プロット『倫也と恵』①
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倫也と恵が電車に乗る。乗客は少ないので、長椅子に2人は少しだけ離れて座った。倫也は左に座った恵の様子を伺う。
恵は赤い傘をくるくると丸めて留め金をかける。
電車のドアが静かに閉まって発車する。窓は濡れていて外の様子は見えないが日が暮れ始めて暗くなってきている。
恵はローファーのつま先を床にトントンと当てて水滴を落とした。それから真剣な顔で考え込んでいた。
「あの・・・加藤・・・加藤さん?」
「ん~なに?」
「どうしたんだよ、そんなに考え込んで、いつものフラットで可愛い加藤らしくない」
「その認識は間違っている上に・・・って、安芸くん、今なんて言った?」
「どうしたんだよ?」
「違うよ、そこじゃないよ」
「二度も言わせんな」
「ちょっと待ってよ・・・今、それは・・・ずるい」
恵が下を向いて顔が赤くなる。
「少しだけ替えた会話をなぞったほうがよかった?」
「そうではなくて・・・」
恵が小さく息を吐く。
「わたしは・・・安芸くんの何なの?」
「おまえはずっと、俺の『クラスメートB』だろ?」
「・・・そうだよねぇ・・・」
恵はもう怒る気力がない。もうやめようこんな物語。どんなに頑張っても都合によって『英梨々ルートに進む話』なんて・・・。
「けどな、加藤。お前は勘違いをずっとしている」
「そう?」
「ああ。いいか加藤?この物語はさ・・・」
「ダメだよ、安芸くん。そんな説明は安芸くんから聞きたくない。それにわかってるんだよ・・・自分がダメだってことぐらい」
電車が駅に止まり、少数の乗客が乗り降りし、また電車が走りだす。
「ごめんね。話が終わるまで、この電車は走り続けるんだよね?」
「ああ、そんなこと気にするな」
「『相合傘』イベントなのに、電車の中の会話でごめんね」
「だから、気にするなって。それにお前は別にダメじゃないだろ?」
「そうかなぁ、GWのお土産で霞ヶ丘先輩を毒殺しようしたんだけど?」
「それはダメですねぇ、弁護のしようもない」
「ミスならセーフじゃないかな」
「んー、アウトだろ?また読者の数が減っていったぞ?」
恵が少し笑う。倫也はひきつる。
「クラスメートBのままの方がよかったんだろうけど・・・でもさ、嫌だったんだよ?安芸くんが英梨々とボートデートなんてしたからさ・・・」
「お前、なんでそれ知っているの?」
「そんな質問して、また哲学講義でもするの?」
「いや・・・いい」
「わたしだってさ、この物語がどうすれば面白くなるかな?ラブコメ風になるかなって考えもしたよ。さっき安芸くんが言おうとしたことは、英梨々は彼女の立場として幼馴染から恋人へ距離を縮めて、わたしはクラスメートとして学校内のさりげないイベントこなしつつ、倫也くんの気がこっちにむくようにがんばるってことだよね?」
「ん・・・まぁそうだな。主題的には・・・」
「わたしはクラスメートBをするのはぜんぜん良かったんだよ。楽しかったよ?どんな時でも安芸くんが側にいてくれたなら・・・日直イベントだって楽しくできるよ。この先、席替えイベントして、安芸くんの隣になってドキドキしたり、会話が増えたり、消しゴム落として拾ってもらったり、楽しいこといっぱいあったと思う。委員会活動してもいいし、運動会や学園祭だってあるし、安芸くんと2人でゲームを作らなくなっても・・・安芸くんがいてくれるだけで、わたしは良かったんだよ」
恵の表情はフラットだ。これは意図的に抑えている時のフラットさ。
「でもさ、英梨々と仲良くされるのは辛かったんだよ・・・」
「・・・ごめんな」
「んもぅ・・・安芸くんはさぁ・・・でも、わたしが悪いのかな」
「あれ、怒らないの?」
「その、なんでもかんでもわたしが怒るみたいのやめてくれないかな?」
恵が眉間にしわをよせて、それからすぐにフラットに戻す。
「わたしだってね、英梨々のことを応援したいんだよ?それは本当だよ。英梨々と安芸くんが幸せになってくれて、無事に『英梨々ルート』に進んでくれればいいなって・・・」
「そうなる話だからなぁ・・・」
「絶対嫌だ。『負け犬7』なんて関係ない。やっぱりこの物語・・・『負け犬6』のわたしはわたししかいないんだよ?」
「じゃあ、お前はどうしたいんだよ」
「わかんないよ・・・」
恵が俯いた。わからないわけがない。英梨々が倫也と別れて、倫也が自分と付き合う。それ以外にない。
沈黙が続く。電車が止まり、また動きだす。2人が一緒に揺られている。
「まぁ結論なんて今出すことないんだけどな」
「このまま電車にずっと揺れている?」
「それもありかもしれないけれど、毎日1000文字以上の会話をし続けるって大変だぞ?」
「そうかなぁ。千夜一夜物語みたいだけど」
「デカメロンとかな。そういう構成は理想だなぁ」
「それなら座り方も考えないとね」
「座り方?」
「うん。こうやって横並びよりも、BOX席で向かい合った方が雰囲気でるんじゃないかな」
「銀河鉄道?」
「そうだねぇ。」
それから2人は本題からそれて、物語の構成や小話のプロットを考えた。
時間は電車と同じように静かにたんたんと過ぎた。電車は駅に止まり駅を出発し、また駅に止まる。乗客が乗り降りし、駅を出発する。やがて終点に着いた。
「安芸くん終点だよ!」
「ああ、環状線じゃないからな・・・」
「どうしよう?」
「問題ない、折り返すだけだ」
「そっかぁ」
恵が立ち上がる。
「席、移動しよ?」
恵が壁際の方へ歩いていく。倫也もそれについていく。
倫也が車両の一番奥の席に座ると、恵は倫也の左に間を開けずに座った。
電車のドアが閉まり、ゴトンッと音を立てて、また動きだす。
電車から降りなければ相合傘イベントは発生しない。
(つづく)