プロット『7月のクラスメートB』⑥
※※※
4時限目のチャイムが鳴る。
「次は・・・臨海公園のプロットだね」
「そうだな」
「電車で移動して、広い公園があって、観覧があって、マグロの水族館がある」
「そうだな」
「で、何を決めるの?」
「さぁ・・・」
「・・・もう、好きに過ごしたらいいんじゃないかなっ!」
「いや、そんな突然怒られても」
「別に怒ってないよ。すねただけだよ」
「なぁ加藤。ほんとに今更なんだけどさ、この学校の過した方は間違ってないか?」
「ん~、倫也くんの恋愛相談にのる話?」
「うん、そもそも相談って感じとは違うしな」
「ゲーム内の進展や演出を考えるのと、倫也くんが実際の他の子とデートするのを考えるのはやはり違うよ」
「そりゃそうだよなぁ・・・」
「残酷だよ」
「それは強い言い方だなぁ・・・」
「ごめん」
「いや、あやまるのは俺のほうだよ。ごめんな加藤」
恵が立ち上がって手を上に伸ばす。
「う~~ん」
それから、ため息をついた。
「もう英梨々の話はやめないか?」
「それでいいの?」
「だって・・・機嫌悪くなるだろ・・・」
「それは根本的には解決しないんじゃないかな」
「・・・」
倫也は椅子にもたれかかって考え込む。
「じゃあ、9月の2人での過した方を考えるとうのはどうだろう?」
「2人って?」
「俺と恵」
「加藤なんだけど」
「あっ」
「わたしもだいたい倫也くんって呼んでるよ。あとで戻って修正しているけど・・・抜けているところあるんじゃないかなぁ」
「そうなんだ」
「呼び方を戻すのはやっぱり難しいよ」
「でも、距離感がでるからなぁ・・・」
「確かに『恵』って呼ばれるのは特別だもんね」
「どこかで間違えたのかなぁ・・・」
倫也が頭をかく。それから鼻の下にペンをはさむ。
「間違えたかどうかはわからないけど・・・わたし達はこの物語をなんとか完結させないとね」
「英梨々のハッピーエンドでな」
恵が席に座る。
「うん。話を戻すけど9月のイベントを考えるっていうのは、9月には10月のイベントを考えるっていう話にならない?」
「一年続ければループものが一本書けるな!」
倫也がメモする。
「ショートショート好きだね」
「ついな・・・」
「そういえば、『負け犬7』で霞ヶ丘先輩が次は額物語でやりたいっていってたもんね」
「ああそうか、7の方が先に終わっているんだっけ」
「そうだよ。そして『負け犬8』にあたる『フィーネ』に続くはずだったんだけどね。変な物語」
「行きあたりばったりなんだよな」
2人の目が合う。時間が止まったように静かだ。
「夏服の恵も可愛いな」
「・・・何をいってるのかなぁ?」
恵がため息をつく。まったく緊張感のない会話。
倫也が恵を怒らせまいと気をつかっているのも分かる。
「この時期の髪型って本来はポニーテールなんだよな」
「そうだね。なんかずっとボブのイメージでしょ?」
「ああ。クラスメートBだからかな」
「その辺は気楽だよ」
ゆったりとした時間だけが流れていく。
こう退屈な会話を続けていても読者に申し訳がない。
恵はイベントを進めることにする。
「安芸くん・・・この物語が8月・・・来月で終わる理由はさ・・・」
「9月が恵の誕生日だからか」
「うん」
倫也が前をまっすぐ見つめて考えている。
「二年生の頃のわたしの誕生日は祝われてないし、別にいいよ」
「そういう問題ではなくってだな」
「英梨々ルートに入ったら、わたしのことは祝えない。何もかもは選べないんだよ」
「別にみんなが幸せになる話があってもいいだろ?」
「安芸くんの『オールハッピー』は一度だけだよ。それはもう『負け犬7』で使ったよね?」
「・・・じゃあ、どうすればいいんだよ」
「わかってるよね?」
倫也の表情が険しくなる。ずっと考えてきた。英梨々に責任を押しつけて逃げていた。
「安芸くんは、ちゃんと選ばないといけないよ。英梨々を選んで、英梨々を好きになって、英梨々に好きなってもらわないと・・・誰も幸せになれない物語で終わってしまう」
「そうだけど・・・」
恵のいない世界では英梨々と結婚もした。
恵と坂の上で出会わなかったこの世界では・・・記憶を失うなんてできなかった。
恵が立ち上がって、倫也の後ろに静かに立った。
「だからね、クラスメートBのわたしができることは、安芸くんに・・・『安芸くん、がんばれ』って、背中を押すことくらいなんだよ」
恵が両手の手のひらを倫也の背中に当てる。倫也が少し震えていた。恵の手の温かさが背中から伝わる。
(そして、わたしは役割とは別のことを思う。『倫也くん、がんばらないで』っと)
ハーレム型主人公がうまくできない主人公の倫也は、泣くのを我慢している。英梨々ルートでは恵は幸せになるどころか、不幸になる。それを承諾してくれている。そんなバカな話があるだろうか?それがハッピーエンド?
恵は自分のおでこを倫也の頭の上にくっつけた。
「・・・もう、メインヒロインじゃないから、いいよね?」
恵は後ろから倫也を優しく抱き寄せる。
英梨々ルートに踏み込んだ2人は、英梨々ルートを上手く進められない。
2人の気持ちが落ち着くまで4時限目終了のチャイムは鳴ることはなかった。
(つづく)