【完結】ステラのまほう/百武照攻略実況   作:兼六園

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※小説パートのみ


LAST STAGE 10-2

 昔々あるところに、女の子が居ました。

 

 女の子は親に様々なものを与えてもらいましたが、母親の心には『お前のせいだ』と常に囁く悪魔が住み着いているため、女の子は母を悲しませないように笑顔のお洋服を着て過ごさなければなりませんでした。

 

 父親は尊敬できる人でしたが、悪魔を祓うための努力を怠っていたため、家には薄氷のように脆い平穏しかありませんでした。そんなある時、女の子は出来心で両親に聞いてしまいます。「二人はどうして私を産んだの?」……と。

 

 

 

 

 

 ──水分補給で台所に向かった照が戻ってくると、居間では燎原が珠輝の頭を撫でていた。

 

「おっ、やってんねぇ」

「たまの親父さんが赴任先から帰ってこられなかったらしいんですよ」

「あーそれでかあ」

「むむむむ……よし! 補給完了!」

「なにを……?」

 

 当然の疑問を呟きつつ、照は燎原と共に少し離れて珠輝の作業を見守る。それから少しして、珠輝が頭を抱えるのを視認した。

 

「ダメだぁ~~~~……っ」

「やっぱ紛い物じゃダメかー」

「誰が紛い物だ」

「紛い物……私には偽物しか作れない……」

 

 珠輝はそのまま後ろに体を倒して、ちょうど燎原のあぐらを掻いた足に頭を乗せる。

 燎原がやや重症気味の珠輝の頭を今度は労うように撫でると、彼女はポツポツと続けた。

 

「パズルゲームは好きだし、自分で考える系も好きだけど……遊んだことあるゲームに似たルールのゲームを私が作る意味とは……」

「……そこを言い出すと、同人ゲームの全否定になると思うんだが」

「いっそあやめ先輩シナリオの紙芝居100%の方がいい気がしてきたよぉ~~~」

 

 頭を左右に振って足の上でゴロゴロと動く珠輝のぼやきを受け止めつつ、燎原はため息混じりに「やめろ」と言わんばかりに額を小突く。

 

「画面はけっこう良い感じだけど?」

「絵を並べてカッコよく見えるフィルターを被せただけですし……あやめ先輩はポンポン話を書けるから凄いなぁ」

「あやちー凄いよねぇ……いや本当にすごかったな、文芸部時代は特に──」

 

 そう呟く照は、ふと、昔を想起した。

 

 

 

 

 

『†別世界の音に耳を傾けるんです。あとは彼らの様子を書き留めればシナリオになります†』

『ごめん、なんて?』

 

 2年前の7月頃、文芸部に所属していたあやめに付き合い参加していた照はそんな話をする。

 

『……と、それはさておき百武先輩って色んな部を兼部してるんですよね?』

『うん。まあ、ちょっと入って美味しい要素だけ食い逃げしてる感じかな~』

『いやいや、そのつまみ食いが創作の糧ってもんじゃないスか。キャラが活きる源は、やっぱ人間観察から来るものだと思うんで!』

『あー、まあ、うん、そうだね?』

 

 他人に興味のない照は、そう言われるも一切なにもピンときていない。

 なんやかんやと話を書いてみるという流れになり、思考しながら帰宅するも、ついぞキャラを生かすという意味を理解できなかった。

 

 ──そして、トイレから出た辺りで、照は伸びていたコードに足を引っ掻けて転んだ。

 

『いっ!? ……だだ』

『照ちゃん! ごめっ、ごめんね』

『いいよ、大したことないから』

 

 掃除機のコードで転び、それを動かしていた張本人──照の母親は、顔を青ざめさせる。

 

『ごめんね、朝うまく動けなくて……掃除機かけるの夕方になっちゃったせいで……わた、わたし、私のせいで……』

『もー、大丈夫だって! 大袈裟だなあ』

 

 そそくさと立ち上がり、照は母に背を向けたまま自室に向かう。

 

『気にしないでー、いつもありがとねママー。……いっ、たぁ……』

 

 ぱたんと扉を閉めて鍵をかけた照は、それから痛みに顔をしかめた。

 擦りむいた膝を自室の救急箱で治療する照の顔は、演技を捨てた暗い表情をしている。

 

『……他人の気持ちなんて、わかりっこない』

 

 

 

 ──母は、心に病気(あくま)を抱えていた。どうやら私が産まれる前からずっとそうだったらしい。

 

 特に『自分の行いの悪さや調子に乗ったことが原因で他人を傷付けてしまうこと』に、強い加害妄想を感じるらしかった。今のような、わざとでない事に対しても。

 

 母が塞ぎ込んでしまうと丸一日潰れてしまい大変なので、結局、母の負担にならないように、ポジティブな顔と態度で着飾ることが最善なのだと私は学んでいた。

 

『……わかりたくもない』

 

 

 

 

 

 ──少女は聞きました。「二人はどうして私を産んだの? ママはいつも誰かのご機嫌に振り回されて辛そうなのに、私を産んだらもっと辛くなりそうって思わなかったの?」

 

 正直な父は「愛せる子供が居れば良くなるかもと思って──」と、ばつが悪そうに言います。母はただ「そんな質問をさせてごめんね」と言い、俯いて動かなくなりました。

 

 ならば、もう、いっそ────

 

 

『ふむ、いっそ……なんです?』

『にゃ──!? えっち!』

 

 ノートに書き留めていた文章を横から覗かれて、照は反射的に畳んで隠す。

 それは創作なのか、それとも──と問いかける相手は()()()()おらず、照は表情を取り繕い、あやめに上手いこと誤魔化していた。

 

『……いやー、試しに書いてみたんだけど、全然展開思い付かないや』

『そうなんですか?』

『お話は私には時期尚早だったかな! 次の部誌は挿絵だけ描いて参加~とかでもいい?』

『十分ですよ! ありがとうございますっ』

『…………、うん』

 

 そんな風に、楽しそうに、生き生きとしているあやめを見て、照の心は悪い方向に傾く。

 彼女の心には、母親とは別の欲張りな悪魔が住み着いていて、囁くのだ。──終わらせる前に、もっと巻き添えまくってやれ……と。

 

『……そうだ、文芸部の部誌だけじゃなくてあやちーと一緒に何かやるのも楽しそうっ』

『えっ? あー、じゃあ……ノベルゲームとか? 幼馴染にパソコンとかゲームに詳しい奴が居るんスけど、部活とか長続きしない奴で』

 

 悪魔は囁く。──この子は羨ましいぐらいに輝いている、この愉快な天才との時間を楽しむ為の良案(ひまつぶし)はないものか? と。

 

『──じゃあ、そのプログラめる子も一緒に、みんなで部活立ち上げちゃう?』

 

 ──大丈夫、所詮は赤の他人なのだから。大言壮語で他人を煽って、泥船を漕がせ、無様に転覆し、自分が生きる価値のないクズだってことを完璧に証明してやろう。

 

 照はあやめに、まさしく悪魔の提案をする。

 だが、その部活の立ち上げは照の望み通りにはならなかったのだ。

 

 いかに大失敗をして失望されようかと考えても、照を筆頭にしたSNS部の活動は不思議と上手くいってしまい、座礁する筈だった泥船は、いつしか海を渡れるほどになっていた。

 

 ──楽しい、嬉しい、愛しい。いつしか後輩たちを好きになっていた照は、だからこそ、決別しなければならないと考える。

 自分のような人間に縛られていてはいけない。特に、全てのきっかけをくれた、あの太陽のようなあの子の前では、まだもう少し──着飾った『テルさん』で居たいのだ。

 

 

 

 

 

「という話を今思い付いたのだ~」

「──まあ、そういうことにしておきますが」

 

 膝を枕にされた燎原は、珠輝が起きないようにしながら話に耳を傾けていた。

 珠輝の制作中のゲームを勝手にテストプレイしている照の横で、少し思案してから返す。

 

「よくも悪くも、何事も思い通りに行く方が珍しいですからね」

「だね~」

「……照さん」

「なぁに?」

「──その女の子が、なぜ両親に自分を産んだのかと聞いた理由ですが」

 

 一拍置いて、燎原は続ける。

 

「言ってほしかったんでしょう、愛していると」

「────」

「ただ、その一言が、欲しかったんですよね」

「あははは、考えすぎだよ」

 

 カラカラと乾いた笑い声を出す女の子(てる)は、流し目で隣の燎原を見ると言った。

 

「女の子は、気になっただけ。病気の軽い重いをかけっこの遅い早いか何かだと思ってるパパと、もっときちんと治療しようとは思わないママが、どうして産んだのか、ただ気になっただけで。……あんなこと、聞くべきじゃなかった」

「──照さん」

「遠回しに『お前は親のメンタルケアのために産んだんだよ』って言われたようなものなんだから、そりゃあ、女の子も()()()()よねぇ」

 

 そこまで言って、照は口をつぐみ、燎原の膝から起き上がった珠輝に視線を向ける。

 

 

「うーん…………あっ! もうっ照さん、勝手に遊ばないでくださいよ! というかりょーくんもなんで止めないの!?」

「ごめんごめん、起動してたからつい」

「止めろとは言われてないからな」

 

 カチリと同じように意識を切り替えて、燎原は自然な動きで照たちに会話を合わせる。

 

「……たまたまちゃんのハートにある『作りたい!』をもっと詰め込めば、きっと今よりイカしたゲームになると思うよっ!」

 

 照からパソコンを返された珠輝は、言葉を取り繕った、彼女の大雑把なアドバイスを受け取り、興奮ぎみに声を荒らげるのだった。

 

「えっ……ののちゃん(がモチーフの主人公)をおじさまにしてもいい……ってコトですか!?」

「うーん……多分そう、部分的にそう?」

「それで喜ぶのはお前を含む極一部だけだぞ」

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