プロット『7月のクラスメートB』④
※※※
恵が倫也の方を向いて話を始める。
「クラスメートBっていうのは、倫也くんの恋愛相談ができる女友達ってことなのかな?」
「今はそういう位置づけでやろうとしているんじゃないの?」
「今は?」
「関係性は変わっていくだろう?」
「どうやって変わっていくの?」
「それは未来のことだからわからないよ」
恵はシャープペンをカチカチと押し出しては、指で押し戻す。
「わたしは学校のささやかなイベントを担当するんだよね」
「まぁそうだな」
「それって・・・なんか地縛霊っぽくない?」
「どういうこと?」
「学校に縛られて動けないんだよね?学校外でのイベントができないって地縛霊みたいだなって」
「それはそれで一つのジャンルだよね。学校の怪談系」
「いや・・・そうじゃなくって・・・」
倫也はペンを器用にクルクルと指で回す。
「相談していた女子が振られて地縛霊になるオチだと怪談だけど、相談していた女子が実は地縛霊だったというとショートショートっぽいな」
「そんな小説のプロットはいいよぉ」
「ふむ・・・。
① ある女子が振られて地縛霊になる
② 主人公が相談していた相手がその地縛霊だった。
③ そのおかげで主人公の恋愛が成就して、地縛霊も成仏する。
どうかな??」
「どうかなっていわれても、今の流れだとわたしが地縛霊みたいで不本意なんだけど」
「ごめん」
倫也がメモを残す。
「そういうとこ・・・まめだよね」
「今のだと綺麗にまとまるから、もうひとひねり欲しいなって思う」
「でも、今は英梨々と倫也くんの話をどうするかを考えるんでしょう?」
「いや、恵がどうやって英梨々の物語に協力していくかを考えているんだよ」
「安芸くん、理屈っぽいよね。あんまり好きじゃないな」
「うん、それでいいよ」
「うわぁ・・・また、そういうこというんだ?」
恵は数式がたくさん書かれている黒板を見る。先生は授業をしていて、モブのクラスメートは授業をちゃんと聞いている。みんな真面目だ。自分も去年までは真面目だった。
「とりあえずさ、やってみるというのはどうでしょうかね?加藤さん」
「そうだなぁ・・・」
「やる気ねぇなぁ」
「いや、それは正しくないよ。やる気はあるんだよ?約束だし、考えるのは楽しいだろうし。でもノリ気じゃないないんだよ」
「ちがうのか・・・」
「ちがうよ」
「無理することもないんだけどな」
「だよねぇ・・・」
別に倫也と英梨々はほっとけば勝手にくっつく。問題なのは恵との関係だ。
「いっそ、二股かけるというのはどうかな?」
「それ、俺が殺されるENDしかみえなくない!?」
「今更死ぬの怖がってもしょうがないんじゃないかな」
「死ぬことは否定しないんだ・・・」
「あれ・・・?どっかにそんな感じのボツ原稿があったような気が・・・」
「あるんだ・・・」
恵が机の中からファイルを取り出す。
「本来の『負け犬3』のプロットだよ、安芸くん」
「へぇ・・・」
「これは安芸くんが死ぬことでわたしと英梨々の勝負が持ち越されることになる話だよ」
「ほうほう、でも未完でおわったよな」
「うん・・・それで全部の構成が崩れたんだよね・・・」
「フィーネか・・・」
「うん」
恵は投げ出したことを反省している。そうだ、投げ出したのは英梨々じゃなくて、恵だった。
恵が机にふせる。
「ねぇ・・・二時限目も終わりにしよ」
「恵がそう望むなら」
二時限目の終了の鐘がなる。
モブ立ちが挨拶のあと、立ち上がって教室からでていく。
「ねぇ安芸くん、次の授業なに?」
「3,4時限目は選択科目だな」
「今日、何曜日?」
「わかんね」
「時間割は都合によってかわったりする?」
「する」
「けっこういい加減なのかな」
「それは違うよ。かなりいい加減なんだ」
「わたしたちって学校で過ごすんだよね?」
「その予定だな」
「なのに、そんなにいい加減なの?時間割ぐらい考えたらいいんじゃないかな」
「授業聞く気ないのに!?」
「それとこれとは話が別だと思うんだけどなっ」
倫也がため息をつく。
「俺は美術だけど、加藤は音楽だよな」
「うん」
「じゃあ、またな」
「ちょっとまってよ、安芸くん」
「ん?」
「音楽の教科書・・・」
「お前、音楽の教科書も燃やしたのかよ」
「えっと・・・シュレッダーにかけちゃった」
「あっそ」
倫也が教室から出ていこうとする。
「帰る」
「えっ?」
倫也が振り返る。恵が外を見ている。教室を移動する気はなさそうだ。
「学校、つまんない」
「もう、ただの駄々っ子だよね!?」
「だってさ、倫也くん・・・」
「ちょっとまって、お前、次の授業さぼるの?」
「うん」
倫也が黙って席に戻る。
「これで窓を閉めてエアコンつけたら、もったいないかな」
「そういうとこよく気がつくよな」
「もう一つ気が付いたのだけど」
「ん?」
「次、校庭で何の体育の授業してもらうか考えていたのだけど・・・」
「うん?」
「授業・・・水泳なんじゃないの?」
「あーそうだな」
「うん」
教室に2人。恵はおかしそうに静かに笑う。
倫也はつられて笑う。
こんなどーでもいい話でも、恵が幸せそうに笑ってくれるなら、それでいいかなって思う。
下手くそでも面白くなくてもいい、こったシナリオも伏線もいらない。ただ恵が幸せに過ごす物語を一緒に過ごしたかった。
(つづく)