負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

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第十八章

 

プロット『英梨々は怒らない』

 

※※※

 

 拗ねているように見える英梨々に近づいて話しかける。

 

「・・・ごめん。遅れた」

 

英梨々は何も答えない。

倫也は少し考えてからもう一度言う。

 

「帰ろう、英梨々」

 

英梨々のペンダコのある華奢な右手を握って立たせようとする。

 

「自分で立てるわよ」

 

英梨々が立ち上がる。

廊下の奥のほうで屋内練習をしている部活の声が聴こえた。それ以外は雨の音に消されて静かだった。

 

「ごめんな。英梨々」

「いいのよ・・・、倫也があなたの大好きな加藤さんと話に夢中になって、あたしを忘れるなんて、よくあることよ?」

「そんなんじゃねーよ」

 

倫也が英梨々の顔を見る。少し泣いたあとのように目が赤い。

 

「怖いのよ。正直。だから、謝らないでくれる?倫也が加藤さんと会ってから・・・あたしに謝ってくると、あたしはなんだか・・・ふられたような気分になる」

「何いってんだよ・・・」

「倫也にはサブヒロインの気持ちなんてわからない」

「おまえ、サブヒロインじゃないだろ?」

「でも『メインヒロイン』でもないわよね?あなたの『メインヒロイン』は他にいる・・・」

「いねぇよ、そんなの」

「それ、ひどい答えだって・・・わかって言った?」

 

倫也は英梨々がメインヒロインだとは言わなかった。

 

 倫也が考え込む。この物語は役割にこだわる。誰が何のために?

 

「英梨々は英梨々だろ・・・『メインヒロイン』とか『主役』とか、そんなの関係ない」

「じゃあ、あたしは倫也の何なのよ?」

 

英梨々の声が少し震えている。ここは大事な局面だから慌てても照れてもだめ。おかしな能力が発動して道化にならないように・・・

 

「おまえは俺の『彼女』なんだろ?」

「形だけのね」

「ああ、今はそうかもしれない。だからこそ、お互いの距離を探しているんだろう?近すぎても遠すぎても見えない。そのための『相合傘』イベントなんだろ?」

「・・・そうね」

 

倫也はため息をつく。ミスはミスだ。英梨々を忘れていた事実は変わらない。彼女を不安にさせてしまったら、それを取り除かないといけない。

 

「さっ、帰ろうか?」

「うん。でも、その前にしっかりと加藤さんとのイベントを終わらせてきてよ。雑談だけして持ち越されても気分が悪いわ」

「ああ・・・うん?わかった」

「下駄箱で待ってるから」

「すぐ行く」

 

英梨々が階段を降りていく。その足取りは少し早い。

倫也は息を大きく吐き出して気持ちを整えてから教室に入った。

 

 恵は何もせずに廊下の会話が終わるのを座って待っていた。落ち着いたら時間をずらして帰ろうと考えていた。

だから、倫也がまた教室に戻ってきて、話しかけてきたことに驚いた。

 

「ごめん加藤。イベントの質問だけしてもらっていいか?」

「なんていうか・・・おかしな会話だね」

「まったくだ」

 

倫也がため息をつく。

 

「でもね、わたしは少しわかってきたよ、この世界観」

「へぇー、俺はさっぱりだ」

「これはさ、わたしの自由を奪っているんだと思う」

「どうして?」

「だって、わたしが『相合傘』イベントを申請したらダメっていわれた」

「そうなの?」

「うん。だからね、質問は・・・『どうしたら安芸くんと相合傘ができるの?』だよ」

「なるほど。まずイベント申請がナンセンスだよね。次にダメっていっているのが誰かわからないけど、俺は別にいいと思う」

「そうなんだ」

「そんなに敷居をあげなくてもいいと思うんだ。『雨が降っていて』『傘が一本しかない』っていう状況なら発生するよね?その時に一緒に入らないか?って、声をかけるところに壁があるけどさ」

「それだと、すでに『好き』ってことにならない?」

「雨に濡れるのは普通に嫌だろ?そりゃあ嫌いな人とは入らないだろうけど」

「じゃあ、女の子が断ったらどうするの?」

「持っている傘を貸すよ」

「自分はどうするの?」

「女の子に気をつかわせないように時間をずらして走って帰る」

「難儀な性格だねぇ・・・」

「主人公が雨に濡れるイベントは、次に主人公が風邪を引いて『自宅にお見舞い』イベントになるんだよ。これだと、口実もあっていいだろ?」

「わかりやすいテンプレだね」

「ああ。テンプレは大事だ」

「ありがとうね、安芸くん」

「こちらこそ、こんな理屈っぽい話を最後まで聞いてくれて嬉しい。ありがとな加藤」

「・・・?」

「はははっ」

 

 倫也が教室から出て、急いで英梨々の待っている下駄箱へ向かった。

教室に残った恵はイベントの展開を倫也と話すことは楽しかった。もう少し時間があったら・・・もっと詳細に話ができるのに・・・。2人だけでも物語は綴れるのに。

 

 けれど、倫也は英梨々のところへ行った。これはそういう物語なのだから。

 

(つづく)

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