スーパーロボット大戦Y   作:やまもとやま

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9話 不穏な足音

 その日の夜、ゲンドウはネルフのスタッフからシンクロテストの結果の報告を受けた。

 本来なら自分の息子の重要なテストということで視察に出てもいいところだったが、ゲンドウは自分の仕事を優先していた。

 

「本日予定されていたシンクロテストは無事に終了しました」

「そうか」

「こちらがシンクロテストの結果になります」

 

 ゲンドウは机の上に置かれた書類のあらゆる数値に目を通した。

 

「シンクロ率は99.78%という驚異的な数字が出ました」

「そうか」

 

 ゲンドウは嬉しそうにすることもなく書類を脇にどけた。

 

「ご苦労」

「失礼します」

 

 スタッフは一礼すると部屋を後にした。

 ちょうどスタッフと入れ違う形で冬月がゲンドウのもとにやってきた。

 

「相変わらず左派の情熱はすごいものだ。対応に難儀したよ」

 

 冬月はそう言うと、疲れた様子で客席用のソファーに腰かけた。

 冬月は先ほどまで、ネルフの今後の方針についての取材を受けており、特に左翼思想の記者からいやらしい質問への対応に苦労していた。

 

「碇、テストの結果はどうだったのかね?」

「予定通りだ」

「そうか」

 

 冬月はゲンドウの相変わらずの人間味の無さに少し辟易した。

 

「だが、碇。テストの結果が良好でも実戦となると予定通りに行くものではないぞ。本当に大丈夫なのかね?」

「心配は無用だ」

「相手は使徒だ。お前の息子だけでなく、我々にとっても未知の戦いになる。そんな中でパイロットを任されるとなると相当なプレッシャーだぞ」

「座っていればいいさ。それ以上は望まん」

 

 ゲンドウは無表情で淡々と答えた。

 

「約束の刻まであと二日か。月日が経過するのは早いものだな」

 

 冬月は壁に備え付けられているカレンダーに目を通した。月日はまもなく4月を迎えようとしていた。

 

 ◇◇◇

 

 シンクロテストの結果を受けて、科学者たちは徹夜の仕事に追われていた。

 シンジの作戦指揮を担当することになったミサトも仕事に追われていた。

 

「エヴァを用いた任務を遂行する場合、パイロットが常に平常心を保てることが大切になります。特にパイロットがパニック状態に陥ったときの対応が重要になります」

「脳波は随時記録してくれるのよね。その都度適切に対応するわ」

 

 ミサトは実戦に向けての指揮を実行するため、エヴァのシステムについて科学者たちから情報を享受した。

 ミサトが通信でシンジに指示を送るのだが、シンジが動揺したりパニック状態になったときでも、適切な助言を行うことが要求される。

 しかし、これらはどちらかと言うと、技術的な要素というより、平素におけるパイロットとの信頼関係が求められる。

 

 普段からパイロットがミサトを信頼しているかどうかによって、ミサトの言葉の重みも変わってくる。

 ミサトは一年戦争でも甲児らの作戦指揮を担当していたが、何より平素からのパイロットとの信頼関係が最も大きな力を発揮した。

 優れた人工知能には決してできない「人間の言葉」こそが、本当に追い詰められたパイロットを助ける。

 

 一年戦争では、甲児も何度も死線を潜り抜けている。その背景には、ミサトの力があった。

 しかし、シンジとはまだうまく打ち解けるまでに至っていない。シンジは人を拒絶するところがあり、ミサトはまだシンジの心を完全につかみ切れずにいた。

 

 ミサトは一通り、エヴァシステムの科学的な部分を確認すると、つかの間の休憩のために、リツコの仕事場を訪れた。

 

「相変わらずまったりした仕事場ねぇ」

 

 ミサトはリツコの仕事場に入るなり、なごんだ空気を感じた。

 実際、リツコの仕事場には4人の科学者が仕事をしているが、みなリラックスした様子で仕事をしていた。

 

「あら、相変わらず疲れた顔をしているわね」

 

 リツコはキーボードから手を離してミサトのために椅子を引いてやった。

 

「数字とアルファベットばかり頭に叩き込んだからパンクしそう」

 

 ミサトは椅子にもたれかかった。ひどく疲れている様子だった。

 

「ミサトに残念な知らせが1つあるんだけど聞く?」

 

 リツコはそう言うと、1枚の書類をひらめかせた。

 

「なに? 追加の仕事なら聞きたくないんだけど」

「愛しの彼に会えなくなったみたいよ」

 

 リツコはミサトに1枚の書類を渡した。

 その書類には、マジンガーZを引き続き、ネルフに配備することを決定したという通知だった。

 マジンガーZを緊張状態の続く欧州に派遣する議論が平行線だったのだが、このたび正式に、ドイツ軍ではなく日本防衛省がマジンガーZを管理することに決まった。

 

「わー、残念。しばらくドイツには行けそうにないわねー」

 

 ミサトは嬉しそうに言った。

 

「加治君からラブレターが届いているみたいだけど、こっちはどうする?」

「あー、それは溶接炉にでもぶち込んどいて」

「こっちは元気に楽しくやっているよ。そっちはどうだい? だって」

「あーそう。こっちも超超超ハッピーにやってるってメール出しといて」

「愛してるってメールを出しといてあげるわ」

「コラ」

 

 ミサトは制止した。

 

「あいつのことはどうでもいいけど、ドイツのほうはどうなってんの?」

「陸軍も撤退を決めたようだし、平和になりつつあるみたいね」

「それは何より。戦争は二度とごめんだわ」

 

 ミサトはあくびをした。

 

 一年戦争後、人類は世界平和に向けて歩み始めていた。

 しかし、その背後には、混沌の足音が近づきつつあった。

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