プロット『波島出海』①
※※※
赤髪の女の子が池袋駅前広場を見下ろせる喫茶店でお茶を飲んでいる。
「わたしですか?わたしは赤い髪をしたどこにでもいるモブです。モブですが人生があります。このモブは大学生でこれから彼氏とデートの予定ですが、どうも彼氏に浮気の疑いがあるようです。でも、そんなことはこの物語にはぜんぜん関係ないので割愛します。わたしは背景のビルの窓に見える人影程度の役目しかありません。でも、こうやって焦点を当ててもらえれば、そこに人物の設定ができ、別の物語がはじまります。これを『観測』すると表現しています」
そう書いてあるセリフを棒読みした。
窓から広場を見下ろすと、加藤恵が立っている。誰かを待っている様子だ。
「で、あれがこの負け犬シリーズ『フィーネ』の恵先輩です。これから倫也先輩とデートなんですよね。倫也先輩と合流するのを目撃する予定です」
駅前では『icy tail』が野外コンサートをしている。イス席は埋まっていて盛り上がっているように見える。
それから、恵は英梨々と合流してなにやら話をして別れた。やがて倫也が現われる。
「よし。これで倫也先輩と恵先輩が合流するのを『観測』しました。彼らのセリフの詳細はわかりませんが、これで『フィーネ』も終わり、負け犬シリーズが完結しました。恵先輩のやりとげたようなほっとした表情が印象的です」
※※※
ゲームセンターでクレーンゲームを興じている赤髪の女の子がいる。
「ここはさっきから少し時間が進んだ池袋です。この子はクレーンゲームをしながら退屈な時間を過ごしてナンパ待ちをしています。もちろん物語には直接関係ないので割愛します。そして、わたしはわたしを『観測』します」
通りの向うから倫也と恵が歩いてくる。楽しそうに談笑して、2人の表情は明るい。
やがて、後ろから『波島出海』が駆け寄ってきて、ポ〇モンボールを投げて恵を捕まえた。
そしてすぐに消える。慌てて呆然としている倫也がいる。
「今『観測』したのが、この『負け犬6』の冒頭部分になります。波島出海が犯した罪は・・・『すべての物語を終わらせ幸せになったメインヒロインを誘拐した』ことです。これには霞ヶ丘先輩や澤村先輩もガチで怒りましたし、『物語の神様』なる存在がでてきて、ことを収めました。ですから、このまま『観測』を続けると・・・」
世界が一度暗転して、すぐに元に戻った。倫也と恵が楽しそうに歩いている。
「このように世界が修復され、2人の幸せな結末を見ることができます。わたしが観測できたのはここまでで、これ以上は物語がありません」
赤モブはクレーンでぬいぐるみを持ち上げるが残念ながら落ちる。
「ただ気になるのは・・・恵さんのアイテムです。誘拐される前は胸元の『プラチナキャット』のネックレスはしていませんでしたが、戻ってきた時にはしています。読み返してみると、この恵先輩は誘拐直後に『プラチナキャット』のネックレスをしています。この『観測』の誤差がなんなのか・・・残念ながらわたしにはわかりません」
※※※
パソコンを操作している赤髪の外国人女性がいる。
「わたしは外国人のハッカーです。わたしの役目は・・・『負け犬6』の最後を『観測』することです。ずっと8月までしか観測できませんでしたが、途中から3月まで観測することが可能になりました」
PCを操作する。
「最終日の倫也先輩は家にいるので、残念ながら直接見ることができませんでした。そこで衛星を使い倫也先輩の家を『観測』することにし、この女性にたどりつきました」
PC上には倫也の家を上からみた映像が映し出されている。庭に人物が2人いて、1人は金髪だ。おそらく、倫也と英梨々だろうと思われる。
「この映像から、最終日には澤村先輩と過ごしていることから、『負け犬6』は『英梨々ルート』で完結するようです。もっともそれがどんなものかまではわかりませんが」
2人は焚火をしているのか、赤くチラチラと光っている。それと黒い煙のようなものが見える。
「これでこの女性のこの物語での役割は終わりです」
※※※
「わたしは『波島出海』役のイデアです。このようにわたしは過去現在未来を『観測』しました。未来とはいえ、こうやって文書化されればすでに過去のようになり、まるでフラグのようになります。伏線といってもいいのかもしれません。が、これは伏線とは性質が違うもののようです。どのように話すと伝わるのかわかりませんが・・・まずは『負け犬1』について話をしたいです。えっ?退屈?口調も違う?そうなんですよねぇ・・・こう2話続けて哲学的な話題をしていますが・・・これは恵先輩の気持ちを立て直すのに時間が必要だからです。『負け犬5』の『アレ』を観測した時に似ていますね。というわけで、次回は『波島出海』②をお送りします。明るく可愛いわたしに戻る時も近そうです」
(つづく)