝ち取ったのはアスカだったが、次点につけていたのがジュドーだった。

 

 ジュドーは操縦訓練をはじめてわずか6か月で弐号機のパイロットを目指すテストに参加していた。

 これは異例のことであるが、さらに異例なことは、いずれの操縦でもハイスコアを出したことだった。

 操縦をはじめて半年で出せるスコアではないことから、ニュータイプとして注目されていた。

 

 そのジュドーが義勇兵に参加していたのは意外なことだった。

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