スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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19、偽りの正義心

 ネオホンコン軍部が募集した義勇兵はそれなりに集まっていたが、その多くが地上であり、宇宙戦力は十分に集まっていなかった。

 理由は主に3つある。

 

 1つ目は経済的問題である。

 宇宙での軍事作戦は地上作戦の4倍のコストがかかると言われている。どの国も宇宙にいざこざを作りたくなかった。

 特にエネルギー確保に数多くの輸送機を抱える大国は、宇宙での混沌を嫌っている。

 

 2つ目はギガノス帝国の軍事侵攻の真の目的が、連絡地点として都合のいいコロニーを獲得して地上との航路を安定させるためである。

 軍部にとっては大義のある戦いでも、ギガノスを治めるドルチェノフにとっては、金目である。

 ネオホンコンの一部コロニーを支配地にすることで、距離にして1万キロの節約となる。金額にすると年間300万ドル以上の経費削減につながる。

 その300万ドルはそのままドルチェノフの懐に入ると言われている。

 

 3つ目は宇宙への関わりを強めることはジオン公国に選択肢を与えることになるためである。

 ティターンズがギガノスを支援したように、戦争には常に偽りの正義心がついてくる。

 宇宙の混沌を理由に、ジオン公国が連邦政府にとって不都合な行動を起こすこともあり、国際社会はその紛れを嫌っていた。

 

 しかし一番の理由をあげるとすると、ネオホンコンのためにどこも犠牲を出したいと思っていないからである。

 小さな地域を守るために、正義の味方を演じられるほど、どの国も余裕がなかった。一年戦争で傷ついた経済と軍事共にゆとりを見出しきれなかった。

 

 それでも、こうして多くの人が義勇兵として集まって来た背景には、人々の平和への嘱望が感じられた。

 

 アラドとアスカが義勇兵として参加した理由はおそらくは珍しいものである。

 アラドとアスカに関しては、世界の平和うんぬんよりも、旧友を救い出すためにやってきた。

 

 アラドはネオホンコンの基地でジュドー・アーシタと出会った。

 歳が近かったため、すぐに気が合った。

 

「なんで義勇兵に参加してんの? あんた、ニュータイプなんだろ?」

「そんなの周りが勝手に言ってるだけだっての」

 

 ジュドーは周りからニュータイプと呼ばれていても、自分自身としてはその自覚を持っていなかった。

 

「おれは自分のことを軍人と思ってない。軍人なんていつでもやめたいぐらいさ」

「生活のために仕方なくって感じか?」

 

 アラドが尋ねた。この時代の若い兵士はだいたいその理由で軍人をやっていた。

 

「それもあるけど、故郷を救い出すって野望もある。火星はおれの故郷だからさ」

「第三次テラフォーマー組だったっけ?」

「ああ、一年戦争でみな離れ離れ。おれは妹がいたけど、いまは会うこともできない。クソジオンの支配地さ。ふざけやがって」

 

 ジュドーは静かに怒りを吐き出した。

 第三次テラフォーマーは火星への移住者を大規模に募ったプロジェクトに参加した者たちのことである。

 その影響でジュドーは火星にて生を受けた。

 

 しかし、火星を巡っては世界中が争い、第三次組は分断された。

 家族を失い、離れ離れになるしかなかった。

 

 アラドとは違い、別の意味で不遇にさらされた人々だった。

 一年戦争で、その分断はより深刻になり、ジュドーは故郷を失い、家族とも別れ離れになっていた。

 

 単刀直入に、故郷を救い出す方法は1つしかない。ジオン軍を壊滅させ、故郷を取り戻すこと。

 言うは易し。簡単なことではない。

 

 ジオン公国は火星勢力を重要視しており、アメリカも火星においてはジオン公国が主張する国境を受け入れていた。

 アメリカお墨付きで領土を支配しているので、ジュドー一人ではどうすることもできなかった。

 

「おれは一生故郷に戻れないかもしれねえけど、少なくともおれと同じような犠牲者はこれ以上出したくねえ。だから、ここに来た」

「はー、立派だな」

「アラドさんは? ドイツは支援に後ろ向きってニュースでは聞いてたけど?」

「おれは……」

 

 恋人を助けに来たとは言えなかった。

 

「何の大義もねえから、あんまり聞かないでくれよ」

 

 アラドは笑ってごまかした。

 

「大義なんて人のエゴイズムだよ。戦う理由なんて人の自由だぜ」

「それもそうか」

 

 故郷を救い出すため、これ以上犠牲者を出さないため、恋人を救い出すため、出世のため。

 たしかに戦いに大義などないのかもしれない。

 

 ◇◇◇

 

 欧州の諜報部はギガノス軍に反乱が起こっていることを突き止めていた。

 

 反乱か忠誠か。

 

 いまその選択肢に揺れている女性がいた。

 ネオホンコン侵攻に関わったグン・ジェム部隊は侵攻当日に統率を失っていた。

 

「こんなの話が違うよ。ジークスペースを解放する作戦だと聞いていたのに、なんで敵地のコロニーに赴くことになってんのさ」

 

 グン・ジェム部隊のエースであるミンは憤慨した。

 司令部の男はミンをなだめるように言った。

 

「ミン大尉、君は誤解しているようだ。これから赴く地は我がギガノスの聖なる空。我々は奪われた空を奪還する大義を預かる身だよ」

「作り話だろ。知ってるよ」

 

 ギガノス軍はすべてギガノス帝国の英才教育で鍛えられている。

 それゆえ、非常に優秀な軍人が揃っている。

 しかし、この優秀な軍人たちは同時にギガノス帝国のプロパガンダの中で統制されて来た者たちでもある。

 ギガノス帝国の洗脳にさらされ、偽りの正義を植え付けられ、ドルチェノフ大統領のために命を賭ける美徳を植え付けられてきた。

 

 しかし、時代が変わると、そのプロパガンダは完全ではなくなった。

 ミンは少し前からギガノス帝国のありように不信感を持つようになっていた。

 

 外の情報を得る手段を持つことができず、兵士はみな徹底した監視下に置かれている。

 不信感を覚えたミンはギガノス帝国に背く形で、情報統制の外にある情報に不正にアクセスするようになった。

 

 これまで聞くことのなかった世界がそこにあった。

 ミンは次のように教えられてきた。

 

「ギガノス帝国はあらゆる領土をアメリカをはじめとする連邦政府に侵略されてきた。ギガノスの民は虐殺され、その数は1000万人にも及ぶ。連邦軍はギガノスの民を犬と表現し、人権を認めていない」

 

 こうした連邦政府にネガティブな情報を受け続けて育ったため、自然と反連邦政府の思想に染まっていった。

 一年戦争のときも、連邦政府が悪だと認識していた。

 

「DC軍とジオン軍は連邦の悪魔と戦うために立ち上がった。我々も続こう」

 

 この掛け声でギガノス軍の士気は高まっていた。

 しかし、それらのプロパガンダを知るようになったミンは反ドルチェノフの思想を心の片隅に抱くようになっていた。

 もっとも、ドルチェノフが悪で、連邦軍が正義と極論を主張したわけではない。

 何が正義で、何が悪なのかはわからなかった。

 

 少なくとも、ただ1つだけの正義など存在しないということだけは確かだった。

 

 ミンはグン・ジェム部隊のエースとして、ネオホンコンのコロニー侵攻を任された。

 

「ミン、最近の貴様の戦いには目に余るものがある。かつての闘志はどこへ行った? 連邦軍を跡形もなく引き裂くのだと思いを語っていたではないか」

 

 司令部の男が尋ねた。

 

「君は連邦政府のおかしな思想に影響されてしまったようだな。よく聞き給え、あれらはすべて連邦政府の作り話だよ。そうだろう? 違うかね? 君は本当に我々が間違った戦争をしていると思っているかい?」

「……」

 

 ミンはまだ答えを持っていなかった。

 

「コロニーには祖国を愛した者たちの魂がさまよっている。君の手で偉大な祖先の魂を解放してやってほしい。君にしかできないことだ」

 

 そう言われると、不信感があってもミンは戦いに出るしかなかった。

 それでも、この戦いに迷いのあったミンは作戦開始時刻の前まで、格納庫には入らず、コロニーのデッキに座っていた。

 ここは果てしなく続く宇宙がよく見渡せる場所だった。

 

「ミン大尉、まもなく時間です」

 

 後ろから声をかけられて、振り返ると、そこにはギガノス軍ではない服装の少女がいた。

 ティターンズ軍が送り込んできた若手のパイロットだった。

 

 シロッコがギガノス帝国を支援する名目で、特殊なパイロットを何人か送り込んできていた。

 

「少し実験したくてな。実戦でなければ試すことができないからな」

 

 シロッコが直接出向いてきたことを見ると、ジオン軍にとって重要な意味を持つパイロットたちだったのだろう。

 グンと共にミンも同席していたから、シロッコが連れて来たパイロットをその時から知っていた。

 

 いずれのパイロットも異様な目をしていた。

 

 不自然な色に染まった目をした少女。ミンはその少女を自分の傘下で面倒を見るようになったころから気にかけていた。

 

「18分後」

「まだひと眠りするゆとりがあるじゃないか。こっちに来な、ゼオラ」

 

 言われて、ゼオラは時間を確認した。とてもひと眠りする時間はなかったがうなずくことにした。

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