【完結】ステラのまほう/百武照攻略実況   作:兼六園

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※小説パートのみ


STAGE 9-3

「──本田さんが描いてくれたこのおじさまイラストが、ゲームプロジェクトのここに読み込まれています」

「はいっ」

「これをドラッグしてステージ……この画面に置きます。この状態で『ゲームを再生』ボタンでテストプレイが始まります」

 

 椎奈の部屋でパソコンに向き合う珠輝に、彼女はそう説明して画面を動かさせる。

 

「私の絵が表示されましたね。ここがゲームの舞台の上……ってことですか?」

「──やったあゲーム上に絵を表示できた! ゲームが5割ぐらい完成しました!」

「いやいやいや!?」

「情緒が……」

 

 思わず頭でも打ったのかと邪推するほどにハイテンションの椎奈に褒められる珠輝を見ながら、燎原は部屋の隅の壁に寄りかかっていた。

 

「……りょー先輩、座らないんですか?」

「これがたまの家だったら、お前のようにベッドにでも座るんだがな」

「変なところで律儀ですね」

 

 乃々にそう言われながらも、燎原は視線を珠輝と椎奈の二人に向ける。

 

「いやあの……ゲームとしてこれが動いたりジャンプしたりする必要が……」

「そういうのは、今なら大体ゲームエンジン側でやってくれますよ。例えば──あらかじめエンジンが提供してるこの『2次元移動』の機能をくっ付けてみましょう」

「はい」

「次にこの辺に地面を置くと……」

「わ、落っこちて……着地した?」

「──ゲームが7割ぐらい完成しました!」

「あの!!?」

「部長」

 

 このまま踊り出しかねない勢いで盛り上げている椎奈に、燎原がおもむろに声をかけた。

 

「……はい?」

「たまがやりたいのは、恐らくゲームエンジンの使い方ではないですよ」

「……?」

 

 何を言っているのだとでも言いたげな表情で首を傾げる椎奈は、燎原から珠輝に視線を移す。その通りと頷く珠輝に、彼女は渋い顔をした。

 

 

 

「えっ、本当の本当に……エンジンの使い方ではなく、プログラミングを学びたいと?」

「はいっ! 挑戦してみたいんです!」

「そうですか……ではこのおじさまをプログラミングで動かしてみましょうか。ひとまず『Ojisamaクラス』を作って……」

「おじさまクラス……!?」

 

 珠輝がなんとなしに口にしたワード食い付き、椎奈はああと言って返す。

 

「クラスというのは、なんらかの機能を実装するための道具箱みたいなもので……」

「…………ほぉ~~」

「本田さん?」

「……恐らく、今のたまはおじさまだらけの教室をイメージしてますね」

「クラスのメンバー濃いですね……」

「ほぉ──んにゃっ!?」

 

 近づいて軽く頭に手刀を落とす燎原により、妄想から戻ってきた珠輝は改まって椎奈の説明を聞く。ふっと口角を緩める燎原は、席を立つあやめと目が遭って口を開いた。

 

「どちらに?」

「キッチンでおばさんの手伝いでもしてくるよ」

「聞いておかないんですか?」

「あの話は0勝3敗ぐらいだからね」

 

 横合いから顔を出した乃々の問いにもそう答え、あやめは部屋を出て行く。

 残った二人は、暇を持て余す同士、言わずとも耳を珠輝と椎奈の会話に傾けた。

 

 

「変数というのは数字とか文字とか覚えておきたいものを入れておく箱です。式は──と──、こうするとxは5、yに7が入ります。

 数学の時と違い、このyはxの値に応じて変化するグラフというわけではなく──」

 

「…………???」

 

「関数は……機能ごとにある程度小分けにしておくための機能ですね。関数を実行したあとに結果を返却出来るんですが、voidは何も返さないという意味なので今は──

 このUpdate()という部分はこのおじさまが生きている間、常に実行される関数で……あらかじめ変数の箱を用意しておいて、これを毎フレーム1ずつ足し算します。

 例えばこれが60になった時という条件で実行する処理を書くと、開始後1秒ごとに──」

 

「俺も関さんの手伝いをして来る」

 

 頭から煙を噴き出している珠輝と乃々を置いて、理解を放棄した燎原は、それだけ言ってそっと部屋から出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 ──頭の中で数式が暴れているような感覚に、ため息をつく燎原は袖を捲って使い終えたボウルや泡立て器を洗っていた。

 

「部長には頭が上がらないですね」

「んー?」

「聞けば聞くほど、俺にはプログラミングは無理だと分かります」

「そうか? 本田さんはやろうとしてるし、しーも出来てるじゃん」

「ええまあ、プログラミングにまで手を出す余裕がない、と言うのが正しいですね。それはそれとして、たまの成長は喜ばしい限りですよ」

「目線がパパなんだよなぁ」

 

 オーブンから焼き終えたモノを取り出すあやめがそう言って、洗剤を流して横に置いてから流しの蛇口を閉める燎原は苦笑を浮かべる。

 

「──ぃよし、ホットケーキミックスのチョコケーキ完成~。これ持ってってやろうぜ」

「はい。紅茶は俺が持っていきますよ」

「頼むわー」

 

 トレーに乗せた小皿に切り分けたケーキを乗せるあやめは、一足先に椎奈の部屋に向かう。一拍遅れてついていった燎原は、開けられていた扉をくぐって中に入った。

 

「お菓子焼けたよ~」

「乃々、状況は?」

「話の内容は全くわからないけど村先輩のテンションがどんどん上がっていってます」

 

 そうか、と言いながらあやめと一緒に小皿とカップを渡す燎原。そんな二人に、乃々は二度見する勢いでぐりんとあやめを見た。

 

「えっ手作り!? アイリス先輩ってお菓子作るキャラでしたっけ!?」

「そこまで驚く?」

「……か、肩でも揉みます?」

「乃々、『私も何か意外性が欲しい』みたいな顔をするんじゃない」

 

 フォークで分けたケーキを口に放り込みながら、燎原が図星を突く。

 うっ、と呻く乃々を尻目に、椎奈の指導のもとプログラミングしていた珠輝は、遂にゲームのテストプレイを実行していた。

 

「──う、動いた!」

「……なるほど。こう動いているだけで、ぐっとゲームらしくなるんだな」

「これはもう8割完成した感じ!」

「おっ、どれどれ~」

 

『おじさまの顔』ではあるが、キャラクターが左右に動き、クリック1つでジャンプする光景を見れば、なんともいえない感動がある。

 それを横から覗き込んだ椎奈の母──村上菫が、ひょいとマウスを取って操作した。

 

「ジャンプして~壁にぶつかると~」

「──なぜか連続ジャンプが出来る!?」

「お母さん! そういうありがちなバグをつつくのやめて!」

「ごめんごめん」

 

 イタズラ気味にそうしてから部屋を出ていった菫を見送りつつ、珠輝はそうなった原因を聞かされる。参考書通りに書いてもなるものはなる、という話に、不満そうに口を開いて返した。

 

「対処法は書かれてないんですか?」

「ないですね……なので目を瞑るか、自分で対処法を考えないといけません。

 ──プログラミングは、こういう地味で細かい問題を直すのに時間が掛かったりして、地味で……面倒くさいんですよ」

 

 指を合わせてもじもじとしながらも、椎奈は少しずつ言葉を紡いで行く。

 

「……だから、その……本田さんが無理する必要はなくて……た、大変じゃないですか?」

「──大変なのはそうなんですけど、でもなんだろう、なんだかプログラミングって、すごく部長さんぽいなあって思ってて」

「……それは暗くて地味なところが?」

「そうでなく!! ──その、操作するプレイヤーが無茶したときとか、色々なことを予測していないといけないんだなって。

 気配り上手というか、実は陰で色んなことを考えてくれているところが……でしょうか?」

 

 椅子を回して椎奈を見上げると、珠輝は微笑を浮かべて続ける。

 

「私、部長さんが部長で良かったと思ってます。最初はちょっと怖い人なのかなって思ったけど、本当は意外とお茶目で、部や私やりょーくんに気を遣っててくれて、去年の1年だけでも……私たちはいっぱい思い出を作れました」

「────」

「他の人から見たら、ありふれた高1の生活でしかないのかもしれないけど、私はSNS部に出会えて、とっても良かったと思ってるんです」

 

 ただただ真っ直ぐに思いの丈をぶつけ、珠輝は恥ずかしそうに慌てて付け加えた。

 

「えへへ……もう部長さんじゃなくなっちゃうって思うと寂しくて、早めに伝えようかと」

「…………ま、まだ私が部長ですからっ! 絵だって、ちゃんと描く、ので。

 ……次は本田さ──た、()()()さんが、私に絵を、教えて……くれれば……と」

「──! はいっ、()()先輩っ!」

 

 勇気を出して踏み込み、一歩進展した二人の後ろで、あやめと燎原、乃々は、小さく笑みを浮かべて顔を見合わせていた。

 

 

 

 

 

 ──夜、夕食をご馳走される流れになった珠輝たちはリビングに集まる。

 

「成長したな、たま……」

「まーた後方父親面してる」

「さっきまで『成長したな、しー』とか言ってたのは誰でしたかね」

「だ、誰だろうな~」

 

 味噌汁をよそいながら適当に誤魔化すあやめを横目に茶碗に米を盛る燎原。

 それらを渡された乃々は、テーブルに置きながらも楽しげに会話を交わしている珠輝と椎奈を見ながら悩むように呟いた。

 

「たまき先輩とりょー先輩が卒業するとき、私もああいうエモい感じの空気出せますかね」

 

 どこまでもウケを狙うある意味プロ意識の高い乃々に、燎原は呆れた表情を取る。

 そして、話を聞いていた菫が、バッサリと意見を切り捨てるのだった。

 

「人には向き不向きがあるッ……るっ……るっ……

「おばさんセルフエコー上手いっすね」

「私には出せないって言いたいんですか!?」

「……今後に期待、ということだな。ほら早く皿をテーブルに持っていってくれ」

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