プロット『倫也と英梨々デート①(ボート)』 その4
※※※
英梨々は倫也の前に進むと振り返って右手を差し出した。
倫也が無言で手にとった。
「何かいいなさいよ?」
「思った以上に英梨々の手は華奢で指は細くって人形みたいだけど・・・ペンだこがしっかりあって・・・」
「悪かったわね」
「ずっとがんばってきたんだなって思うと、何もやってこなかった自分が恥ずかしい」
手をつないだまま歩く。
「何をそんなに暗くなってるの?」
「お前の隣にはもっと相応しいやつがいるんじゃねーの?」
英梨々が眉をひそめる。イラッとする。
「何をそんなに卑屈になってるか知らないけれど・・・、慰めてほしいわけぇ?」
「英梨々はそういうキャラじゃないだろ?」
「なによその『キャラ』って、そんな風に人をステレオタイプにカテゴリーしてほしくないわ。ツンデレだの幼馴染だの・・・そんな属性で縛らないで欲しいんだけど」
「ははっ、そうだな」
倫也が渇いた笑いをする。
「倫也は・・・バイトいくつも掛け持ちして、朝から新聞配達して好きなことをやってきた。それはそれでいいじゃない?確かにあたしや詩羽のようにクリエイターではないかもしれない。でも、それは頑張っていないこととは違うわよ。ゲームを作りたくなったら作ればいい・・・だいたいね、あたしの隣に立つに相応しい男になりたいなら、そういう努力しなさいよ?」
「真面目か!?」
「・・・」
英梨々がため息をつく。
「ボート乗り場着いたぞ」
倫也が手を離して周りを見渡して、チケットの自販機を見つける。
「アヒルボートでいいか?」
「なんでよ」
「日焼けするだろ?」
英梨々が構わず、手漕ぎボート60分のチケットのボタンを押す。
「なっ・・・俺、漕いだことなんてないけど?」
「だったら、日焼けなんて理由にしないで、ボート漕げないからアヒルでいいですかってきけばいいじゃない?」
「かっこ悪いだろ?」
「聞いてくる時点でかっこ悪いから平気よ」
「・・・お前、機嫌悪い?」
「別に・・・」
英梨々がボートに向かう。倫也もついていく。
英梨々はボートに先に乗り込んで座る。倫也は漕ぎ手の方へあとから座った。
倫也がたどたどしく漕ぎ始めた。
英梨々はボートに揺られながら、胸の中で『不安』が大きくなっていくのに気が付いていた。
泣くんじゃないと自分に言い聞かせる。明るく振る舞うか、少し怒った感じにする。
倫也は自分を選ばない、選べない。・・・選ばせてはいけない。
そんな思いが次から次へと湧き上がってくる。素直に幸せな気分になれない。
※※※
「どうした英梨々、下を向いて?酔ったか?」
倫也がボートに乗ってから、下を向いたままの英梨々を気遣う。
「ほっときなさいよ」
英梨々は気持ちを立て直そうとする。
彼氏と過ごす普通のデートだ。素直に嬉しいし、楽しい。
けど、そうであればあるほど『不安』が胸に広がる。
この『負け犬シリーズ』で英梨々が抱える葛藤からは逃れられない。
顔を上げなくては・・・笑うんだ。サブヒロインじゃない、メインヒロインでもない、この物語のヒロインを続ける・・・
「助けに来ましたよ、澤村先輩っ!」
顔を上げると、近くのボートに『波島出海』だった赤モブが腕を組んで立っている。
「あれ、出海ちゃん?」
倫也が反応する。
「ふふふっ、倫也先輩、残念ながら・・・わたしは『波島出海』はやめたのでーす。今はただの『赤モブ』でーす」
「どうした?」
「倫也、いろいろな事情があるのよ・・・きっと。赤モブとして接してあげて」
「ん?うーん。わかった」
周りをみてみると、倫也と英梨々のボートが他のモブの乗っているボートに囲まれている。
「包囲陣形が完成した今、澤村先輩に勝ち目はないのでーす」
「そのしゃべり方はなに?」
「赤モブはキャラを模索中でーす」
「小さい『ぇ』をいれてみたら?」
「それは、それですでに存在するのでぇーす」
「あっそ。で、何?」
「恵先輩には勝てませんが、澤村先輩には負けなそうなのでぇーす」
「ああ・・・なるほど」
英梨々が指をバチンッと強く鳴らした。
周りのモブと赤モブがすべて、転送されて消えた。
「なんだ?今の?」
倫也が困惑する。
「別に気にしなくていいわよ。『あたし』が気弱になると、正統ラブコメ路線ができなくなるのよ・・・」
「?」
「おかげで少し楽になったわ」
「大丈夫か?英梨々?」
「ええ、ドタバタのほうがずっと楽なんてね・・・」
※※※
赤モブとモブ達は池袋の駅前に転送された。
「出海!ちょうどいいところにきた」
「あっ、お兄ちゃん、どうしてここに?」
「ん~、今はもうお兄ちゃんではないんだけどな」
「だったら、出海って呼ばないでよ!」
「はははっ、ごめん。・・・手伝ってくれるか?」
伊織がイベント進行表を赤モブに渡す。
「それとも、また『負け犬6』に登場するかい?」
「ううん、もういい・・・お兄ちゃんを手伝うよ」
「ありがとう」
伊織は考えていた。この『負け犬6』で、もう少し妹が輝ける環境がないものかと・・・
でも、それは贅沢な悩みだろう、出海は『負け犬7』で頑張った。
うん。だから、ここからの波島兄妹は裏方でいい。加藤さんが幸せな結末を迎えられるなら・・・っと。
(つづく)
いい感じじゃない