プロット『倫也と美智留』
※※※
倫也をベッドに寝かせて美智留が看病していた。といっても冷えピタをおでこに乗せて、飲物を運んだぐらいだが。
「この『お見舞いイベント』も本当は楽しくなるものなんでしょ?」
「そうだな・・・」
「あれ、あたしがいないほうがもしかして良かった?」
「お前もヒロインだろ・・・自覚もてよ」
「いやぁ・・・さすがに今更ヒロインっていわれても・・・」
美智留は倫也のベッドを背にして床に座っている。
「少し話をしても大丈夫?」
「そのためにいるんだろう」
「そうなのかねぇ・・・」
「しんどい時に、お前がそばにいる。お助けキャラ属性でもあるんじゃないか?」
「さぁ・・・キャラ少ないし、しょうがないんじゃないの。でもやっぱり波島兄ちゃんが一番大変だよ。ついに切れちゃったじゃん」
「なんだかんだ妹思いなんだろあれでも・・・」
「出海ちゃんって何やってんの?赤モブって言われても」
「モブ役はさ、『可能性』みたいなもんなんだよ。何にでもなれるし、どこにでもいることができる」
「それで?」
「俺ができるのは俺だけだ。俺がでたイベントと俺がでるイベント。それから、こうやって文章化されたものしかわからない」
「うん。そりゃそうだ」
「詩羽先輩はその文章化されたものと、されなかったボツも記憶している。だけど、それでもやっぱり表面的なものしかわからないし、キャラが何を考えていたことまではわからない」
「波島兄ちゃんも似たような能力をもっていたよね」
「伊織がもっていたのはプロット管理だな。未来の可能性をぼんやりと把握していた」
「センパイが過去を、波島兄ちゃんが未来を担当しているってことでいいのかな?」
「おおむねでそれでいいと思う。ただ未来は常に確定していない」
「うんうん」
「ゆえに、物語がどうやって進むか誰もわからない」
「それはずいぶんと飛躍しすぎなんじゃないの?それじゃあ荒唐無稽に・・・あっ」
「さんざん回り道をした『負け犬5』がそうなんだよ。そしてプロット管理が強い『負け犬7』はどうだった?」
「正直・・・あまり面白いとは思わなかった。それに・・・窮屈だったよ」
「うん。じゃあ、この「負け犬6」はどうだろう?」
「うーん。あたしはあまりでてないけど、適度な方向性と自由があると思う」
「では、なぜそうなった?どこが違うんだろう?」
「そんなのあたしはわからないよ」
「大きな理由はキャラが育ったからだよ。次に章のはじめにプロットを置くことで方向性を少しだけ示している。例えばこの章のはじめに『寝込む倫也を美智留が懸命に看病しているうちに、恋愛感情がわく』ってなっていたとする。そしたら、こんな哲学的な話題なんてしないだろ?」
「そうだね。でも、恋愛感情がわくっていうのが具体的にどうすればいいかわからないし、1章でどうにかなるものじゃないような気がするんだけど」
「それが育った、美智留の自我だろ」
「おおぅ・・・」
「またプロットがもっと緩かったらどうだろう?『倫也のお見舞いイベント』だけだったら?」
「誰か他の人が来そうだねぇ」
「そういうことだ」
2人がお茶を飲む。
「ただ加藤が・・・」
「『英梨々ルート』の方向性に苦しんでいるってことね?」
「俺もな」
「風邪というよりは心労が重なった?」
倫也が渇いた笑いをする。
「話戻すけれど、出海ちゃんは何をやっているの?」
「あらゆるイベントや可能性を見て回っているんだと思う。加藤は自分のイベントを深く繰り返して探索するが、出海ちゃんは全体を遠く浅く探索しているって言ったほうがいいかもしれない」
「なるほどなぁ・・・さぼってるわけじゃないんだ?」
「おまえはずっと登場していなかったが、さぼってたのか?」
「あたしは忙しかったよ!イベントで起こる音楽ライブだって、ちゃんと準備がいるんだよ?それなのにあんたらはもめごとを起こして、こうやって引っ張り出されるし」
「わかったわかった。ごめん。出海ちゃんも同じだよ」
「なるほど・・・」
美智留はコップのお茶を飲み終わった。それから悩んだすえに言ってみることにした。
「この物語の題名のさ・・・『負け犬』って誰のことだと思う?」
「そりゃあ・・・英梨々じゃないのか?」
「あたしもそう思っていた。でもそれなら、『ポンコツヒロイン』の方がしっくりこない?」
「そうだな。それだと限定される感じがする」
「冴えない彼女の育て方ってさ、冴えない彼女『を』メインイロイン『に』育てるってことだよね?」
「そうだな」
「だからあたしたちはさ、負け犬ヒロイン『を』メインヒロイン『に』育てるって考えていたよね。澤村ちゃんを育てるって」
「うん」
「逆じゃないの?」
「どういうこと?」
「メインヒロイン『を』負け犬ヒロイン『に』育てるってこと。加藤ちゃんを負け犬にしていく話なんじゃないの?」
倫也が考え込む。美智留はバカなのか賢人なのか。
「言い方を変えるなら・・・澤村ちゃんって可愛いよね。見た目ももちろんだけど、性格だって可愛い」
「腐女子だろ」
「でも、それってトモにとって何の減点になってないどころか、プラスなんじゃないの?」
「・・・そうだな」
「原作を持ち出しても恐縮なんだけど、加藤ちゃんならなんとかなりそうだったんだよね?」
「・・・そうだな」
「ってことは、澤村ちゃんは遠い存在だったってことでしょ」
「こじれてたしな」
「一方で腐女子として素の自分をトモに見せていたよね、それってもっとも近い関係でもあるよね」
「ああ」
「だから、デートを重ねていけば、適度な距離になるはずってことだったよね」
「そういう予定だな」
「だとしたら、トモと澤村ちゃんの関係は問題ないんじゃないの?」
「でも、あいつは主役なのに『どうしたいか』をはっきりしないじゃないか」
「それはトモひどいよ!はっきりしないのは澤村ちゃんじゃなくて、トモだよ。まずはトモがしっかりと澤村ちゃんを見て、好きになって、告白をして、それで初めて澤村ちゃんがトモを選ぶかどうかを決めるんじゃないの?それが男性としての役割じゃないの?」
「あの・・・すでに告白を受けて付き合ってるんだけど・・・」
「それは形式でしょ!心じゃないでしょ!トモ・・・しっかりしなよ」
「・・・ああ・・・そうだな」
美智留が立ち上がる。
「だから、あたしが澤村ちゃんのために作る曲のタイトルは・・・
『can't fall in love to be a lover』
ね」
倫也はタイトルを考える。それから沈黙がつづく。
「トモ・・・泣くな・・・」
倫也は知っていた。英梨々を選べば恵が泣くことを。そのことばかり心配していた。どうすれば恵を泣かせずに英梨々を選べるか、そんなありもしないルートを探していた。ずっと恵の事ばかり考えていた。
英梨々が倫也に安心して恋ができない。恋人なのに。
そんな当たり前のことを気が付いてやれなかったことを、倫也は美智留と話して改めて気がついた。
(つづく)
正論のようで前提条件が破綻しているケース