負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

19 / 72
第十四章

 

プロット『学校が始まる。恵がお土産を倫也に渡す』

 

※※※

 

 GW明けの学校。HR前の教室はいつもより少し騒がしい。旅行へいった人は楽しそうに会話をしているが、とくにイベントのなかった人は気配を消す。もっともこの教室の雰囲気はクラスメートAによって作られているが。

 倫也はすでに席に座って、ぼんやりと窓からモブの登下校の様子を見ていた。恵が教室に入ってきて自分の席に座る。それからお土産の小さな袋を持って倫也のところに近づく。

 

「これ、お土産」

 

 いつものクラスメートBの抑揚がなく少しだけ高い透き通った声。

 

倫也は振り返ると、恵はもう自分の席へ歩いていた。

 

「ありがとな」

 

礼を言ったが聴こえただろうか?

会話にすらなっていない。一応、これはイベントだ。サブプロットも用意されてない以上は、このプロットで1000文字到達しないと成立しない。このままだと恵は失敗になる。倫也は、ここから長いモノローグを語ってフォローすべきか考えていた。

 

 倫也が恵を目で追うと、今度はクラスメートAにもお土産のはいった小さな袋を渡していた。笑顔でなにやら会話している。

 

倫也はもらったお土産を袋から取り出す。小さな綺麗な缶だった。飴かなにかだろうか、商品名を見ると、北海道で有名なお菓子メーカー『七花亭』のボンボンだった。コアントローなどのリキュールが中にはいっている砂糖菓子である。

 

 クラスメートAも袋から缶を取り出す。それからさっきまでの和やかな雰囲気とは変わって、険しい表情になると立ち上がっていった。

 

「これは、学校イベントとしては認められないお菓子よ・・・加藤さん」

 

教室が静かになる。クラスメートAが合図を送ると元の喧噪に戻った。

 

「えっ?」

 

恵が聞き返す。

 

「これは少量だけどお酒がはいっている。もちろんお菓子の範囲だけど・・・わたし達のようなラブコメだと、その少量のお酒でヒロインは酔って騒動に発展するわ。だから、学校内に持ち込むのは不適切なのよ」

「そうなんだー」

 

恵の返事は表情も声のトーンもフラットだった。

 

「だから・・・回収してもらえる?」

「わかった」

 

恵がまた倫也のところへ近寄ってくる。

 

「聞こえた?」

「ああ」

「そういうわけだから、ごめんね」

「ああ、あんまり気にするなよ?」

「うん、ありがと」

 

恵が完璧な作った笑顔で答える。倫也はそれでも顔を赤らめてどぎまぎする。

 

(こいつ・・・絶対ヒロインだろ・・・なんだよ・・・クラスメートBって・・・)

 

それから、恵が別の小さい袋を渡す。

 

「これに変えてもらえる・・・かな」

「ん?」

 

倫也が受け取る。そこには同じ『七花亭』の板チョコが一枚入っていた。

 

「ありがとな・・・」

 

 恵が自分の席に戻る。イベントが無事に終了したことをクラスメートAが確認すると、先生が入ってきて、いつもの学校生活が始まった。

授業中、倫也が恵を見ても気配が消えていてモブと見分けがつかない。謎の職人芸である。

 倫也は何か違和感があったが、それが何かわからなかった。

 

※※※

 

 昼休み。恵は小さなお土産の袋を2つもって教室から出て行った。

G組。英梨々がいる教室である。恵が中を覗き込むと、英梨々は複数のモブで囲まれていて、にこやかに話しをしている。

 恵は少し迷ったが英梨々に近づいていき、話しかける。

 

「あの、澤村さん、少し時間もらえるかな?」

 

 英梨々が固まる。目の前にいるのは加藤恵。このプロットで自分は関係ないはずだった。

油断した?いや、警戒していても同じだっただろう。恵がアドリブをしかけてきた。まずはその事実を受け止めて冷静に対処しないといけない。

 

「そう、じゃあ・・・ついてきてくれる?」

 

英梨々が取り巻きと会話して別れると、教室から出て人のいない屋上への階段のところへ移動した。

 

英梨々は怪訝そうな顔で恵をにらむ。

 

「わたし、何か悪いことしたかな?」

「そんなことはどうでもいいわよ。要件だけいって」

「これ、受け取って欲しくって」

 

恵が小さいお土産袋を渡す。

 

「澤村さん『メインヒロイン』やってくれていて、お世話になっているから・・・お土産買ってきたんだけど」

「・・・そう」

 

英梨々が受け取る。中には倫也に渡したのと同じ板チョコが一枚はいっていた。

 

「ありがと、加藤さん。でもあたしは『メインヒロイン』じゃないわ。ただの『主役』だから・・・」

「へー?じゃあ、『メインヒロイン』は不在なの?」

「そうみたいね、おかしな物語よね」

「そう」

 

英梨々は恵が何を考えているかまったくわからない。ポーカーフェイスとトーンのまったく変わらない声。彼女の行動からは彼女の気持ちがまったくみえてこない。

 

「それにしても・・・おかしな世界観よね。役割があるなんて」

「それにはまったく同感。なんでこんなことになっているのかなぁ」

「さぁ・・・」

 

英梨々が恵を見る。恵がジト目で英梨々をまっすぐ見つめ返している。

英梨々は背筋がぞっとした。

 

「・・・まさか、このチョコに毒でも入っているんじゃないでしょうね?」

「えっと?そういうときは『勘のいい子は嫌いだよ』っていうんだっけ?」

「もう少し感情をこめたら?加藤さん」

 

恵が軽く会釈して、その場から去っていく。

英梨々はその場にへたりこんだ。正直生きた心地がしない。

まずは相談だ。霞ヶ丘詩羽なら昼休みは屋上でメロンパンを食べている。それが彼女の定位置だから。それはこの階段を上って緑色をした金属の重たい扉の先にある。

 

(つづく)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。