プロット『加藤家にて、ヒロイン集合』⑤
※※※
恵の部屋。小さなテーブルを恵と詩羽と英梨々が囲っている。タンスの上に美智留が、机の上に出海がそれぞれ座禅している。
「章の浪費もいいとこだわ」
「ほんと、波島出海はフラグ回収が何もできてないじゃない」
厳しい先輩ヒロインの2人がダメだしをしている。
「加藤さんならどうしてた?」
「わたしなら呼び鈴ならして名乗って入るかなぁ」
「リテイクで入れないでしょ?」
「それは粘るよ。相手が根負けするまで呼び鈴を押す」
「・・・澤村さんならどうする?」
「あたしはこんな理不尽なのは嫌だけど、プロットは家に集合だから、外も家と解釈して絵でも描いて時間つぶすわよ。そのうち誰かがなんとかするでしょうし」
「他力本願なのね」
「なんにせよ、プロットが家に集合なのだから、離れたらダメでしょ。霞ヶ丘詩羽ならどうするのよ?」
「そうねぇ、私が出海さんなら・・・倫理君の家には入れたみたいだし、そっと看病したあとはベッドにもたれかかって倫理君の隣で眠るかしらね」
「あーいいわねぇ。なんで出海は突然、キスしようとをしたのかしら」
「物語を悟ったふりをしていたんじゃないのかしらね。それにクールなふるまいが気に入っているみたいだし」
「クール!?」
詩羽と英梨々が机の上の出海を見る。肩が震えて怒っているのがわかる。表情もひきつっていた。
「だからね、わたしは出海ちゃんには『明るく元気な後輩ヒロイン』を教えてきたつもりなんだけどなぁ。指導方法が悪かったかなぁ」
「それは否めないわよ。加藤さん。恐怖が人柄を変えることもあるわ」
「あたしは出海はただの『中二病』なんだと思っているけど。かっこつけたい年頃じゃない?」
「それは一理あるわね澤村さん」
英梨々が出海を見て「ぷぷぷっ」と笑った。
「もう!なんなんですかー!」
出海が我慢できずに起き上がる。
それから、机から降りようとして下に落ちる。
「・・・いたっ」
足をさすっている。
「慣れないことするから足がしびれるのよ」
英梨々が近づいて手を差し出す。
「さて、ヒロインもそろったことだし、そろそろイベント進めましょうか」
詩羽が仕切りはじめる。
「でも、氷堂先輩がまだ座禅したままですよ」
「あれは・・・気に入っているのよ・・・」
「本気ですか?」
「あたしは嫌よ、そんなフラグ回収するの」
「わたしもちょっと嫌かな。出海ちゃんお願い」
「はーい。・・・プラチナつみたーて♪」
コツッコツッ
美智留がタンスを叩いてから降りてくる。
表情もなく、恥ずかし気もなくやってのける。
「ひぃ・・・ぷはっ・・・ダメ・・・私っ、これダメ・・」
詩羽が倒れ込んで腹を抱えて笑っている。
笑う壺は人それぞれ。ときどき下らないことで笑いが止まらないこともある。
しかし、恵と英梨々は顔を見合わせてから、ため息を同時についた。
この笑いのセンスがシナリオライターとか、・・・もう絶望的ではないか。
詩羽が倒れ込んでいるので美智留がセリフを代わりに言った。
「で、回収するフラグは加藤ちゃんの『自殺』だっけ?」
恵がすぐに土下座する。
「恵、その倫也ばりの土下座はやめなさいよ!あんた一応、この物語のメインヒロインでしょ!?」
「今はちがうしぃー」
「そうですよ恵先輩。やっぱ、恵先輩に土下座は似合いませんよ?」
「いいのよ・・・わたしが本当に悪かった。失恋を自殺なんて手法で悲しみを表現すべきじゃなかった。怒られてもしょうがない」
「わ・・・わかれば・・いいのひょ・・・だめ・・・わたひ・・」
詩羽が一生懸命会話に参加しようとしたが、使い物にならない。
身振り手振りで何かを伝えて、部屋から出て行った。
「お手洗いかしら?」
「ほっとこ」
※※※
しばらく時間を置いて詩羽が戻ってくる。
表情が元のシリアスに戻っているが、おそらく連続二音で崩壊するだろう。
だれもがわかっているが、あえてシリアスな詩羽の演技を尊重して進めることにした。
(つづく)