【完結】ステラのまほう/百武照攻略実況   作:兼六園

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※小説パートのみ


STAGE 9-5

 サアサアと雨が降る帰路を歩く照は、後ろを付いてくる珠輝に話を続ける。

 

「たまたまちゃん。私は、自分とか他人とかを根拠もなく信じられるパワーってさ、『まほう』みたいなものだと思うんだ」

「それが諦めが悪いって事ですか?」

「そう。別に悪い意味じゃないよ」

 

 そう言って、照は去年の光景を思い返しながら一拍置いて口を開く。

 

「去年たまたまちゃんのスケブを取り上げたとき、本気でSNS部を辞めさせるつもりだったよ。私の暇潰しに既に三人も巻き込んでたのにも未だに責任感じてるからね」

 

 ──自分の人生(ひまつぶし)のために、誰かの時間を無駄にしたくない。と続ける照に、珠輝はでもと言って言葉を返した。

 

「りょーくんちでは普通に普通じゃないですか」

「それはそれってやつかな~」

 

 あはは、と照は笑う。しかし後ろを歩く珠輝からは見えないその表情を暗くすると呟いた。

 

「もし、たまたまちゃんとりょーげんくんがSNS部に嫌々参加させられてるんだとしたら、後片付けをしなかった私の責任をとして、部の幕引きをしようとしたんだ」

「わっ、私たちはそんな──」

「そう。あなたたちはそうじゃなかった、本気でSNS部で楽しんでいた。だから──あのときは試すようなことをして、ごめんね」

 

 振り返って、珠輝に頭を下げる照は、犬井宅の方向に踵を返しながら彼女に続ける。

 

「……そして、こんな私の発言は常に無責任で、真に受けるとあなたの人生がもっと蛇行してしまうかもしれない。今のたまたまちゃんがSNS部に出会わずに進む道には絶対戻れないようにね」

「────」

「変な方に行っちゃったとしても、そうなっても私は『ごめん』としか言えないけど、たまたまちゃんはそれでも許してくれる?」

「それは……今さらですよ」

 

 ふっと笑いかける珠輝は、それを最後に帰宅まで照との会話を切り上げた。

 雨足が強くなってきた帰り道で、耳に入ってくるのは、傘を叩く雨粒の音だけである。

 

 

 

 

 

 ──二人が犬井宅に戻ってきたあと、燎原が帰宅したのはその数十分後だった。

 

「ただいま」

「お帰り~」

「たま。傘は持ってきてたのか?」

「ううん、途中で雨宿りしてたら照さんが持ってきてくれたの」

「そうか」

 

 燎原は自室から替えの服を持ってきて風呂場に向かい、扉を開けたままで着替えながら、珠輝と照の二人との会話に混ざる。

 

「りょーげんくん帰り遅かったね?」

「歌夜と関さんと部長を送ってきたので」

「わお! 紳士的ぃ~」

「そちらでも進展はあったようですが」

「そうそう、ちょっとロジカルに考えてみようと思っててね。ズバリ『たまたまちゃんはしいなんをどうしたいのか?』ってさ」

「はあ」

 

 洗濯する服を篭に放って戻ってきた燎原は、髪をポニーテールに纏めている珠輝の『尾』に飛び掛からんとする(みたらし)を抱え上げる。

 

「その心は」

「え、えーっと……一緒にまたゲームを作って、楽しくなりたい?」

「そうためには?」

「わっ、私もプログラミングで成果を出して部長さんに絵を楽しく描いて貰いたい!」

 

 言葉と共に、猫じゃらしを勢いよく振るう珠輝。腕の中でウズウズとするみたらしが落ちないようにしつつ、燎原は手短に言った。

 

「そこで根性論か」

「うっ」

「『自分が頑張って成功すれば、相手も頑張って楽しんでくれるはず』ってこと?」

「全然ロジカルじゃないですよね……すみません精神論とか根性論の話になっちゃって」

「まあ、少なくとも、お前が頑張らないといけないというのは合っているな」

 

 台所で料理をしている照を待ち居間にいる珠輝の隣に座る燎原が、膝にみたらしを乗せて顎を撫でる。それから台所の方から聞こえてくる照の言葉に意識を向けた。

 

「たまたまちゃんの努力がしいなんのハートを射止める弓矢になるかは分からないし、目標とそれに向かう行動は論理的に繋がっていないかもしれないけど、『この道を進めば光があるはず』って無理やり信じて進まないといけないときもあるのかもしれないねぇ」

 

「……そう言われると確かに魔法じみてますね」

 

 納得したような顔をする珠輝は、照が持ってきた鍋をテーブルの上の鍋敷きに置かせて、小皿を取って中身を移す。

 雨で冷えた体と室温に、鍋の温かさはちょうどよく、仕事を一区切りした燎原の父・縁を交えて四人で食事を取るのだった。

 

 

 

 

 

 ──後日、あやめに話があるからと呼び出された珠輝は、燎原を連れて部室に訪れる。

 

「あの、話ってなんですか?」

「あー、と、うん、そう! いい加減私も名前で呼んでもいいかと思ってさ! 私もたまちゃんって呼んでもいいかな?」

「へ? ああはい、どうぞ……じゃありょーくんのことも名前で?」

「……じゃあ、犬井って呼び捨てるわ」

「なにを照れてるんですか」

 

 唐突に呼び方を変えたあやめは、むず痒さと気恥ずかしさの混ざったような表情を向ける。それとは別に、燎原はちらりと部屋の隅に居る椎奈へと視線を向けた珠輝の動きを見逃さない。

 

「……しーと仲直り……はまだ無理か、お互い踏ん切りついてないよな」

「……すみません、一緒にゲームを作りたいってお願いしてる手前、私ももう少しプログラミングで成果を出してからかなって」

「偉いなあ」

「全然です、実際は上手くいってないし、一晩頑張ってもいまいちで……」

「──じゃあ、私もたまちゃんのゲーム作りを手伝いたいって言ったら助太刀になるかな?」

 

 さらりとそう提案するあやめに、珠輝はキョトンとしつつも返した。

 

「で、でも関先輩は受験が……」

「あやめでいいよ。なんせ私も受験勉強の計画性とかさっぱりだし、残り一年のSNS部も楽しんどきたいからさ。ああほら労力削減のフリー素材サイトとか調べたら出てくるし」

「それは本気で助かります……!」

 

 先輩らしく頼り甲斐のある行動を取るあやめを見ている燎原は、肘で小突かれて歌夜の方を見るとそのまま小声で話しかけられる。

 

「燎原くんああいうの教えてないの?」

「聞かれたら答えた。……が、たまとしては自分の力でどうにかしたかったらしい」

「はぁ~そういうもんかなあ」

「まあ、これで人に頼れるのも実力の内だと気づいてくれれば良いんだが」

 

 ソファに並んで座る珠輝とあやめに視線を向けながら、燎原はそう言った。

 あやめは手持ちのテキストを打ち込む端末を広げると、珠輝へと言葉を投げ掛ける。

 

「苦手なものと向き合おうとしてるたまちゃんを見てるとさ、なんというかエモーションが湧いてくるっていうかなんというか」

「エモーション……」

「†だから、何かしらにこの昂った感情を物語として紡いでいきたい……ってワケさ†」

「なるほど! 初めてIri§あやめ先輩がカッコよく見えました!」

「†だろう? †」

「褒められてないぞ……」

 

 という燎原の呟きは、幸運か不幸か、あやめには届いていなかった。

 

 

 

「つまり、今作ってる男体化ののちゃんの美少女化ゲームに要素を足していく……と」

「そんなイメージかな」

「難しいですね……うーんどういう風になにを入れたらいいのか…………はっ!」

「どうした」

「りょーくんっ、ののちゃんに電話して!」

「構わんが」

 

 何かを思い付いたらしい珠輝は、不意に燎原を手招きするとスケッチブックを広げながらそう指示をする。言われた通りに電話を繋げてスピーカーに切り替えテーブルに置くと、少ししてから携帯越しに乃々の声が聞こえてきた。

 

『──もしもし?』

「あっ、ののちゃん?」

『たまき先輩? あれ、これりょー先輩から……まあいいか。なんです?』

 

 不思議そうな声を漏らす乃々に、珠輝は率直かつ簡潔に質問を飛ばした。

 

「ののちゃん、正直に言ってほしいんだけど、おじさまって苦手?」

『……? え、いや? たまき先輩の描くおじさまはカッコいいと思いますけど』

「ごめんそこは苦手ってことにしてくれる?」

『正直に言いましたけど!?』

 

 ──教室で低下していた攻め力が戻ってきたな……。そんな燎原の脳裏で独りごちた言葉をよそに、珠輝は乃々の返答を待つ。

 

『ま、まあ……ときどき厄介オタクおじさんに絡まれることはありますけど』

「なるほど……」

『? メモなんか取ってどうするんです?』

「えっと、あやめ先輩のストーリーの参考に…………『ゲームの敵として出てくるおじさまを主人公であるののちゃんが乗り越えて成長していく』……みたいなそういうイメージで」

『公然とファン批判するのはまた大炎上しちゃうんでやめてください!!??』

 

 前科のある少女の悲痛な叫びが部室に響き渡るのは、当然であった。

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