プロット『倫也と恵、そして美智留』
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恵が階段で二階に上がっていく。一番上の段に美智留が座っていた。
「よっ、加藤ちゃん。お久しぶり」
美智留は黒い短パンに白いTシャツというラフな格好。
「初対面な気がするけど、気のせいかな?」
「この物語だとそうだけど、この物語のボツ原稿ではけっこうな回数会ってるでしょ」
「・・・そうだったかな」
「まっ、いいけどね。このあたしは、『警告』にきたよ。加藤ちゃん。倫也の部屋になんか入らずに帰った方がいい。そのまま『クラスメートB』として過ごした方が・・・」
「そういう、思わせぶりなセリフはいいよ。わたしは見て自分で判断する。それにそんな風に言われたら、氷堂さんが敵に見えるのだけど?」
美智留がゆっくりと立ち上がる。
「そうだよね。それでいいと思う。たぶん、あたしはこの物語が煮詰まった時に呼び出されている。加藤ちゃんとトモがもめているとき、ひどい状況の方をあたしは何度も助けた。覚えているんでしょ?」
「・・・フラグを折る倫也くんに絶望したわたしも、倫也くんに告白してふられたわたしも、全部ボツだよ。そんなシナリオはなかったし、わたしは認めない」
「そうだね。でもね、加藤ちゃん。ふったトモの絶望もひどかった。雨に濡れて帰るトモを何度も助けたよ。あんたら何回失敗したの?なんで、そんな風になるの?どうしてわからないの?・・・どうして・・・ここまでたどり着いてしまうの?」
恵が一番上まで上がり、美智留の横を通りすぎる。
美智留が加藤の右手を掴む。加藤が振り返る。
「それ、霞ヶ丘先輩に言われたの?」
「ううん。あたしやセンパイみたいな裏方には見えてくるものがある。加藤ちゃんが部屋に入るのはわかった。でもね。部屋の中で加藤さんが何かをしようとしたら・・・あたしは全力で止めるよ?」
「・・・もう、ほっといてくれないかな」
「ほっとくわけにはいかないから、こんな不自然にあたしが来たんでしょうがー」
恵が倫也の部屋のドアノブを回す。
美智留がため息をつく。展開を考えると憂鬱だった。
恵がドアを開け、倫也の部屋の電気をつける。ひさしぶりの倫也の部屋だった。高校時代にずっとゲーム制作をしていた場所。なんども泊まって夜を過ごした。いつもみんなが出入りして、倫也との男女の関係に一線を引き、健気にすごしていた思い出の場所。
今ではもう英梨々一色だった。いや、そうじゃないか。倫也のヲタク性もさらに加速している。棚が増えてフィギュアの数も倍以上になっている。ポスターは男性キャラのもの貼ってある。ラノベは本棚に収まらず床にも積み上げられている。机にノートPCが2台あり、床には描きかけのラフ画やマンガが散乱していた。
恵は座って、黙々と落ちている紙を集め始める。
それを美智留が恵の肩を抑えて制止する。
「だめだよ、加藤ちゃん・・・それはもう・・・加藤ちゃんのすることじゃない」
「・・・ちょっと、片付けようとしただけだよ?ほら、こんなに散らかっていると気になって・・・つい。くせで」
「うん。でも、それはもう加藤ちゃんの仕事じゃない。やっちゃいけないことだ」
「あれれ、氷堂さんも倫也くんのヲタクグッズを捨てようとしていなかったっけ?」
「あの頃のトモは・・・まだ普通の世界に戻ることができたんだよ」
「いやぁ・・・どうかな?」
「少なくとも加藤ちゃんと恋をして、リア充になる『可能性』があった」
「・・・そういうこと・・・かぁ」
加藤が振り向いて美智留を見上げる。美智留がうなずく。
「もう、手遅れなのね?」
美智留が再度うなずいた。
恵を起き上がって、部屋から出ていく。
階段を少し速足でトントントンと降りていく。
リビングに入る前に深呼吸をし、顔を鉄仮面のように無表情にする。
倫也の方を見ず、リビングで置いてあった鞄を持つ。
そして鞄の中からどこでもドアを出すと、その扉を開けた。
「加藤!約束しただろ?」
恵が一瞬止まる。倫也の方へ振り向こうとしてやめた。
(ごめんね・・・倫也くん。約束守れなくて・・・)
それとも、
(ふーん。倫也くん、ヲタクだって知っていたけど・・・キモい)
いや、おかしい。
(そう。英梨々と幸せそうでよかったね。じゃ、さよなら、倫也くん)
だめ!
思考が文章化され確定していく。観測されたイベント。記録されていくシナリオ。
恵が涙を流す。もう無表情ではいられない。
「・・・リテイク」
リビングは静寂。倫也は下を向いている。端のほうで美智留がその様子を心配そうに腕組みして眺めている。
「リテイクだよ。こんなの」
恵が首をふる。
「リテイク。リテイク。リテイク・・・リテイク」
恵が倫也の方へ歩いていく。倫也の肩をもって倫也をゆさぶった。
「こんなのだめだよ!こんな物語・・・わたしは知らない!こんなのひどいよ」
ガタンッと倫也がそのまま床に押し倒される。
恵が倫也を抑えて馬乗りになっている。
「総ボツ」
恵の涙が倫也に零れ落ちる。
倫也は恵の泣き顔をみている。倫也の顔もひどい状態だが。
「総ボツだからね?」
恵の声は震えていて、しぼり出すように言った。
倫也が右手で恵の髪をすくい上げる。
(今でもずっとお前が一番好きだよ)
言えたらどんなに楽だろう?
(つづく)・・・はず