負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

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第28章

 

プロット『倫也と恵』⑥

 

※※※

 

 恵はお風呂からでると春物のルームウェアに着替えた。淡いピンクと白のボーダーで長袖だが生地はそれほど厚くない。真新しい衣装に気分が少し明るくなる。倫也の家には恵の着替えが置いてあった。理由を問い詰めてはいけない。

 

※※※

 

 リビングで2人がカレーを食べている。

 

「冷蔵庫に食材があって良かったよ」

「スーパーで買い物するイベントをはしょったんだろ。きっと」

「全体的に設定いい加減なのに、細かいところにこだわるね」

 

 恵がプチトマトをフォークでさす。

それを倫也の口元に差し出す。

 

「あーんしてみてくれる?」

「ん?・・・あーん」

 

倫也がプチトマトを食べる。

音楽はならない。

 

「ふむ。当たり前のことが嬉しいよ。わたしは」

「そうだなぁ・・・」

「あんな立ち上がりにしないでさ、こういう物語をもう少し普通の世界観ではじめていたら・・・もう少し読者がいたんじゃないの?」

「そしたら、今のお前がいないし・・・大事なのは読んだ人の数だけじゃないだろ?」

「そうだけどね」

 

 2人がカレーを食べる。

 

「ほっとする」

「俺も」

「我が家みたい」

「それもどうかと思うけどな」

「なんでよー」

「それって、彼氏の家にきたドキドキがまったくないってことだろ?」

「彼氏じゃなくて、ただのクラスメートだけどね」

「もう前提が破綻してる!?」

 

2人が笑う。

 

「それで、サスペンス調にするの?」

「いや、しない」

「で、どうするの?」

「今度、詩羽先輩に聞いてみるよ」

「それで解決するかな?」

「すると思う」

「しないよ」

「お前・・・何か知っているの?」

「ん~」

 

恵が考え込む。自分の推論がたぶん正しい。でも確かに記憶を失っている。それが何かわからない。今は性格も戻ってきたし、負け犬シリーズのことも覚えている。

その失った記憶を思い出しても、おそらく解決しないだろう。解決するならサスペンス調の物語になっていて、それで終わるはずだ。

 

「さっき、安芸くん、『お前、何周してるんだよ?』って、言ったよね」

「そんなこといったか?」

「安芸くんも記憶を消されているんだよね」

「ああ、そういうことか。うん。たぶんな。もうだいぶ戻ったけど」

「わたしの『総ボツ』もさ、すごく巻き戻るけど、覚えている人といない人がいたよね」

「ああ」

「あれってさ、ご都合主義とはいえ、物語がスムーズに進むからだよね」

「うん」

「じゃあさ、作中人物が全員覚えていなかったとしたら・・・誰がそれを『やり直している』と把握できるんだろう?」

「『記憶』は詩羽先輩の能力だろ?」

「詩羽先輩も作中人物だから・・・自分自身も含めて繰り返していたら・・・気が付けないんじゃないの?」

 

 倫也がカレーを食べ終わる。

 

「なぁ加藤・・・、この話はやめにしないか。すぐには解決できないし・・・せっかく、こうして2人で過ごせるんだし」

「うん。倫也くんがそのほうがいいなら、そうするよ」

「あと、確認するけど・・・泊まっていくよな?」

「もう遅いし、雨が強いし・・・そうさせてもらうと助かるけど・・・『英梨々の彼氏』だからって理由で断ってくれてもいいよ?」

「そしたらお前は・・・」

「どこでもドアでも出すよ」

 

 倫也が苦笑いをする。恵は笑わなかった。ちゃんとしたラブコメならどこでもドアはいらない。ラブコメができないからふざけてしまう、その方がずっと楽だからだ。隕石を落とし、空を飛び、どこでもドアで逃げる。すべてを茶番にしてしまえば、恵は傷つかないですむ。

 

※※※

 

 8月でこの物語は終わる。そして4月から始まる。理由はわからない。霞ヶ丘先輩ならわかるだろう。『霞ヶ丘シナリオ』ならやってのけるのだろう。

でも、本質的な問題は別のところにある。それは・・・

 

 倫也が『恵』か『英梨々』を選びきれないことにあるのだろう。

 英梨々も同じだ。『倫也の恋人』か『恵の友人』を選びきれない。

 そして、恵自身もそうだった。『クラスメートB』に徹してきれない自分をいつも感じていた。

 

※※※

 

 食器を片付け、歯を磨き、2人は少ない会話をしながらリビングで過ごした。

 

「なぁ、加藤。どういったらいいのか・・・上手く口にできないのだけど」

「うん?」

「カレーうまかったよ。ごちそうさま」

「ん?そう。ありがと」

「俺さ、お前のカレーも好きだけどさ、お前がカレーを食べている姿を見るのも好きだよ」

「どうしたの?」

「エプロン姿で料理作っているお前も好きだし、楽しそうに話しているお前も好きだ。照れながら笑うお前は可愛いし、フラットに付き離すお前も好きだ」

「それはどうかと思うけど」

「加藤の・・・恵の・・・」

「分別・・・つけるんじゃなかったの?」

「お前の!一挙手一投足が、一言一句が・・・俺にとってフラグなんだよ・・・」

「・・・っ!」

「失敗しても、喧嘩しても、次のフラグが立つように感じるから・・・」

「・・・同じだよ」

「恵ことがずっと好きで、この負け犬シリーズを通して、恵が『メインヒロイン』でなくなったとしても、俺にとっては『メインヒロイン』なんだよ」

「・・・うん」

「でも・・・この物語に必要なのは・・・『クラスメートB』のお前だ」

「・・・それもわかってきたよ」

 

 倫也ソファーに座って床を見つめている。悲痛な表情を見ているだけで恵の胸が痛くなる。

 

 倫也が震える指で天井を指した。

恵が上を見上げる。

 

「倫也くんの部屋?」

「ああ」

「わかった・・・いってくる」

「恵・・・一つだけ誓ってくれ」

「わかった。なんでも誓うよ」

「逃げずに、どこでもドアもつかわずに、ここに戻ってきてくれ。大事な話がある」

 

「わかった」

 

 抑揚のない少し高い澄んだ声。意図的に『クラスメートB』を演じる時の声。そして、どこか寂し気な声が部屋に響いて消えた。

 

(つづく)

 

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