プロット『倫也と恵が日直をこなす』
サブプロット『英梨々が詩羽に相談をする』
春らしい柔らかい日差しで教室は明るかった。
恵は、まだざわつく教室内でクラスメートAのところへ行き、日直の内容を確認をした。
「おはよう、クラスメートAさん」
「加藤さん!おめでとう、一日で名前持ちキャラになるなんて・・・さすがね」
「あっ、たまたまだよ・・・ほら主人公の安芸くんと話したから・・・」
「ううん、こんなのは異例なのよ・・・それに今日は主人公と日直よね?」
「うん。そのことで内容を伺いに来たのだけど・・・」
「それもおかしいのよ」
「おかしい?」
「だって、わざわざ日直イベントなんて普通は起こらないもの」
「へぇ・・・そうなんだ」
「あなた・・・実はヒロインなんじゃないの?」
「それはこないだ安芸くんにも言われたけど・・・ちがうよ?」
「そう・・・詳しく調べてみる?」
クラスメートAは真剣な目をしていた。恵は何か重要な分岐点のような気がした。あまり物語の内容に関わると・・・サスペンス調になりかねない。倫也はサスペンス調にはならないと言っていた。だから恵も詮索はやめようと考えた。
「ううん、このままクラスメートB役でいいよ」
「あなたがいいのならいいのだけど・・・もし、問題が起きたらいってね、確認してくるから」
「うん。その時はお願いする。それよりも今日の日直イベントって何したらいいのかな?」
「黒板を消したり、先生に頼まれたことしたらいいんじゃないの? 具体的なイベント内容はこちらにもきてないし・・・」
「そっか。ありがと」
「日直・・・がんばってね、っていうのも何か変よね」
2人が笑う。クラスメートAは話やすい。彼女にも何か名前があって、設定があって・・・でも、この作品ではわからなくって・・・。変な世界観だなぁっと恵は思った。
※※※
授業が終わると恵は黒板を消した。チョークの粉がキラキラと散る。倫也は何をするでもなく男子モブと会話したり、ラノベを読んだりしている。まったく日直の仕事をする気配はない。恵は怒るでもため息をつくでもなく、たんたんと仕事をこなした。
黒板消しをクリーナーできれいにして、クリーナーに溜まった粉をビニール袋にいれてから捨て、それから短いチョークは捨て、何本かの新しいチョークを置く。
黒板の右下に書いてある日直の文字とその下の『安芸』『加藤』の名前を何度も眺める。
こうして5時間目まで何事もなく終わり、不服そうなクラスメートAが恵に話しかける。
「安芸くんに日直の仕事をちゃんとするように言おうか?」
「いいよ別に。そんな小さなこと・・・」
「小さいことだけど、これじゃあ、何のためのイベントかわからないよ?」
「まぁ、日直だし・・・それにね、主人公だし忙しいんじゃないかな?」
「いや、さっきから寝てるだけなんだけど・・・」
「ほら、お昼休みのあとの五時間目は一番眠いしね。それにこんな小さいことに、なんて言ったらいいかわかんないよ」
「そうなんだけど、普通にさぼっている男子モブと変わらないのよね・・・もしかして、この主人公ダメ主人公なんじゃないの?」
「いい主人公だと日直イベントで何か違うの?」
「さぁ・・・?もう少しヒロインに寄り添ってくれるんじゃない?」
「わたしヒロインじゃないし、しょうがないんじゃないかなぁ」
「あー、なんか加藤さんより、私のほうがイライラしてきたんだけどぉ」
のんびり構えている恵に対して、クラスメートAは進展しない状況に納得がいかないようだった。
※※※
6時間目は古文の授業である。年配の男性教師はまるで呪文のようなゆっくりとした口調で講義するため、真面目な生徒にとっても睡魔との格闘で、部活組はさっさと諦めて机にふせて寝る。
そんな白髪のまじった小柄な年配教師が授業中に、ぽつりとつぶやく。
「今日は黒板綺麗だねぇ」
恵は少しだけ嬉しくなる。倫也の方を見ると振り返って恵の方を見ている。それから照れくさそうに顔の前に手を出して謝っていた。恵は何気ない表情で手を少しだけ振ってこたえる。
(ああいうカワイイ態度が安芸くんなんだよなぁ・・・どこか憎めないというか・・・)
クラスの多くが寝静まったころ、古文の授業が終了する。特にノートを集めるわけでもなく、プリントが配布されたわけでもなく、先生が退出していった。
倫也は席を立つと黒板を一人で消した。加藤はそれを眺める。何もないなぁと思いながら目だけが彼の姿を追っていた。
ショートホームルームが終わり、がやがやとみんなが帰り始めた頃、倫也は椅子に座ったまま教室に残っている。何するでもなく窓から外を見おろしていた。
クラスメートAが指示を出すとモブ達はさっさと退室して帰っていった。それから恵に何やら合図をおくって自分も帰っていった。
教室には倫也と恵の2人になった。
少したつと、校庭からは部活を始める声が聞こえてくる。
隣の教室でときどきバカ笑い聞こえ、廊下の遠くでボールの跳ねる音が聴こえた。
当たり前のような学校の放課後が過ぎていく。
(何か話かける方がいいかな?「今日の日直どうだったかな?」・・・これは変だ。何もしてないし、「ノート集めなかったね」・・・これも女々しい感じがする。いっそ非難がましく「もう少し日直手伝ってくれてもいいんじゃないかな」っていってみる?)
恵は倫也が退屈そうに時間をつぶしているのを見ていた。
(話かけたら次のフラグが立つのかな?「一緒に帰ろうか?」ぐらいは、誘ってくれるかもしれない。その時はどう答える?一緒に帰る?また断る?帰ったとして話題は?未来のプロットはわからない。日直イベントを反省する話題?それもなんだかなぁ・・・)
そんなバカなことを考えて行動も起こせずにいると、教室の扉が勢いよくガラガラと開いた。
「倫也―!帰るよ」
恵はその人影を見て驚いた。人形のように綺麗な人だった。ツインテールに束ねた髪が窓から指す光で照らされて輝いている。
(ヒロインの澤村さんだ。そっか、澤村さんを待っていたのか・・・よかった・・・話かけないで・・・)
「ああ」
倫也が気のない返事をしながら鞄をもって立ち上がる。
英梨々が恵のほうを一瞥するが、声もかけずに無視をした。
それから見せつけるように、倫也の腕を組むと教室から引っ張っていく。
「帰り、たい焼きでも食べてく?」
「それは冬のイベントだよ」(それは冬だよ)
「じゃあ、ガリガリくん?」
「夏だな」(夏ね)
「あんた細かいわねぇ・・・」
「別に春は帰りに食わなくてもいいんだよ」
「なんでよ?」
「花が咲いているから・・・」(静かに歩いたほうがさまになる)
「なにそれ?たい焼き食べたいときに食べてなにが悪いの?」
「悪かねぇよ。さっさと帰るぞ」
2人が教室からでていくとき、倫也と恵の目があう。倫也が苦笑いをして手で合図を送る。指の示した先は黒板の右下の文字だった。
誰もいなくなった教室に恵が一人残る。それから倫也が日直の名前を消していないことに気が付いた。
それから少し考えて黒板に近づくと、安芸と加藤の文字の上に、赤いチョークで三角を描き、下におろす棒を描くのをためらってから消した。
クラスメートB役の加藤恵には放課後イベントは起きなかった。