プロット『恵と英梨々』
※※※
「恵ぃ!」
英梨々が恵に大きな声で呼びかける、知らないふりはさせない。
「ん?あ~澤村さん・・・と、安芸くん」
「ちょっといい?」
「その前に、なんで突然、名前呼びなのかなぁ?」
「そういう細かいとこ似てるよねぇ・・・」
「細かくはないと思うんだけどなぁ・・・?名前は相手との距離感が一番でるんだよ?」
「そうねぇ、こないだお土産ももらったし、だいたいこの物語ってあたしと恵しかいないし・・・」
「ふーん」
「だから、恵もあたしを英梨々って呼んでくれる?」
「うん。わかった。じゃあ、またね」
恵が会釈してスタスタと歩いていく。
「って、待ちなさいよ」
「えっ、まだ何かあるの?英梨々」
「ちょっと傘見せてくれる?」
恵の水色の細い傘を英梨々が受け取る。
「恵、『相合傘』イベントの発生条件を覚えている?」
「えっと、『雨が降っていて』『傘が一本しかない』だっけ?」
「見事なまでにコピペね」
「それがどうしたの?」
「テイッ!」
英梨々が恵の水色の傘を膝を使ってへし折った。
「・・・何するの・・・英梨々・・・」
「今度、ちゃんと弁償するわよ」
「弁償なんてできないよ!」
「えっ・・・?」
「これ・・・お姉ちゃんのなのに・・・」
恵が折れた傘を返してもらう。
「お姉ちゃんがお嫁に行っちゃって・・・わたしにくれたものなのに・・・」
「えっと、ごめん」
「謝るくらいなら、こんなわけわかんないことしないでよ!」
恵が怒る。英梨々がたじろぐ。
「あの・・・恵にイベントをしてもらおうと思って・・・」
「イベントって何?」
「だから、相合傘イベントを倫也とやってもらおうと思って」
「なんで?」
「だって、倫也と相合傘イベントをする方法を聞いたんでしょ?」
「誰から聞いたの?」
「えっと・・・」
「別に頼んでないし、そんなの知らないし、だいたいなんでわたしが安芸くんとそんなイベントをしなきゃいけないのかなぁ?」
倫也は予感通り、恵がひさびさに怒りそうだ思い、こっそりと恵の視界から消えてトイレにいこうとした。
「ちょっと、安芸くん・・・どこに行こうとしているのかなぁ?」
「トイレに・・・」
「あのさー。彼女とさ、あなたにとってなんでもないクラスメートBがトラブルしているんだよねぇ?それをほっといてトイレいくっておかしくない?普通は仲裁にはいるとこじゃないのかなぁ?」
「そうだな・・・頭を少し冷やせよ、加藤」
「うん。わかった」
いつものクラスメートBの半音高い澄んだ抑揚のない声。
一方、英梨々は震えて少し涙目だ。悪いことをしたと反省していた。
倫也は英梨々の肩をポンと叩くと、耳元で囁いた。
「姉の傘っていうのはアドリブだ。あれは量販店で売っている千円以下の安物だ、安心しろ」
「・・・ヒック・・・うん・・・」
恵は顔をフラットに戻す。
「安芸くん。傘貸してくれる?」
倫也が恵に自分の黒い傘を渡す。
「じゃ、わたしはこれで帰るから、安芸くんはそこの『彼女』と『相合傘』で帰ってね」
恵がホームに向かう。
倫也が英梨々につぶやく。
「おまえ・・・完敗してんじゃねーか」
「・・・まだよ・・・」
「やめとけって、もうあれ・・・クラスメートBやる気ねぇぞ?」
「何やったって恵は恵よ・・・」
英梨々が深呼吸して、さらに一歩踏み出す。
「恵。話は終わってないわ」
「・・・そう?」
恵が振り返る。ホームで倫也の傘をバサッと開いた。水しぶきが飛ぶ。
「あんたには・・・今日、倫也と『相合傘』で帰るのよ」
「英梨々っ・・・『相合傘』イベントの発生条件言ってみて?」
「えっと・・・雨が降っていて、傘が一本?」
「わたし達の傘は2本あるじゃない?」
「だから、あなたと倫也で一本使えばいいじゃない?」
「あのさー英梨々、いい加減な物語だけどさー、それは恋人同士で使うのが自然でしょ?そんな適当な導入でイベントを起こさないでよ」
「わかったわよ恵・・・」
英梨々が恵に近づいて倫也の傘を奪う。
「テイッ」
英梨々が倫也の傘も折ろうとするがなかなか折れない。
足を使って強引に折り曲げる。
「これで・・・文句ないでしょ」
倫也がため息をつく。なんの意地を張っているのかさっぱりわからない。
「で、わたしの傘は?」
「もってきなさいよ」
英梨々が自分の赤い傘を恵に渡した。
恵は受け取った傘を開いてみる。
「ねぇ英梨々、この傘、もらっていい?さっき弁償するって言ってたけど」
「別にそれでいいなら、構わないわよ」
「そう、じゃ、安芸くんいこうか。英梨々がイベントをこなして欲しいみたいだし」
「ああ」
倫也が不安そうに英梨々を見る。英梨々はなんとか笑っている。
傘をもっていないのが心配だが、なにか手段があるのだろう。
電車がホームにつく。
「・・・ポンコツ・・・」
恵が英梨々に聞こえるように呟いた。
しかし、英梨々はその言葉を聞いてニヤリと笑い。そして勝利に近づいていると思った。
相合傘イベントが始まってしまえば、恵はメインヒロインとして演じずにはいられない。倫也との間でなんらかのフラグを立てようとするだろう。倫也はそれを回避してくれる。それは恵の敗北を意味することになるはずだ。
※※※
倫也と恵が電車に乗る。2人を見送ってから、英梨々は雨が降っているのをみて、どうしたものかと考えていた。
「強引すぎるイベント導入はやっぱりよくないんじゃないかしら?」
英梨々が振り返ると詩羽がいた。手には傘を2本もっていた。
「そうかしら?強引なイベントだからこそ、倫也はフラグを徹底的に回避すると思うのだけど」
「そうね、でも・・・相手はあの加藤さんなのよ」
詩羽は心配だった。
英梨々は倫也を信用しているように思える。
しかし、加藤恵はどう転んでも加藤恵だった。記憶喪失もクラスメートBも関係ない。倫也が惹かれていく。そういう存在なのだから・・・
そして、遠回りしようが英梨々の前に障壁として現れる。
倫也はその2人を選びきれない。だから、詩羽がいる。「霞ヶ丘シナリオ」が用意されている。
そして今回の物語もまた・・・英梨々ルートへは険しいように思えた。
(つづく)