負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

53 / 72
四八

 

プロット『7月のクラスメートB』⑥

 

※※※

 

 4時限目のチャイムが鳴る。

 

「次は・・・臨海公園のプロットだね」

「そうだな」

「電車で移動して、広い公園があって、観覧があって、マグロの水族館がある」

「そうだな」

「で、何を決めるの?」

「さぁ・・・」

「・・・もう、好きに過ごしたらいいんじゃないかなっ!」

「いや、そんな突然怒られても」

「別に怒ってないよ。すねただけだよ」

「なぁ加藤。ほんとに今更なんだけどさ、この学校の過した方は間違ってないか?」

「ん~、倫也くんの恋愛相談にのる話?」

「うん、そもそも相談って感じとは違うしな」

「ゲーム内の進展や演出を考えるのと、倫也くんが実際の他の子とデートするのを考えるのはやはり違うよ」

「そりゃそうだよなぁ・・・」

「残酷だよ」

「それは強い言い方だなぁ・・・」

「ごめん」

「いや、あやまるのは俺のほうだよ。ごめんな加藤」

 

恵が立ち上がって手を上に伸ばす。

「う~~ん」

 

それから、ため息をついた。

 

「もう英梨々の話はやめないか?」

「それでいいの?」

「だって・・・機嫌悪くなるだろ・・・」

「それは根本的には解決しないんじゃないかな」

「・・・」

 

倫也は椅子にもたれかかって考え込む。

 

「じゃあ、9月の2人での過した方を考えるとうのはどうだろう?」

「2人って?」

「俺と恵」

「加藤なんだけど」

「あっ」

「わたしもだいたい倫也くんって呼んでるよ。あとで戻って修正しているけど・・・抜けているところあるんじゃないかなぁ」

「そうなんだ」

「呼び方を戻すのはやっぱり難しいよ」

「でも、距離感がでるからなぁ・・・」

「確かに『恵』って呼ばれるのは特別だもんね」

「どこかで間違えたのかなぁ・・・」

 

倫也が頭をかく。それから鼻の下にペンをはさむ。

 

「間違えたかどうかはわからないけど・・・わたし達はこの物語をなんとか完結させないとね」

「英梨々のハッピーエンドでな」

 

恵が席に座る。

 

「うん。話を戻すけど9月のイベントを考えるっていうのは、9月には10月のイベントを考えるっていう話にならない?」

「一年続ければループものが一本書けるな!」

 

倫也がメモする。

 

「ショートショート好きだね」

「ついな・・・」

「そういえば、『負け犬7』で霞ヶ丘先輩が次は額物語でやりたいっていってたもんね」

「ああそうか、7の方が先に終わっているんだっけ」

「そうだよ。そして『負け犬8』にあたる『フィーネ』に続くはずだったんだけどね。変な物語」

「行きあたりばったりなんだよな」

 

 2人の目が合う。時間が止まったように静かだ。

 

 

 

「夏服の恵も可愛いな」

 

 

 

「・・・何をいってるのかなぁ?」

 

恵がため息をつく。まったく緊張感のない会話。

倫也が恵を怒らせまいと気をつかっているのも分かる。

 

「この時期の髪型って本来はポニーテールなんだよな」

「そうだね。なんかずっとボブのイメージでしょ?」

「ああ。クラスメートBだからかな」

「その辺は気楽だよ」

 

ゆったりとした時間だけが流れていく。

こう退屈な会話を続けていても読者に申し訳がない。

恵はイベントを進めることにする。

 

「安芸くん・・・この物語が8月・・・来月で終わる理由はさ・・・」

「9月が恵の誕生日だからか」

「うん」

 

 倫也が前をまっすぐ見つめて考えている。

 

「二年生の頃のわたしの誕生日は祝われてないし、別にいいよ」

「そういう問題ではなくってだな」

「英梨々ルートに入ったら、わたしのことは祝えない。何もかもは選べないんだよ」

「別にみんなが幸せになる話があってもいいだろ?」

「安芸くんの『オールハッピー』は一度だけだよ。それはもう『負け犬7』で使ったよね?」

「・・・じゃあ、どうすればいいんだよ」

「わかってるよね?」

 

倫也の表情が険しくなる。ずっと考えてきた。英梨々に責任を押しつけて逃げていた。

 

「安芸くんは、ちゃんと選ばないといけないよ。英梨々を選んで、英梨々を好きになって、英梨々に好きなってもらわないと・・・誰も幸せになれない物語で終わってしまう」

「そうだけど・・・」

 

恵のいない世界では英梨々と結婚もした。

恵と坂の上で出会わなかったこの世界では・・・記憶を失うなんてできなかった。

 

恵が立ち上がって、倫也の後ろに静かに立った。

 

「だからね、クラスメートBのわたしができることは、安芸くんに・・・『安芸くん、がんばれ』って、背中を押すことくらいなんだよ」

 

恵が両手の手のひらを倫也の背中に当てる。倫也が少し震えていた。恵の手の温かさが背中から伝わる。

 

(そして、わたしは役割とは別のことを思う。『倫也くん、がんばらないで』っと)

 

ハーレム型主人公がうまくできない主人公の倫也は、泣くのを我慢している。英梨々ルートでは恵は幸せになるどころか、不幸になる。それを承諾してくれている。そんなバカな話があるだろうか?それがハッピーエンド?

 

恵は自分のおでこを倫也の頭の上にくっつけた。

 

 

 

「・・・もう、メインヒロインじゃないから、いいよね?」

 

 

 

恵は後ろから倫也を優しく抱き寄せる。

 

 

 

英梨々ルートに踏み込んだ2人は、英梨々ルートを上手く進められない。

2人の気持ちが落ち着くまで4時限目終了のチャイムは鳴ることはなかった。

 

(つづく)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。