プロット『倫也と英梨々の相合傘イベント』
※※※
倫也と英梨々が靴を履き替えて玄関から外を眺めている。倫也は平凡な大きい黒い傘を、英梨々は赤い傘で先端や持ち手の装具から良い傘だとわかるものを持っていた。
外の雨はそれほど強くはなかった。
「さて、始めるわよ」
「あのなぁ・・・俺もお前も傘をもっているんですけど?」
「倫也って学習能力ある?」
倫也が自分の傘を開く。
「あなたが相合傘をしたいなら、してあげてもいいわよ?」
「あーそうですかー。お願いしますー」
英梨々が倫也の傘の中に入る。満面の笑みだ。
2人が雨の中を歩きが出す。
英梨々は肩を倫也にピタリとくっつけた。
英梨々は自分の傘を持ってブラブラさせている。
「このイベントって何が面白いのかしら?」
「お前みたいな、相合傘イベントが始まる前の条件を省く人にはわからんのだろうな」
「何よ、それ」
「2人の距離感が大事だろ?」
「あたしが倫也にくっついているってところ?」
「そう。お前はなんでくっついている?」
「倫也の『彼女』だからでしょ?不自然かな」
「いや、正しいよ。じゃあ、恋人でない人の傘に入ったらどんな距離をとる?」
「入らないわよ。恋人じゃない人の傘なんて」
「雨に濡れて帰るの?」
「タクシー呼んでいいし、学校に余りの傘があるかもしれないし、他人と相合傘をどうしてもしなきゃいけないことなんてないんじゃないの?」
「正論だー」
「誰構わず相合傘をするほど、あたしは安くないわよ?」
「そりゃー、光栄だわー」
「別にあんたのためじゃないんだからねっ!」
「ん?ちょっと使うタイミングが違くね?」
「そうね・・・」
「・・・大丈夫?」
「うん」
倫也が見ると英梨々の顔が少し赤い。もしかして、ずっと緊張していた?
「冗談よ。わかるわよ、相合傘の良さぐらい・・・ただ、ちょっと緊張するわけにもいかないのよ・・・」
「ん?」
「緊張しすぎると、変なもの呼び出したり、空飛んだりするわよ?」
「またややこしい病気にかかったなぁ・・・そのチート能力、やめたらいいんじゃないの?」
「あんたは憶えてないかもしれないけどね、こっちにはいろんな事情があるのよ。仕方ないでしょ」
「あっそ」
倫也が笑う。どんな形にせよ適度な緊張感があるのはいいことだと思った。
それから少し沈黙が続く。会話が止まると、雨の音や車の走る音が聴こえてくる。
「大事な話があるのだけど」
「どうぞ」
英梨々が深く呼吸をする。
「あたし、ふられたくない。絶対に嫌なんだけど?」
「どうした英梨々?」
英梨々が倫也を見つめる。真剣な目だ。顔が赤い。あと八重歯が可愛い。
「あなたがあたしを好きじゃないのは仕方ないと思う」
「そんなことねぇーよ。ちゃんと好きだよ」
「ううん。恋をしていないのがわかる。倫也のドキドキするような気持ちが伝わらない」
「・・・いや、俺はちゃんと英梨々が好きだよ?ドキドキもするし、英梨々のことをよく考えるし、一緒にいて楽しいし・・・」
「でも・・・倫也は加藤さんが好きでしょ?」
遠くのほうでクラクションの音が聴こえた。
英梨々の足が止まる。倫也も止まって振り向く。
「何言ってんだよ・・・英梨々」
「ううん。嘘つかなくていい。見てればわかるよ。倫也が加藤さんを好きなことぐらい・・・」
「あいつはただの・・・」
「ただの『クラスメートB』だっていいたいの?」
「・・・」
「その役割に一番こだわっているのって倫也なんじゃないの?このおかしな世界観にしたのは倫也自身なんじゃないの?」
「それは違う・・・」
英梨々がため息をつく。
「ううん・・・いいの。倫也が加藤さんを・・・恵を好きなのは・・・それでいいのよ」
「確かに加藤のことは気になっているかもしれない。でも、俺は英梨々が好きだよ。そんなに心配するなよ」
「心配よ!不安よ!正直・・・こんなに主役っぽくなると思ってなかった・・・」
「落ち着けてって・・・」
英梨々が立ち止まったまま肩で息をしている。
「お願い倫也・・・この『負け犬6』のあたしを・・・英梨々をふらないで」
「なんだそれ?」
「あたしはずっと頑張ってきたつもり、上手くできなかったことも多い。どうしていいかもわからなかった。間違った選択もしたと思う。負け犬1も2も3も4も5も7も・・・もっとうまくやれたかもしれない。もっと自由にできたかもしれない・・・」
「お前は何の話をしているんだ?」
「ねぇ倫也、あたしは『負け犬7』での自分の結論に誇りを思っている。倫也と恵の幸せを願っている。他のどの物語の倫也も諦める。でも、この物語だけはあたしをちゃんと選んで欲しい。あたしを好きになって、あたしにときめいて、2人で幸せな時間を過ごしたいのよ。わかってよ・・・倫也」
英梨々が泣きながらへたり込む。服が雨でぬれていく。
「おい、しっかりしろ英梨々」
その時、世界が暗転する。音が消え去り、雨も止んだ。
あたりの水が集まり、いくつものスライムが誕生した。
「なんだよ・・・これ・・・」
ラッパの音が空に高らかに鳴り響いた。
倫也が見上げると、武装した輝く天使の集団が降りてくる。
地面からはアンデットが這い出てくる。
※※※
バチンッ
指を鳴らす音がした。
当たりが優しい光に包まれ、元の世界が広がる。
「成長をしているんだか、していないんだか・・・」
倫也と英梨々の前に、霞ヶ丘詩羽がふわりと現われた。その長い美しい髪をなびかせて。
(つづく)