負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

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いい感じ


第十二章

 

プロット『倫也と英梨々デート①(ボート)』 その4

 

※※※

 

 英梨々は倫也の前に進むと振り返って右手を差し出した。

倫也が無言で手にとった。

 

「何かいいなさいよ?」

「思った以上に英梨々の手は華奢で指は細くって人形みたいだけど・・・ペンだこがしっかりあって・・・」

「悪かったわね」

「ずっとがんばってきたんだなって思うと、何もやってこなかった自分が恥ずかしい」

 

手をつないだまま歩く。

 

「何をそんなに暗くなってるの?」

「お前の隣にはもっと相応しいやつがいるんじゃねーの?」

 

英梨々が眉をひそめる。イラッとする。

 

「何をそんなに卑屈になってるか知らないけれど・・・、慰めてほしいわけぇ?」

「英梨々はそういうキャラじゃないだろ?」

「なによその『キャラ』って、そんな風に人をステレオタイプにカテゴリーしてほしくないわ。ツンデレだの幼馴染だの・・・そんな属性で縛らないで欲しいんだけど」

「ははっ、そうだな」

 

倫也が渇いた笑いをする。

 

「倫也は・・・バイトいくつも掛け持ちして、朝から新聞配達して好きなことをやってきた。それはそれでいいじゃない?確かにあたしや詩羽のようにクリエイターではないかもしれない。でも、それは頑張っていないこととは違うわよ。ゲームを作りたくなったら作ればいい・・・だいたいね、あたしの隣に立つに相応しい男になりたいなら、そういう努力しなさいよ?」

「真面目か!?」

「・・・」

 

英梨々がため息をつく。

 

「ボート乗り場着いたぞ」

 

倫也が手を離して周りを見渡して、チケットの自販機を見つける。

 

「アヒルボートでいいか?」

「なんでよ」

「日焼けするだろ?」

 

英梨々が構わず、手漕ぎボート60分のチケットのボタンを押す。

 

「なっ・・・俺、漕いだことなんてないけど?」

「だったら、日焼けなんて理由にしないで、ボート漕げないからアヒルでいいですかってきけばいいじゃない?」

「かっこ悪いだろ?」

「聞いてくる時点でかっこ悪いから平気よ」

「・・・お前、機嫌悪い?」

「別に・・・」

 

英梨々がボートに向かう。倫也もついていく。

英梨々はボートに先に乗り込んで座る。倫也は漕ぎ手の方へあとから座った。

倫也がたどたどしく漕ぎ始めた。

 

英梨々はボートに揺られながら、胸の中で『不安』が大きくなっていくのに気が付いていた。

泣くんじゃないと自分に言い聞かせる。明るく振る舞うか、少し怒った感じにする。

 

倫也は自分を選ばない、選べない。・・・選ばせてはいけない。

そんな思いが次から次へと湧き上がってくる。素直に幸せな気分になれない。

 

※※※

 

「どうした英梨々、下を向いて?酔ったか?」

 

倫也がボートに乗ってから、下を向いたままの英梨々を気遣う。

 

「ほっときなさいよ」

 

英梨々は気持ちを立て直そうとする。

彼氏と過ごす普通のデートだ。素直に嬉しいし、楽しい。

けど、そうであればあるほど『不安』が胸に広がる。

この『負け犬シリーズ』で英梨々が抱える葛藤からは逃れられない。

 

顔を上げなくては・・・笑うんだ。サブヒロインじゃない、メインヒロインでもない、この物語のヒロインを続ける・・・

 

「助けに来ましたよ、澤村先輩っ!」

 

顔を上げると、近くのボートに『波島出海』だった赤モブが腕を組んで立っている。

 

「あれ、出海ちゃん?」

 

倫也が反応する。

 

「ふふふっ、倫也先輩、残念ながら・・・わたしは『波島出海』はやめたのでーす。今はただの『赤モブ』でーす」

「どうした?」

「倫也、いろいろな事情があるのよ・・・きっと。赤モブとして接してあげて」

「ん?うーん。わかった」

 

周りをみてみると、倫也と英梨々のボートが他のモブの乗っているボートに囲まれている。

 

「包囲陣形が完成した今、澤村先輩に勝ち目はないのでーす」

「そのしゃべり方はなに?」

「赤モブはキャラを模索中でーす」

「小さい『ぇ』をいれてみたら?」

「それは、それですでに存在するのでぇーす」

「あっそ。で、何?」

「恵先輩には勝てませんが、澤村先輩には負けなそうなのでぇーす」

「ああ・・・なるほど」

 

英梨々が指をバチンッと強く鳴らした。

周りのモブと赤モブがすべて、転送されて消えた。

 

「なんだ?今の?」

 

倫也が困惑する。

 

「別に気にしなくていいわよ。『あたし』が気弱になると、正統ラブコメ路線ができなくなるのよ・・・」

「?」

「おかげで少し楽になったわ」

「大丈夫か?英梨々?」

「ええ、ドタバタのほうがずっと楽なんてね・・・」

 

※※※

 

赤モブとモブ達は池袋の駅前に転送された。

 

「出海!ちょうどいいところにきた」

「あっ、お兄ちゃん、どうしてここに?」

「ん~、今はもうお兄ちゃんではないんだけどな」

「だったら、出海って呼ばないでよ!」

「はははっ、ごめん。・・・手伝ってくれるか?」

伊織がイベント進行表を赤モブに渡す。

「それとも、また『負け犬6』に登場するかい?」

「ううん、もういい・・・お兄ちゃんを手伝うよ」

「ありがとう」

 

伊織は考えていた。この『負け犬6』で、もう少し妹が輝ける環境がないものかと・・・

でも、それは贅沢な悩みだろう、出海は『負け犬7』で頑張った。

うん。だから、ここからの波島兄妹は裏方でいい。加藤さんが幸せな結末を迎えられるなら・・・っと。

 

(つづく)




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