STAGE 9-1
ヒロイン攻略もラストスパートなゲームの実況プレイはーじまーるよー。
前回はテマワリ先生の狂気を垣間見たところで終わりましたね。今回は部室から再開です。
室内には燎原くんとたまちゃんと乃々の三人だけ。先輩組は受験勉強で図書室や塾に行っているため、暇を持て余していました。
そんななか、たまちゃんは副部長としてしっかりしないといけないと思いつつも、どうやら猛烈にゲームを作りたいご様子。
それからたまちゃんはトイレに向かったのですが、戻ってこないので様子を見に行きましょう。はーちゃんに誘われてイラスト部に行こうとしているたまちゃんを見つけるので、私もほいほいついて行きます。乃々は……まあええやろ。
では『ゲームで……みんなを……笑顔に……』というやる気だけはあるけど暇してる顔のたまちゃんを誘っていたようで、はーちゃんを先頭にイラスト部に向かいます。
部では裕美音と乃々の炎上の被害者こと鶴瀬まつりを主体にゲーム制作をしている筈なのですが、進行は捗っていたりいなかったりラジバンダリと曖昧な返事が返ってきます。
なんのこっちゃと思いながらも部室に入ると──紙が飛んできて、ちゃっかり避けたはーちゃんの後ろにいた燎原くんの顔面にへばりつきました。ぐわーっ!?
──誰の仕業かと紙をひっぺがすと、そこには半泣きでひたすらデッサンをしているまつりの姿が。すわ何事かと確認する燎原くんとたまちゃんは、横から話しかけてくる人に『色々教えたら火が点いた』と説明させられます。
……って、なんでここに槍居智亜が!?
……はい。まつりに『絵下手やん』と容赦の無いアドバイスしていたのは、卒業した元生徒会書記権イラスト部部長の智亜でした。バッサリ髪を切り落としてさっぱりしていたせいで、たまちゃんが気付くのにも遅れていますね。
いちおうは『絵は下手だがデッサンを数こなせば良くなる。ゲーム制作は大変だけど君の成長に貢献するだろう』と、内容は真っ当ではあるんですよ。ちょっとデリカシーが無かっただけで。
それでも向上心があるので今後に期待ですね。そんなまつりに、智亜はそもそも乃々という子のどの辺が好きなのかと聞きますが……いかん! オタクに語る隙を与えるな──っ!!
──遅かったですね。別にRTAではないので良いんですが、なんかちょっとウザった……愛が重いのがアレなんですよねこの子。愛というよりは偶像への崇拝に近いので怖さが勝ります。
まつりの長文語りを受け流して『ちょっと変なところがある方が好きになっちゃうことあるよな』と返す智亜は……流石はイロモノ集団を纏めていた元部長ですね……。*1
などといったところで短いですが乃々がイラスト部に顔を出してきた辺りで今回はここまで。
次回をお楽しみに。
──イラスト部でのとんちき騒ぎを聞き付けて、乃々が部室に顔を覗かせる。
そういえばずっと放置していたことを思い出した俺は、彼女を手招きした。
「たまき先輩、りょー先輩も。こっちに行ってたなら言ってくださいよっ!」
「あっごめん! ほったらかしにしちゃって……ていうかののちゃん、例のゲーム、なんだかイラスト部の方で大事になってる……」
「うえっ!?」
二人の会話を聞いたのかイラスト部の部員達の視線がこちらに向き、話題の主である乃々を見ると、
「るるなさん?」
「たしかゲームの元ネタの……」
「確かに動画で見た──」
「え、あ、いや、私は……その」
「ちょっとちょっとストップ!」
俺が咄嗟に乃々の腕を引いて自分の後ろに隠すのと、元生徒会書記で元イラスト部部長の槍居さんが止めに入るのは同時だった。
「部則第78条『なるべく学校では
卒業生のたわ言だが聞いてくれ、星ノ辻のオタクが気の置けない同好の士で集えるようにと設立されたのがイラスト部だ。学校でHN呼びがクセになると、それを知らない周囲と軋轢を生むと思ったからこの部則は出来たのだが──」
ちらりと俺の背中にしがみついている乃々に視線を向けて、槍居さんは問いかける。
「そも、ネット上での謝罪は済んでいるのだろう? ……ええと」
「……池谷乃々です」
「そう、池谷さんが────例え配信映えしか頭に無いキス魔だったとしても! 平等なイラスト部員の一人なのだ!!」
「いやイラスト部ではないが……」
「キス魔じゃないです!!」
「うちの部員です!!」
しれっと乃々をイラスト部所属にしようとしている槍居さんに指摘しつつ、次の言葉を待つ。
「君は学内とネットは分けたいタイプか?」
「そ、そうですね……」
「じゃあこの件を蒸し返すのはよくないな。皆も見られたくない本の一冊や二冊あるだろう、陰口よりは目を見て話すべきだ……と、思う。口うるさいOGで悪いな」
「あ……すみません、庇ってもらって」
「いや、大変なのはこれからだろう」
「え?」
すっとんきょうな声を最後に、俺は後ろに手を回して首根っこを掴むと、乃々を前に持ってきて面前に晒して一言だけ言った。
「はい質問タイムスタート」
「え゛っ!?」
「強く生きろ」
結局のところ、ある程度の刺激は必要だ。これを生け贄と呼ぶか有名税と呼ぶかは、人それぞれなのだろう。乃々は犠牲になったのだ。
「キスの感触ってどんな感じでした!?」
「炎上って凄く辛いと思うんですけど──」
「てか動画より声かわいーっ!」
「うわばばばば!!?」
「あんた……容赦ないわね」
「そうでもない、あいつは承認欲求が擬人化した存在だからな。見ろ、ちやほやされているから満更でもない顔をしている」
「……鶴瀬さんはこの状況イヤじゃないの? ほら、ののちゃんあんなに囲まれる……」
俺の顔をえげつないものを見るような顔で見ている水葉に返しつつ、横ではたまが鶴瀬にそう言って問いかけている。すると彼女は…………どこか余裕そうな表情をしていた。
アレは恐らく『うんうん、やっぱり池谷さんは人気が出るべき器なんだなあ』とか『まあ、私は唇の感触を知る唯一の存在なんだけど──』とか考えている顔だろう。
……この小娘もいい性格をしている。
「うわ~恋人面するタイプのオタク」
「裕美音、なにも言うな」
良くも悪くもあの一件の被害者である鶴瀬には、そのくらいのことは考えてもいいだけの権利がある。……のだろう。きっと。
そんなことを考えていると、乃々の方では着々とゲーム制作の話が進んでいた。
「──やっぱり声やってもらいたいなぁ」
「あっ、先輩に録音とか詳しい人が……」
「なんか話進んでる!?」
「……たま?」
「げ、ゲーム作りしてる感でもイラスト部に負けてるのに……ののちゃんまで取られたらSNS部はいったい──」
「おい、たま?」
なにか悩みを抱えているのはわかっていたが、こうも焦りが見えると一応の相談はしておいた方がいいのかもしれない。
一旦仕切り直して部室に戻ろうかと思い乃々に視線を向けようとしたとき、たまは槍居さんに捨て台詞を吐きながら部室を出ていった。
「っ~~負けませんから! 会長さん背高くて美人でかっこいいけど! 負けませんから!」
「は、はあ……どうも……? というかもう生徒会所属ではないのですが……」
「どこまで行っても悪口は言えんのか」
変なところで純粋さが残るたまの悪口と背中を見送った俺と槍居さんは、顔を見合わせて首をかしげる。それから褒められ過ぎてちょっとイラつく程にデレデレしている乃々を見て、軽く折檻するべく歩を進めるのだった。