プロット『雨。恵と伊織』
そしてプロットの外
※※※
雨の中に飛び出してみたものの、台風のような豪雨で雷鳴が遠くで鳴っている。恵は頭の上に学生鞄を持って走っていたが、すぐに全身がずぶ濡れになって、諦めてそのまま歩いていた。それも嫌になって、マンションの軒下で雨宿りすると、そのまま座り込む。気が付けばルームウェアのままで、この格好のまま電車になんて恥ずかしくて乗れない。歩いて帰るにはあまりにも豪雨で、何もかも投げ出したいと思った。
「こんなに都合よく雨なんて降らなくていいのに」
指を弾くが、別に天候は変わらない。
きっと、倫也くんが追いかけてきているに違いない。あるいは氷堂さんかもしれないけど。恵が歩いてきた道を見るが誰もこない。視界が悪いので、その先にいるのかもしれないとぼんやり考えていた。
暗く鉛のような空。
道路にタクシーが止まった。中から赤い髪の男が降りてきて、恵に近づいてきた。
「伊織くん?」
恵が体育座りをしたまま見上げいう。
「ずいぶんと安っぽい演出だね、加藤さん」
その言い方は冷淡で、視線はさらに冷たい。
「豪雨の中、傘を投げ捨てて飛び出すなんてチープで笑えるよ。ほんとに君は・・・」
恵は驚く。この作品での伊織はずっといい人だったから。
「・・・伊織くん・・・だよね?」
伊織がビニール傘をポンッと恵の前に放った。
「そんな名前の時もある。別に僕が誰かなんて・・・君には関係のないことだろう?」
「・・・」
「その恰好じゃ、電車を使って帰るのも嫌かい?」
恵がうなずく。
「くだらないプライドを持てただけでも褒めておくべきかな?できそこないのヒロインになれただけでも・・・。自分で雨に濡れて、今度は雨に濡れるのが嫌?ほんとあきれるよ。君には」
伊織が腕を大きく上へ伸ばして、掌を開いた。、
黒い空間がそこに広がった。
「どこでもドアよりも少しだけかっこいいだろ?ここをくぐれば君の家。厳密にいえば、君のイデアが君の家だと感じる場所。わかるかい?加藤さん?」
恵は首をふる。イデア。わたしがわたしであるということ。
「今日はもう余計なことはしなくていい、余計なフラグを立てなくていいし、回収しなくていい。君の安っぽい『ヤンデレ』フラグも、『自殺』フラグもいらない。おとなしく帰って風邪をひかないようにして、寝る。それだけだ。わかったかい?」
恵が伊織をにらむ。
「そうしなかったら・・・どうなるの?わたしがあなたの言う『余計なこと』をしたら、どうなるというの?」
伊織は氷のように冷ややかなまま答える。
「そうだね・・・今までの負け犬シリーズのように荒唐無稽になっていくだけさ。ラブコメなんて君にはできないからね。」
「・・・そう」
「さぁ、話は終わりだ」
闇が恵を包み込む。そして恵はそこから消えた。
伊織は恵に冷たく当たった。こんなひどい状況で優しくするわけにはいかないからだ。
英梨々ルートの加藤恵は悲劇のヒロインを選ぶしかない、救済ルートは存在しない。
※※※
伊織が次回は『控室⑤』を提案する。
詩羽が承諾した。物語の立て直しを図りたいからだ。
しかし、倫也は拒否。美智留も倫也に同調して拒否。
しばらくたって、出海も拒否を示した。
英梨々はすやすやと眠っている。あるいは眠ったふりをしている。
※※※
「出海、どこにいる?」
「わたしはどこにでもいるよ。今は赤モブだから」
「お前が拒否ってことは成算があるんだな?」
「うん。だいぶ・・・わかってきたよ」
「なら、静観しよう」
「そうだよ。お兄ちゃんはもっと優しくないと・・・荒唐無稽な物語になっても、恵先輩にとっては英梨々ルートの物語よりもずっといいでしょう・・・?」
「まったく。出海の言う通りだ」
※※※
「霞ヶ丘先輩。だから次回は『倫也と美智留』その次が『波島出海①』でお願いします。それから・・・もし恵先輩が独断でフラグを立てていくなら・・・ほっといていいですよ」
「大丈夫かしら?」
「大丈夫です」
「そう・・・なら、お願い。私は少し休ませてもらうわ」
「いえ、お仕事があります」
「なにかしら?」
「9月から3月までのプロット作成です」
「冗談でしょう?この物語は8月で終わりよ」
「『霞ヶ丘シナリオ』も『フィーネ』 も・・・『英梨々ルートのハッピーエンド』のために通るべき道筋なだけですから」
「あなたは何かを知ったのね?」
「そうですね。ではお願いします」
(つづく)