プロット『学校が始まる。恵がお土産を倫也に渡す』
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GW明けの学校。HR前の教室はいつもより少し騒がしい。旅行へいった人は楽しそうに会話をしているが、とくにイベントのなかった人は気配を消す。もっともこの教室の雰囲気はクラスメートAによって作られているが。
倫也はすでに席に座って、ぼんやりと窓からモブの登下校の様子を見ていた。恵が教室に入ってきて自分の席に座る。それからお土産の小さな袋を持って倫也のところに近づく。
「これ、お土産」
いつものクラスメートBの抑揚がなく少しだけ高い透き通った声。
倫也は振り返ると、恵はもう自分の席へ歩いていた。
「ありがとな」
礼を言ったが聴こえただろうか?
会話にすらなっていない。一応、これはイベントだ。サブプロットも用意されてない以上は、このプロットで1000文字到達しないと成立しない。このままだと恵は失敗になる。倫也は、ここから長いモノローグを語ってフォローすべきか考えていた。
倫也が恵を目で追うと、今度はクラスメートAにもお土産のはいった小さな袋を渡していた。笑顔でなにやら会話している。
倫也はもらったお土産を袋から取り出す。小さな綺麗な缶だった。飴かなにかだろうか、商品名を見ると、北海道で有名なお菓子メーカー『七花亭』のボンボンだった。コアントローなどのリキュールが中にはいっている砂糖菓子である。
クラスメートAも袋から缶を取り出す。それからさっきまでの和やかな雰囲気とは変わって、険しい表情になると立ち上がっていった。
「これは、学校イベントとしては認められないお菓子よ・・・加藤さん」
教室が静かになる。クラスメートAが合図を送ると元の喧噪に戻った。
「えっ?」
恵が聞き返す。
「これは少量だけどお酒がはいっている。もちろんお菓子の範囲だけど・・・わたし達のようなラブコメだと、その少量のお酒でヒロインは酔って騒動に発展するわ。だから、学校内に持ち込むのは不適切なのよ」
「そうなんだー」
恵の返事は表情も声のトーンもフラットだった。
「だから・・・回収してもらえる?」
「わかった」
恵がまた倫也のところへ近寄ってくる。
「聞こえた?」
「ああ」
「そういうわけだから、ごめんね」
「ああ、あんまり気にするなよ?」
「うん、ありがと」
恵が完璧な作った笑顔で答える。倫也はそれでも顔を赤らめてどぎまぎする。
(こいつ・・・絶対ヒロインだろ・・・なんだよ・・・クラスメートBって・・・)
それから、恵が別の小さい袋を渡す。
「これに変えてもらえる・・・かな」
「ん?」
倫也が受け取る。そこには同じ『七花亭』の板チョコが一枚入っていた。
「ありがとな・・・」
恵が自分の席に戻る。イベントが無事に終了したことをクラスメートAが確認すると、先生が入ってきて、いつもの学校生活が始まった。
授業中、倫也が恵を見ても気配が消えていてモブと見分けがつかない。謎の職人芸である。
倫也は何か違和感があったが、それが何かわからなかった。
※※※
昼休み。恵は小さなお土産の袋を2つもって教室から出て行った。
G組。英梨々がいる教室である。恵が中を覗き込むと、英梨々は複数のモブで囲まれていて、にこやかに話しをしている。
恵は少し迷ったが英梨々に近づいていき、話しかける。
「あの、澤村さん、少し時間もらえるかな?」
英梨々が固まる。目の前にいるのは加藤恵。このプロットで自分は関係ないはずだった。
油断した?いや、警戒していても同じだっただろう。恵がアドリブをしかけてきた。まずはその事実を受け止めて冷静に対処しないといけない。
「そう、じゃあ・・・ついてきてくれる?」
英梨々が取り巻きと会話して別れると、教室から出て人のいない屋上への階段のところへ移動した。
英梨々は怪訝そうな顔で恵をにらむ。
「わたし、何か悪いことしたかな?」
「そんなことはどうでもいいわよ。要件だけいって」
「これ、受け取って欲しくって」
恵が小さいお土産袋を渡す。
「澤村さん『メインヒロイン』やってくれていて、お世話になっているから・・・お土産買ってきたんだけど」
「・・・そう」
英梨々が受け取る。中には倫也に渡したのと同じ板チョコが一枚はいっていた。
「ありがと、加藤さん。でもあたしは『メインヒロイン』じゃないわ。ただの『主役』だから・・・」
「へー?じゃあ、『メインヒロイン』は不在なの?」
「そうみたいね、おかしな物語よね」
「そう」
英梨々は恵が何を考えているかまったくわからない。ポーカーフェイスとトーンのまったく変わらない声。彼女の行動からは彼女の気持ちがまったくみえてこない。
「それにしても・・・おかしな世界観よね。役割があるなんて」
「それにはまったく同感。なんでこんなことになっているのかなぁ」
「さぁ・・・」
英梨々が恵を見る。恵がジト目で英梨々をまっすぐ見つめ返している。
英梨々は背筋がぞっとした。
「・・・まさか、このチョコに毒でも入っているんじゃないでしょうね?」
「えっと?そういうときは『勘のいい子は嫌いだよ』っていうんだっけ?」
「もう少し感情をこめたら?加藤さん」
恵が軽く会釈して、その場から去っていく。
英梨々はその場にへたりこんだ。正直生きた心地がしない。
まずは相談だ。霞ヶ丘詩羽なら昼休みは屋上でメロンパンを食べている。それが彼女の定位置だから。それはこの階段を上って緑色をした金属の重たい扉の先にある。
(つづく)