プロット『7月クラスメートB』⑦
※※※
4時限目終了のチャイムが鳴った。
倫也は前を向いてじっと座っている。
その隣の席で恵も前を座ってじっとしている。
選択科目の終わったモブ生徒が教室に入ってきて、溶けて消えた。
クラスメートAが慌てて教室を侵入不可にする。
チャラけた自信ありげなモブが教室のドアを開けて、溶けて消えた。
詩羽は暑い屋上には向かわず教室でメロンパンを食べようと思ったが、気になったので倫也のいる教室に向かった。
英梨々は少しでも倫也を援護できればと、倫也の教室に向かった。
教室の前はすでにモブで人だかりができていた。
詩羽はモブに、
「危ないから帰ったほうがいいわよ」
と警告した。何人かは従って帰ったが、大多数が野次馬として残った。
英梨々が到着する。
「澤村さんでも危ないわよ」
詩羽が警告した。
「あたしなら大丈夫よ。一応、主役だし」
英梨々が勢いよくドアを開ける。
「倫也ぁ~!一緒にランチ食べっ・・・」
恵の目は深淵が見えるほど黒く塗りつぶされていた。
次の瞬間、英梨々が溶けて消えた。
倫也は頭を抱える。
助けようと入った詩羽が溶けて消えた。
倫也は首を振る。もう手遅れだと悟った。
倫也は立ち上がって、教室のドア開ける。
クラスメートAが辛うじて震えて座り込んでいる。他のモブは溶けて消えた。
「伊織と美智留に連絡をいれてくれ。それから逃げろ」
クラスメートAがうなずいて走りだす。
倫也は教室に戻る。
窓の外に景色はもうなかった。演出が失われた。
恵は倫也の動きをうつろな目で追っていた。
倫也が恵の隣の席に座る。
「大丈夫だよ恵。なんの問題もない」
恵が首をかしげる。その黒い髪が揺れる。
目が灰色で虚ろだ。
「今は4時限目終了のチャイムが鳴って、ランチタイムだ」
「・・・そう・・・」
倫也は静かに座って待つ。
「ガンダムかっこよかった?」
「そんなものは見ていない」
「動くんでしょ?」
「知らない。ガンダムは版権めんどくさいし、関わりたくない」
「うん」
「英梨々は可愛かった?」
「英梨々はいつだって可愛いよ」
「・・・もう」
「嘘はつけないからなっ」
「赤いドレスは似合ってた?」
「それはアニメの話だろ?」
「嘘をつくの?」
「俺は嘘なんてつかない」
「だって前の章で英梨々とデートしてた。なんで?どうして?突然デートしているの?わたしのイベントは?ねぇ倫也くん?英梨々が大事だから、わたしのイベントはいらないい?ごめんね。いつもじゃましてごめんね」
「違うよ恵。あれは何かのノイズだよ。不確定な未来がまざったんだよ。この物語は変な物語だから、ときどきおかしなことが起こるだけだよ」
「じゃあ、倫也くんはガンダムみないの?」
「みないよ」
「英梨々とデートしないの?」
「お前が望まないなら英梨々とデートなんてしないよ」
「英梨々・・・悲しまない?」
「英梨々は悲しむ。俺も悲しむ。お前も悲しむ。・・・だろ?」
「うん」
恵が小さくうなずいた。目の色が少し戻る。顔はフラットなままだ。無表情。作った無表情でなく、自分がどんな感情かわからない無表情。
「腹減ったな。何か買ってくるよ恵。パンでいいか?」
恵が首をかしげる。考え込む。
セリフがでてこない。何かを言おうとしていた。
「大丈夫。まだ何も間違ってない。落ち着いて?思い出してからでいいから」
倫也が優しく声をかける。
今の恵には台本はない。ただやりたいことがあっただけだ。
恵は机の横にかけてあった。ランチボックスをテーブルの上に置こうとしたが、手がずっと震えてままで、それを床に落としてしまった。
「倫也・・くん。お弁・・当を・・作ったの・・だけ・・ど・・・食べ・・・てくれ・・る?・・・」
倫也は弾むような声で「うれしい」と答えた。
それから黙って立ち上がって、落ちたランチボックスを拾う。
恵はその様子を首をかしげて眺めていた。ぎこちなく体が震えていた。
それから気が付いて、目を大きく見開くと、そこから大粒の涙がつぎつぎと零れ落ちた。
「倫也くん!間違えた。間違えた。ごめんなさい、ごめんなさい。間違えた・・・ごめんんなさい」
っと、ロボットのように繰り返えす。叫ぶように繰り返している。
倫也は恵を強く抱きしめた。
「ごめん、間違えたのは俺だよ恵。ランチボックスを落としてしまった。セリフもたくさん間違えた。なんかおかしな話も混じってしまった。ちょっと疲れたんだと思う。もし君が・・・恵が許してくれるなら・・・『つづき』をいれてもいいかな?」
恵が小さくうなずいた。
倫也は祈るように、
(伊織、なんとかしてくれ)
っと、頼んだ。
(つづく)