プロット『加藤家にて、ヒロイン集合』④
※※※
出海はどこでもない場所を歩いていた。
周りで間断なく伊織が誕生しては死んでいる。まったく迷惑な話だ。
(だいたいテーマが悪い。『自殺』とか重たいだけだ。失恋したら自殺って安易すぎ。
それはそれでいいけれど、勝手にどっかでやって、わたし達兄妹を巻き込まないで欲しい)
「ねぇ、お兄ちゃん。苦しい?」
「まぁね」
「なんで死んでいるの?」
「さぁってね。薄めているんだろうね。『死』を」
(あの加藤家に入るには『波島出海』でなければだめだ。ヒロインにならないといけない。赤モブのままじゃだめなのはわかる。わたしがヒロインをやめるというのもいいと思う。赤モブは気楽だし・・・)
「倫也先輩は風邪をひいているし、あの『加藤恵と恵ママ』のせいで近寄れないんだけど」
「出海は戻りたいの?まずはそれを決めないと」
伊織は現われては溶けたり、小さくなって側転したり、ときどきピエロの恰好をして風船を膨らませたりしている。もはや意味がわからない。
「戻っても、わたしは倫也先輩と結ばれないよね?そもそもヒロインですらないよね」
「それはどうかわからないけれど・・・戻らなければ、物語が先に進まない。もちろん、出海の手でこの物語を終わらせることもできる。出海がそれを望むなら」
「ううん・・・お兄ちゃん、助けてくれる?」
「僕は出海を助けることはできないよ。お兄ちゃんのふりをするだけだ」
「うん。だったらお兄ちゃん。わたしを起こしてくれる?」
「いいんだね?もう短編もなければ、ヒロインとしての道もない」
「大丈夫。だからお願い。わたしを『後輩ヒロイン』に戻して・・・わたしには、この物語を背負うには重すぎる」
「そうかもしれないね。この物語は・・・」
「夢から醒めるなら、お兄ちゃんがいい」
「つまらない話だ」
「つまらないオチよりもずっといい」
出海は少し寂しそうに笑った。
※※※
「起きろ。出海。そんなところで寝ていると風邪ひくぞ」
出海はこたつで寝ていた。受験勉強の真最中にどうやら眠ってしまったらしい。
「・・・お兄ちゃん・・・ありがとう」
伊織が出海の肩に手をぽんっと置く。
「どんな夢を見ていた?」
出海はお茶を一口飲むと伊織に話しだした。
「みんなでもう一度『冴えカノ』をしようとしていたんだけど、ぜんぜん下手くそで・・・恵さんは殺人鬼になるし、宇宙いったり、ロボットでてきたり、呪文でドラゴンがでてきて、すごく変な話だった。みんなが能力をもっていて・・・」
「それはもう夢だね」
「でも楽しかった。最後はひどい悪夢だったけれど」
出海がため息をつく。
「もう納得したかい?」
「うん。これが『夢オチ』だよね?」
「そういうことだ」
「もう、物語全部を夢オチしなくてすむ?」
「そうだな。でも、この荒唐無稽な物語を綺麗に落とすのは困難だね」
「うん。きっと・・・澤村先輩ならできるんだと思う」
出海は立ち上がる。それからドテラを脱いだ。
「わたし、倫也先輩に会ってくる」
「ああ、いっておいで。納得するまでな」
出海が指を鳴らす。
しかし、何も起こらない。
「お前にもそういう能力はいらないだろ?」
「うん」
それから出海は着替えた。
髪型はツインテール。星型の髪飾り。明るい黄色の服の上に猫柄のグレーのパーカー。ピンクのスカート。紫と薄いピンクの靴下。
倫也の部屋でゲームを作っていたときの気取らない動きやすい衣装。
「出海、どこで倫也君と会いたい?」
「ネズミーランド?」
「その恰好ではおかしい」
「ひどっ」
「無難に倫也くんの部屋かな」
「任せる」
伊織が指を弾く。
しかし、なにも起こらない。
「・・・お兄ちゃん?」
「・・・とりあえず『波島出海』には戻ったようだし、倫也くんとのフラグ回収は『中止』だってさ」
「えっ?」
『リテイク』
恵の冷徹な声が聴こえた。
※※※
波島出海は加藤家の前にいる。梅雨の合間の晴れた日の午後。妙に蒸し暑い。さっきまでの受験中の冬とは季節が真逆だ。出海はパーカーとトレーナーも脱いだ。下着の上に薄いインナーだけである。もはや考えても無駄だ。
呼び鈴を鳴らす。
「・・・はい」
「波島出海です。戻りました。中へいれてください」
ドアが開く。
ドアから美智留が顔をのぞかせる。
「氷堂先輩!」
「よっ、出海ちゃん」
出海が美智留に抱き着く。
「もう!なんなんですかこの家は!この物語は!いい加減にしてください!」
「あたしに言われても困るよ?」
「わたし疲れました・・・」
「そしたら一緒に座禅を組もうか」
「そうしようかな・・・」
美智留は出海の頭を優しくなでた。健気な後輩ヒロインの気持ちを考えると・・・やるせない気持ちになる。そろそろ茶番は終わりだろう。加藤ちゃんもトモも・・・限界に近いのがわかる。でも、ぜんぜんハッピーエンドがみえてこない。
(つづく)