ただ『クラスメートB恵vs英梨々』が書きたかっただけだった。これは『負け犬4』にしようと思った話で、少なくとも初期プロットではそうだったのだ・・・。ボツになったあらすじだけ紹介しておこう。
バレタインイベントで善戦するも惜しくもやぶれた英梨々は詩羽と画策して、過去へと戻り、クラスメートBの恵と対決することになる。英梨々が恵を追い詰めるほど、恵の認識のされにくさ(ステルス性能が向上)していき、やがてそれは他者へと波及していく。そして英梨々の存在が消されるのであった・・・。みたいなオチ。
けれど、このクラスメートBの恵が問題だ。もはや現行の負け犬シリーズの恵にクラスメートBを演じさせようとしても無理があった。ところどころに『素の部分』がでてきてしまうのである。
「ドウイウコトカナ、アキクン?」
とジト目になった瞬間に、倫也の土下座が目に浮かび、もはや英梨々とは勝負にならないのである。これでは英梨々ルートフラグを立てようがない。困った。
そこでどっかでノラ恵を捕まえてきて記憶喪失にしてしまおう。そうだ、これだな。となっているのが前回の『控室②』の話になっている。しかし、こういう余計なストーリーを考えると作中の人物が適当に動きだす。それが今回の話。
※※※
出海がポケ〇ンのカプセルを手にもって戻ってきた。
「お待たせしました」
「おかえりなさい出海さん」
「うまくできた?波島出海」
「もちろんです。見てください!」
煙と共に、加藤恵が現われる。
そこにへたりこんだ恵は茫然としていた。その瞳には涙を浮かべている。一言も発しない。白いワンピースに淡い山吹色のカーディガンを着ていた。美容院にいったばかりの髪が肩の上に優しくかかっている。胸元にはスマートな猫のペンタント・・・『プラチナキャット』が揺れて輝いていた。
「何してんのよ出海!」
英梨々が怒鳴ると、指を鳴らした。
恵がカプセルの中に戻る。
「わたし、何かしま・・・」
次の瞬間、英梨々の鮮烈な平手打ちが出海を叩いた。英梨々はすでに冷静さを欠き、目には涙を浮かべている。
「そんなことしても、手遅れだわ・・・澤村さん・・・」
「詩羽・・・どうしよ」
「これはもう、総没でもリテイクでも解決できないわね・・・」
「だったら本当にボツしたらいいんじゃないの?」
「まったくその通りなのだけど・・・こういう選択をした『波島出海』に成長したことを考えれば・・・未来のことはわからないし・・・」
「でも、あたしは許せない」
「あの・・・お二人とも・・・」
「あなたは金輪際、一言もしゃべらないでいい」
「・・・」
「しょうがないわよね、こうなった以上は・・・行くわよ、『神様』のところへ」
※※※
【とある物語の天界】
従僕らしき人が告げる。
「次は『負け犬6』の世界から、霞ヶ丘詩羽、他2名です」
詩羽と英梨々と出海が雲の上にいる。
光り輝く【物語の神様】がゆったりと座っている。
「お話は承知しています。これをなかったことにしたいのですね?」
「はい・・・これはさすがに許せません」
詩羽の声も荒い。
「確かにこのタブーは厳罰の対象です。しかし、罪人『波島出海』は処分されますが・・・それはいいのですか?」
「足らなければ、あたしの存在も消されてかまわない・・・だから、その恵だけは元にもどしてあげてください・・・」
英梨々が平伏して頼む。
出海は自分がしたことが軽い冗談だと思っていた。こんな大事になるとは思わなかった。軽い何気ない一言が他人を傷つけたり、調子にのった行為が実はいじめだったり・・・人は時に罪の意識のない行為が重い結果につながる。
(わたしの罪はなんですか?存在が消されるほどに重いのですか?)
出海は自問自答する。
「処分はこちらで考えます。詩羽と英梨々の両名は戻りなさい。『負け犬7』はすでに完成しています。ですから、何がなんでも『負け犬6』でつなげなさい」
「はい」「はい」
詩羽と英梨々が返事をして元の世界に戻った。
「さて、あなたの処分ですが・・・ここまで物語を引っ張ってきた貢献度、すでに『負け犬7が完結』していること、『負け犬6』では元々は出番がなかったことを加味して・・・モブとしてやりなおすチャンスを与えます」
そこに波島伊織が駆けつけてきた。
「まってください・・・出海の処分を軽減してください。僕にも罪を分け与えてください」
「あなたはこの方の兄役の方ですね?」
「はい、冒頭で短編を消された出海を見て見ぬふりをしてしまいました・・・いつものようにバカげた話で終わると思っていました。でも、こんなことになるなんて・・・」
「あなたには罪がありません」
伊織はただ頭を下げ続ける。
「そうですか、覚悟があるなら、あなたには『叶わぬ恋をする罰』を与えます。もっともこの『負け犬』シリーズではもう関係ないですが・・・、出海に関しては『赤い髪』と『明るく元気なキャラ』は継承させましょう。それでよいですか?」
「はい」
出海は髪の毛のモブになった。
「お兄ちゃん・・・ごめん・・・わたし・・・」
「心配ない、お前なら・・・大丈夫だ。きっとまたヒロインの一人になれるさ・・・あとね・・・もう、お前の兄ではいられない。ごめん、赤モブさん・・・」
「・・・!」
こうして、伊織と赤モブも元の世界に戻った。
「生も死も、喜怒哀楽やすべての感情も、エロスも残忍も、すべては物語のために。人よ・・・紡ぎだすのです、心の底からの言葉を」
台本を読み終えた『物語の神様』は、かつらを外してから指を鳴らし、元の加藤恵の母親役へと戻った。恵を物語を背負って立つヒロインへと育成するために。
(つづく)