【完結】ステラのまほう/百武照攻略実況   作:兼六園

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Final Chapter After

 しんしんと雪が降る12月下旬、白い吐息が口から漏れて空に消える。ふと足を止めて店先──オタクグッズ専門店に目を向けると、とある作品の特集が目に止まった。

 

「──『【魔女の(のろ)いと(まじな)いの王女】、アニメ化決定!』……か。お前も出世したな」

 

 男性がそう呟いて、飾られている書籍やコミックに目を向ける。卒業後に()()()()()()()()()()同人ゲームがよくもまあここまで──と頭の中で独りごちる男性は、視線を戻して待ち合わせている場所まで向かう。

 

 厚手のコートでも耐えきれるか危うい寒さに身震いしながら暫く歩くと、視線の先に、外出先から帰ってきていた件の女性を見つける。

 

「照、早かったな」

「──お、りょーげんくん」

 

 はぁー、と冷えた手に熱い息を吹き掛けていた女性──照は、声の方に顔を向けて表情を和らげる。短く切った髪はこの数年で伸び、それを後ろで縛って垂らしている姿はより女性らしさを増すアクセントとなっていた。

 

「当時の生徒会メンバーの同窓会に混じってきたみたいだが、どうだった?」

「あんまり変わってないね~、ちあっちとかいぬちゃんとか相変わらずだったよ」

「そうか」

 

 一言二言会話を交わして、二人は帰路を歩く。少し歩いてからそういえば、と切り出して、照は男性──燎原に言葉を投げ掛ける。

 

「同窓会の方でも話題にされてたよ、『のろまじ』がアニメ化するってやつ」

「たま達からも祝いのメッセージが来ていた。まあこの話は今度集まる時にすればいい」

「いやぁ~、急にりょーげんくんに『ゲームを作ろう』なんて言われたときはどうなることかと思ったけど、いざ完成したらメディアミックス展開でアニメ化まで漕ぎ着けるんだから、何が起きるかわからないもんだよねぇ~」

 

 あははは、と笑う照に、燎原は返す。

 

「結局マトモに時間を作れなくて本格的に制作出来るようになったのは卒業後だし、時々たまや部長や歌夜の力も借りての合作だけどな」

「そうだねえ」

「本来は最初から入れる予定だった『トゥルーエンドバージョン』も実装できたのは発売から1年半後。お陰で書籍版はバッドエンドのエピソードを書くことになって、コミカライズもノーマルエンドを描かないといけなかった始末だ」

「まあ、まあ~、うん。それは仕方ないよ、完璧よりまず完成ってね」

 

 苦笑を浮かべる照は、今では見上げないといけない程に背を伸ばした燎原の顔を見る。

 視力の低下で眼鏡を掛けている横顔を眺めていると、その視線に気づいて声を出す。

 

「なんだ?」

「……ううん。ただ、なんというか、昔では考えられないなあと思って」

「なにが──ああ、今こうして生きている自分が、元後輩とゲーム作りをした事がか」

「それもあるけど、ほら──この前、りょーげんくんと一緒に実家に帰ったじゃない」

「あの時に帰ろうと提案してから実際に帰るまでに数年を要した帰省の話か」

 

 うぐ、と痛いところを突かれて呻く照が、口をもごもごと詰まらせながら返す。

 

「だ、だって……やっぱり緊張してたし、怖かったし……仕方ないじゃん」

「でも、タイミング自体はバッチリだった──とも言えないか。あれは爆弾を投げ込みに来たようなものだ、さぞや驚いただろうな……」

 

 以前、()()()()も兼ねてようやく実家に帰った照に付いていった燎原は、当時の光景を思い返して眉を潜める。

 

「照のお母様は、アレで改善されていたのか?」

「えっうん。なんか薬の量が1.5倍になってたけど、前よりはコミュニケーション取れてる方だよ。……本当にアレでもね」

「────」

「でも……私は何もわかってなかったんだなって思い知らされたよ」

「照……」

 

 白い息を深く吐き出して、照は言う。

 

「ママがどんな薬を飲んでいたか、飲むとどんな副作用があるか、飲まないとどうなるか。私は親の都合で産まれたことが不快だったからって、そういうことを理解しようとしなかった」

「未熟な子供だったことが理由で、辛い環境が原因で、お互いに寄り添う選択肢を奪われた。ただそれだけだ。『昔はできなかったが今はできる』、それでいいだろう」

 

 ──深く考えすぎだ。と締めくくり、燎原は前よりは表情が明るくなった照を横目に歩く。燎原もまた、寄り添いつつも適度に突き放す言い方を敢えて選んでいた。

『愛してほしい、でも愛さないでほしい』という矛盾した心を抱える照もまた、母親の、言ってしまえば気難しい心をしっかり遺伝している。

 

「──手の掛かる奴ほど愛らしいってな」

「ん?」

「なんでもない」

 

 小さく笑って、燎原は照と共に歩く。おもむろに周囲の喧騒や、店先で宣伝されるキャンペーンを見て、二人はクリスマスを思い描く。

 

「そろそろクリスマスか。確か部長──村上さんの誕生日でもあったな」

「またしいなんのこと部長って言ってる。もしかして本人にもそう呼んでるの?」

「昔からの呼び慣れた言い方が抜けきらないんだよ。俺にとっては、村上さんはいつまでもSNS部の部長だからな……」

 

 気恥ずかしそうにうなじに手を添えて関節を鳴らす燎原は、一拍置いて続ける。

 

「──今年もまた、部長の誕生日会を家でやることになるのだろうか」

「なるといいなあ、またみんなで集まってどんちゃん騒ぎして、制作したゲームを酔った勢いで遊んで出来の悪さを嘆いたりして」

「……なぜ人は、完成したあとにバグと改善点を見つけてしまうのだろう……」

「うん! この話やめよっか!」

 

 声と表情が暗くなる燎原を気遣って、照は話題を打ち切る。彼女はそれからおもむろに燎原の手を握って引っ張るように歩いた。

 

「寒いし、早く帰ろ?」

「──ああ、そうだな」

 

 空気は肌寒く、けれどもその手は、いつぞやに握られたときと同じように熱い。

 

「りょーげんくん、今までも、これからも、貴方の人生(エゴ)に私は付き合うよ」

「────」

 

 照は笑って、燎原は目尻を緩める。

 燎原の右手を握る彼女の左手には、鈍く輝く、銀の指輪があった。

 

「そうか、なら……帰ったら早速新しいゲームのテストプレイをしてもらおうか。バグの確認と文章校正を兼ねてるから今夜は寝かさないぞ」

「…………ちょっと遠回りしない?」

「帰るぞ」

「やだ──っ!」

 

 はっはっは、と言いながら、今度は逃げようとする照の手を握り返して逆に前を歩く燎原。そんな彼に引っ張られ、駄々を捏ねながらも、照は素直に後ろをついて行く。

 

 ──望まぬ生を受けた少女は成長し、青年の隣で歩む人生を望んだ。そうしてゆっくりと時間を掛けて、知識を、経験を、誰かと自分を愛する心を積み重ねて行くのだろう。

 

 二人の人生(エゴ)はこれからも続くが、それはまた、いつかのどこかで語られるお話。

 

 

 

『完』




・魔女の呪いと呪いの王女
略称『のろまじ』。魔女に呪いを掛けられ怪物に変貌させられた他人嫌いのとある国の王女が、人間に戻るために人と関わることを強制させられるRPGとなっている。
人との関わりを怠り怪物の姿から戻れずに終わるバッドエンドと魔女を倒して人間に戻るノーマルエンドの二つが用意されており、1年半後にアップデートでトゥルーエンドが解禁された。
トゥルーエンドの内容はノーマルエンドの派生で、魔女を倒さず和解し、呪いを受け入れ怪物の要素を残した王女が国に戻る話となった。ラストのイベントスチルで拝める猫耳王女は大人気。
現在は書籍化、コミカライズ、アニメ化のメディアミックス展開で人気が伸びている。
主人公(ヒロイン)のモデルは猟犬先生の知り合いで、魔女のモデルはその知り合いの母親であるという裏設定がSNSで開示されたらしい。

『大丈夫、私の中のこの(のろ)いが、いつか(まじな)いに変わる時が来るから。だから──もう、大丈夫だよ、魔女(おかあ)さん……っ』



・猟犬先生(犬井燎原)
のろまじの作者。表舞台に出るときは必ず鶏のマスクで顔を隠しているため、満場一致で『名前は犬なのに顔は鶏なんだ……』と思われている。
のろまじアニメ化の発表生配信の際、指輪を外し忘れていたせいで、何故か存在していた猟犬先生ガチ恋勢の脳を破壊した。
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