プロット『英梨々は怒らない』
※※※
拗ねているように見える英梨々に近づいて話しかける。
「・・・ごめん。遅れた」
英梨々は何も答えない。
倫也は少し考えてからもう一度言う。
「帰ろう、英梨々」
英梨々のペンダコのある華奢な右手を握って立たせようとする。
「自分で立てるわよ」
英梨々が立ち上がる。
廊下の奥のほうで屋内練習をしている部活の声が聴こえた。それ以外は雨の音に消されて静かだった。
「ごめんな。英梨々」
「いいのよ・・・、倫也があなたの大好きな加藤さんと話に夢中になって、あたしを忘れるなんて、よくあることよ?」
「そんなんじゃねーよ」
倫也が英梨々の顔を見る。少し泣いたあとのように目が赤い。
「怖いのよ。正直。だから、謝らないでくれる?倫也が加藤さんと会ってから・・・あたしに謝ってくると、あたしはなんだか・・・ふられたような気分になる」
「何いってんだよ・・・」
「倫也にはサブヒロインの気持ちなんてわからない」
「おまえ、サブヒロインじゃないだろ?」
「でも『メインヒロイン』でもないわよね?あなたの『メインヒロイン』は他にいる・・・」
「いねぇよ、そんなの」
「それ、ひどい答えだって・・・わかって言った?」
倫也は英梨々がメインヒロインだとは言わなかった。
倫也が考え込む。この物語は役割にこだわる。誰が何のために?
「英梨々は英梨々だろ・・・『メインヒロイン』とか『主役』とか、そんなの関係ない」
「じゃあ、あたしは倫也の何なのよ?」
英梨々の声が少し震えている。ここは大事な局面だから慌てても照れてもだめ。おかしな能力が発動して道化にならないように・・・
「おまえは俺の『彼女』なんだろ?」
「形だけのね」
「ああ、今はそうかもしれない。だからこそ、お互いの距離を探しているんだろう?近すぎても遠すぎても見えない。そのための『相合傘』イベントなんだろ?」
「・・・そうね」
倫也はため息をつく。ミスはミスだ。英梨々を忘れていた事実は変わらない。彼女を不安にさせてしまったら、それを取り除かないといけない。
「さっ、帰ろうか?」
「うん。でも、その前にしっかりと加藤さんとのイベントを終わらせてきてよ。雑談だけして持ち越されても気分が悪いわ」
「ああ・・・うん?わかった」
「下駄箱で待ってるから」
「すぐ行く」
英梨々が階段を降りていく。その足取りは少し早い。
倫也は息を大きく吐き出して気持ちを整えてから教室に入った。
恵は何もせずに廊下の会話が終わるのを座って待っていた。落ち着いたら時間をずらして帰ろうと考えていた。
だから、倫也がまた教室に戻ってきて、話しかけてきたことに驚いた。
「ごめん加藤。イベントの質問だけしてもらっていいか?」
「なんていうか・・・おかしな会話だね」
「まったくだ」
倫也がため息をつく。
「でもね、わたしは少しわかってきたよ、この世界観」
「へぇー、俺はさっぱりだ」
「これはさ、わたしの自由を奪っているんだと思う」
「どうして?」
「だって、わたしが『相合傘』イベントを申請したらダメっていわれた」
「そうなの?」
「うん。だからね、質問は・・・『どうしたら安芸くんと相合傘ができるの?』だよ」
「なるほど。まずイベント申請がナンセンスだよね。次にダメっていっているのが誰かわからないけど、俺は別にいいと思う」
「そうなんだ」
「そんなに敷居をあげなくてもいいと思うんだ。『雨が降っていて』『傘が一本しかない』っていう状況なら発生するよね?その時に一緒に入らないか?って、声をかけるところに壁があるけどさ」
「それだと、すでに『好き』ってことにならない?」
「雨に濡れるのは普通に嫌だろ?そりゃあ嫌いな人とは入らないだろうけど」
「じゃあ、女の子が断ったらどうするの?」
「持っている傘を貸すよ」
「自分はどうするの?」
「女の子に気をつかわせないように時間をずらして走って帰る」
「難儀な性格だねぇ・・・」
「主人公が雨に濡れるイベントは、次に主人公が風邪を引いて『自宅にお見舞い』イベントになるんだよ。これだと、口実もあっていいだろ?」
「わかりやすいテンプレだね」
「ああ。テンプレは大事だ」
「ありがとうね、安芸くん」
「こちらこそ、こんな理屈っぽい話を最後まで聞いてくれて嬉しい。ありがとな加藤」
「・・・?」
「はははっ」
倫也が教室から出て、急いで英梨々の待っている下駄箱へ向かった。
教室に残った恵はイベントの展開を倫也と話すことは楽しかった。もう少し時間があったら・・・もっと詳細に話ができるのに・・・。2人だけでも物語は綴れるのに。
けれど、倫也は英梨々のところへ行った。これはそういう物語なのだから。
(つづく)