プロット『倫也と英梨々デート①(ボート)』 その3
※※※
「じゃ、行くわよ」
「どこに!?」
「ボートよ。またなにか御託並べる気?」
「わかったよ・・・」
2人が家から出る。英梨々は通りにでてタクシーを拾う。
「タクシーかよ」
「いいのよ、他にお金持ち設定なんて使い道あまりないんだから」
英梨々が奥に座る。
「タクシー乗るのは正月いらいね。あそこからずいぶんこじれたものね?」
「なんの話だ?」
「こっちの話よ・・・」
ボートの乗れる公園まではけっこう距離がある。
英梨々は窓の外を見ながら、会話を続ける。
「加藤さんとはそれだけ?」
「ああ、それだけだよ」
「LINEしてないの?」
「してねーよ」
「なんで?」
「なんでって、なんで??」
「ちょっとケータイ見せなさいよ」
「それは悪趣味でしょ?」
「見られて困るのような会話があるの?」
「ねぇよ」
「ならいいじゃない?」
「そういう詮索する彼女は・・・」
「また御託並べるの?」
「ほらよ」
倫也が英梨々にケータイを渡す。
>「五月のクラスメートBイベントなんだけど、『お土産を渡す』でいいかな?」
>「いいと思う」
>「自宅までいくのは変だから、学校始まってからでいいよね?」
>「いいと思う」
>「じゃあ、また、学校でね」
「これだけ?」
「ああ」
「あんた二日も返信してないじゃない?」
「既読はついてる。問題ないだろ」
「それって冷たくない?」
「いろいろ考えてるんだよ。こっちだって・・・」
「どういうこと?」
「話すと長くなるし、また御託並べてるっていうだろ?」
「いうわよ。でも話しなさいよ。着くまで暇だし」
「加藤の話題を暇つぶしに使うなよ・・・」
「どちらかというと全体的に雑に扱われているのはあたしなんだけどね」
「・・・。いいか、まず返信パターンは大きく分けて3つだ。A案は相手に対して好意をもっている場合。加藤がヒロインと仮定し攻略する場合と言ってもいいかもしれないが、お土産を楽しみにしてることを伝え、そこから会話を発展させ、いつ戻ってくるのかを聞き、GWの最後に少しでも会えたら成功だろう」
「ハーレム型主人公っぽい口説き方ね」
「B案はもう少し様子を見る。北海道での様子を聞きながら軽く会話を重ねていく。これだと一緒に旅行している気分になれるし、お互いに負担にならない。A案は場合によってはひかれかねないが・・・B案は距離感を保ちやすい」
「そうねぇ、無難な感じがする」
「C案は返信しないでシャットダウンする。これは相手に対して好意をもっていないことを示すには一番いい手段だ」
「一言、『じゃあ、またな』ぐらい返信してもいいんじゃないのか?」
「それだと、さらに返信がくる変化も考えられる。無言ほど厚い壁はないだろ?」
「ちょっとまって・・・どうしてそんなに加藤さんに冷たくするの?」
「別に冷たくしているつもりはない。主人公と脇役の関係を保っているだけだ。いわば業務連絡だよ」
「そのさ、『ヒロイン』とか『クラスメートB』って誰が決めているの?どんな世界観なの?そこにはルールがあるの?倫也は加藤さんと仲良くしてはいけないの?」
「知らねぇーよ。そういう物語なんだろう?」
「何それ?じゃあ、加藤さんと倫也は恋ができないの?」
「なんでヒロインじゃないやつと主人公が恋をするんだ?」
「はぁ?誰が決めたの?」
「知らねぇよ・・・」
「・・・」
「それにな、加藤は最初にお茶を誘ったのを「クラスメートB」だからって理由で断っている」
「業が深い設定ねぇ・・・」
「考えすぎだよ。加藤は加藤で「クラスメートB」を気に入っていて、けっこう楽しんでいるんじゃないか?」
「へっ・・・?」
「なんか、肩の荷が降りたというか、ほのぼのしてていいぞ。一生懸命な子だからヒロインもできそうだけどな」
「もういいわ・・・」
英梨々は少し理解してきた。この変な世界観を生み出した元凶・・・、加藤恵をクラスメートBにするために、世界が歪になっている。
タクシーが目的地に着いた。
2人が降りる。支払いは英梨々がした。倫也は金を出そうともしない。そういうところで見栄をはるなら電車を使う。
「楽だったよ。ありがと」
「気にしなくていいわ。さっ、いくわよ・・・ってそろそろ(つづく)かしらね?」
「そうだな。あと、一つだけ言っておきたいことがあるけど・・・」
「何よ?」
「俺が加藤に冷たい態度をとっているのはさ・・・、加藤との関係を・・・縮めたくないからなんだよ」
「?」
「俺は今、英梨々と付き合っている。光栄だよ、ほんと。だからさ・・・誰かまわず仲良くなんてしない。それはきっと誰かを悲しませる結末になるだろ?俺は英梨々を選んだ。だからさ、英梨々を幸せにするように努力するよ。お気に召さないようだけどな」
「・・・倫也・・・」
英梨々は空を見た。ゆったりとした白い雲が風に流されている。今日もいい天気で新緑が明るい。絶好のデート日和で、となりには理想のダメな王子さまがいて・・・それはこの物語の中でちゃんと彼氏で、あたしのことをちゃんと考えていてくれて・・・
なのに、伊織のときよりもずっとずっと心が後ろめたい。
だけど、英梨々は自分の心と向き合って、自分が何をしたいのか?どんな物語をつづりたいのか考えて、こう言った。
「手・・・つないであげてもいいわよ?」
どこかの木で鳥が鳴いてから羽ばたいた。
(つづく)