プロット『倫也と恵、そして美智留』②
※※※
倫也が床に倒れていて、恵がその上に馬乗りになって泣いている。
「なぁ加藤・・・聞いてくれ」
「・・・聞きたくない」
「頼む、今は聞いてくれ」
「絶対に嫌っ」
倫也が恵の頭を抑えて、胸まで抱き寄せる。恵が震えて泣いている。
「俺の『クラスメートB』になってくれ」
恵の深淵を覗き込むような漆黒の瞳に倫也が映り込んでいる。
恵は倫也を振りほどくと立ち上がった。
「できないよ!わたしは倫也くんの『クラスメートB』なんてできないよ!!」
隕石は落ちてこない。
絶望の歌も流れない。
加藤恵@メインヒロイン型も現れない。
そして、恵が振り返ったが『どこでもドア』なんて、どこにもなかった。
※※※
恵は自分の鞄を持つと玄関に駆け出した。美智留と少し接触した。
美智留はおどおどして追いかけるべきか迷っていた。
それに・・・同じぐらい傷ついている倫也がリビングにいる。
恵は玄関で靴を履くと、傘立てから傘を取り出す。
真っ赤で綺麗な傘。2人で使うにはちょっと小さな傘。
「・・・」
恵はヒステリックにその傘を思い切り投げつける。傘立てが倒れて派手な音を立てた。
それからドアを開けて雨の中に飛び出していった。
※※※
倫也が床に寝そべったまま、腕で目を抑えて泣くのを我慢している。
美智留が近寄って倫也の横にぺたんと座った。
「ひざまくらでもしてあげよっか?」
倫也は手で目を抑えたまま。別にいらないと弱々しく答えた。
「あたしはずっと、シリアスはダメだって言ってたよね。でもね、トモ。今は少し違うかな。澤村ちゃんを選ぶなら・・・全力で選んであげないとダメだ。ちゃんと好きになってあげないと・・・」
「わかっているさ。でも、それは理屈じゃねーだろ・・・」
倫也が床に座り直す。それから深くため息をつく。
「美智留。飯くってねぇーだろ?カレー食えよ」
「おっ?サンキュー」
美智留がキッチンに行き、心配そうに倫也をみながらカレーを温める。
美智留は黙ったまま食事をした。気の利いたセリフは思い浮かばない。
倫也は膝を抱え俯いたまま考え事をしている。
※※※
倫也はケータイを取り出して詩羽に連絡する。
「詩羽先輩。これでフラグ立ちますよね?」
「あら、倫理君。こんばんわ。最初は挨拶ぐらいするものよ?失礼じゃないかしら」
「これで、加藤は『ヤンデレ』ヒロインになりますよね?『負け犬7』へ、つながりますよね?」
「そうね。でも、それだとこの物語は加藤さんが『自殺』して終わるバッドエンドになるわよ?あなたそれでいいの?」
「いいわけないでしょ!」
「阻止するにはサブヒロイン4人で止める方法が見つかっているけれど・・・一人欠けているから、成功するかどうかわからないわ」
「出海ちゃんかぁ」
「だめよ、サブヒロインを軽視したら・・・全方向を大事にしてこそのハーレム型主人公なんだから」
「性格がむいてないんですけど!」
「そうね、まったくもってむいてないわね。でも、そんなのどうしようもないじゃない?あなたががんばらないで、誰ががんばるの?」
「すみません。出海ちゃんのことはなんとかします」
「ええ。時間があまりないからね」
「はい。あと『ヤンデレ』回避は見つかりました?」
「いいえ、それは難しいわね。そもそもこの物語の加藤さんって・・・ヤンデレ少し入っているわよね?すでに私を毒殺しようとしていたし、相手を排除しようとする考え方をもっているんじゃないかしら?それでも倫理君が振り向かないなら・・・」
「なるほど・・・それでも回避する方法を見つけないと・・・『英梨々ルート』がハッピーエンドで終われない」
「だから・・・倫理くん。8月でこの物語は終わるんだわ。私のシナリオで強引にね」
「それ。覚えてないんだけど・・・」
「いいのよ、それで。とにかく、今は出海ちゃんを赤モブから復帰してもらいなさい。その代わり・・・波島くん使うわよ」
「お任せします」
「本当にいいの?どうしようもなく凹んでいる女の子、さらに雨。絶望の中、そっと傘を差しだす・・・」
「ああ、加藤なら大丈夫だよ」
「信じているのね?ふっておいても尚、加藤さんのことを」
「違う。でも大丈夫。加藤は加藤だよ。絶望しても自分を穢さない」
「絶望して自殺している分岐があるんですけど??」
「自殺や殺人の演出があっても、他の男とのフラグは立てないよ」
「あなたがいいなら、それでいいわよ」
「それに詩羽先輩。もしそんなルートがあったら・・・総ボツになるからありえない」
「それはそうね」
※※※
その後、倫也は詳細を詩羽と確認して電話を切った。
それを美智留が見て、あきれている。
「ねぇ、倫也・・・あれって演技だったの?さっきの加藤ちゃんとのやりとりは」
「ん?そんなわけねーだろ。ただ・・・ほうっておくと、さらにひどいことになってくんだよ。回避しないといけない分岐が多すぎるんだよ。まずは出海ちゃんのところへいかないと・・・」
倫也がふらついて倒れる。
美智留が駆け寄る。
「トモ?大丈夫?」
雨に濡れると風邪をひく。
そして、『お見舞いイベント』が発生する。それが主人公クオリティー。
※※※
詩羽が頭を抱える。
「倫理くん・・・あんたバカなんじゃないの・・・」
フラグの立て方も管理もおかしい。
恵がヒステリックになっている。自殺を止めるためにはサブヒロインがそろっていないといけない。けれど出海は現在赤モブですねている。その関係を修復するために倫也が必要だが風邪をひいた。
こんなバカップルのために、どうして頭を使わないといけないのか、さっぱりわからない。詩羽は大きくため息ついた。それから落ち着いて解決策を考える。
悩める詩羽の横では、英梨々がすやすやと寝息を立てて休息していた。なんの憂いもない無邪気な顔を見て、詩羽は笑った。
英梨々以外の誰もが『英梨々ルート』のハッピーエンドを探しているのに。
(つづく)