負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

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さぁ始めようか。おかしな世界観でのラブコメを。


プロローグ

 明日から。二年生としての一学期が始まる。

一人の名も無きモブの女の子が新学期の配役に目を通していた。

 

「・・・クラスメートB」

 

 やった!一年の時はただのクラスメート背景モブだった。セリフもなかった。とにかく目立たないように学校で過ごしていた。でも、だれかがちゃんと見てるんだなぁ。クラスメートBは大抜擢だ。これならセリフももらえるに違いない。

 

<クラスメートB 初日始業式放課後イベント① 改訂1>

 

放課後、職員室で先生より伝言を受ける。

主人公(教室から視聴覚室までの間を移動中)に声をかける。

セリフ 

 

「うあぁ・・・けっこうセリフあるなぁ・・・」

 

名も無きモブ改め、クラスメートBはそのセリフのやり取りを頭の中で反復して覚える。

 

「この前ありがとね」(なんのことだ?)「ほら、春休みの時、帽子拾ってくれたじゃん?白いベレーの」(そんなことあったっけ、覚えてないな)「それじゃあ」(また明日な)

 

なんだろう?このくだりは。先生からの伝言はわかる。でも、こっちは誤植だろうか?でもわざわざ改定1と書いてある。なにか間違いイベントのフラグなのかな?全部の台本が渡されてないからよくわからない。でも初日だから大事なイベントなのだろう。しっかり覚えよう。

 どんなタイミングで話かければいいかな?あまり目立たないようにしないとなぁ。物語の主人公君は安芸倫也くんなんだね。みんなはヲタクだっていうけど、好きなことに一生懸命な人だし、学校の図書館にラノベ並べたり、学園祭でアニメ上映したり、すごいなぁって思う。迷惑かけないようにしないと、またモブに戻っちゃうからなぁ・・・不安だなぁ・・・

 

 その日の夜、クラスメートBは緊張してあまり眠れなかった。改定前よりもセリフが増えているんだろうな。なんか別なイベントの伏線っぽいし。セリフが多いのは嬉しいことだ。しっかりがんばろう。クラスメートBはそんなことを考えていた。

 本当はセリフが大幅に削除されたことを知るすべはなかった。・・・何よりも、その後の珈琲店で主人公とのイベントが消され、「可愛い」と言われた事実もなくなってしまうことなど、思いもよらなかった。

 

※※※

 

 学校。始業式初日。他の生徒が始業式に参加するため体育館に移動していた。倫也はG組のロッカー付近で英梨々と最初のイベントが発生していた。

 

 英梨々が倫也に深く頭を下げていた。

「ごめん、倫也」

 

「なんだよ・・・突然」

「あたし、十年前のこと・・・後悔している。あんたの関係がこじれたことをずっと後悔してきた。苦しんできた」

「ちょっと、落ち着け英梨々。ここは最初のイベントだろ?ここでお前の『ツンデレ』キャラや同人誌描いていることを紹介するはずだろ?台本からこんなにはずれてどうすんだよ・・・」

「そんな細かいことはいいのよ」

「細かくねぇだろ・・・」

「いい倫也?あたし達は十年前に結婚を約束したわ」

「一緒にゲームを作ろうって約束しただけだろ?それに小学生の時のことなんか・・・」

「でも、それを信じてきた子が目の前にいるのよ」

「お前どうかしているぞ?これ物語の序盤だろ?俺は一応ハーレム型の主人公だろ?なんでいきなりそんなイベントフラグ立てるんだよ」

 

英梨々が深く息を吸う。落ち着けと自分に言い聞かす。もう物語は完結している。あせることはない。あたしは『負け犬7』に繋げるだけでいい。倫也には英梨々ルートに進んでもらうだけでいい・・・

 

「あたしが倫也のことをずっとずっと好きだったからよ!」

 

倫也が止まって考える。何かがおかしい。こんなバカな話があるか?最初に本命ヒロインから告白を受けるなんて・・・

 

「だからね、倫也。あたしと付き合ってちょうだい」

 

英梨々が頭を下げる。それとも『あんた、あたしと付き合いなさいよー』というべきか。いや、それは照れを隠している。全力で気持ちを伝える必要がある。あたしはこの戦いにだけは負けられない。

 

「いやいや、おかしいでしょ?」

「返事聞かせてもらえるかしら?」

「ごめん。断るよ。気持ちは嬉しいけれど・・・告白とか付き合うとかキスとか、そういうのってフラグをたくさん集めて、やっと正解にたどり着いた先にあるものだろ?」

「で?」

「まず、他のヒロインが登場していないのに決められるわけないだろ?」

「他のヒロインなら・・・登場しないわよ」

「なんと!?」

「霞ヶ丘詩羽ならすでに降板している。従姉妹の氷堂美智留は降参していて参戦できない。可愛い後輩は『罪』を追って今はヒロインができない。だからね倫也・・・あなたはハーレム型主人公にはなれない・・・あなたは幼馴染ヒロインと結ばれるしかないの。あなたの選択肢は・・・yes or はい なのよ」

「・・・なるほど・・・、けどな英梨々・・・お前・・・嘘ついてるだろ?」

「なっ!」

「目が泳いでいる」

 

そう、英梨々は最初は強気だったが嘘を重ねるのが上手くない。すでに動揺を隠せない。

 

「お前の気持ちはわかったよ。英梨々と付き合えるならそれほど嬉しいことはないよ。けどな・・・今日のためにたくさんのモブやスタッフが準備してくれているだろ?そういうのは無駄にしたくない。体育館や教室でのさりげない会話がデビューの子もいる。俺らは主役級だから自由に動けるけど、そうでない子はチャンスをつかむしかない」

「そうね・・・わかったわ。今日のイベントはこなしなさいよ・・・でも、そのあとはあたしと付き合ってもらう。いいわね?」

「ああ・・・それが物語のストーリーならそれに従うよ」

「あとね倫也・・・眼鏡ちょっといい?」

 

英梨々が倫也の眼鏡を取るとすぐに壊した。

 

「あとは、物語に相応しい男に成長しなさいよ」

 

(つづく)

 




英梨々 立つ
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