負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

56 / 72
51

 

プロット『波島伊織は静かに誰よりも怒る』

 

※※※

 

「お兄ちゃん」

 

出海が心配そうにしている。

ここは波島家の地下の秘密基地。今は緊急対策室として機能している。

 

「大丈夫だ、出海。多少ダークファンタジーに歪んでも、クラスメートAさんが生き残っている。加藤さんはちゃんと記憶しているさ」

 

伊織は難しそうに手を顔の前で組んでいる。

もっともらしいことを言うのも彼の仕事だ。

 

「出海ちゃん、あたしにも読ませてくれる?」

「はい」

 

出海が美智留にレポートを渡す。美智留が読み進めていく。

 

「まずは簡単な方から処理していこうか」

「わかった。お兄ちゃん、霞ヶ丘先輩と澤村先輩は復活でいいんだね?」

「・・・澤村さんはもちろんだけど、『霞センセ』は、もういらない」

「そうかもしれないけど、ちゃんとさよならしないと後味悪いよ?」

「なら復活させて釘をさすか」

 

英梨々と詩羽が現われる。

 

「・・・」

「霞センセ。残念だけど、お別れだ」

「そう・・・で、誰があとのシナリオを引継ぐのかしら?」

「さぁね」

「・・・」

「あんな不穏な『お見舞い』イベントに続き、まさかの加藤さんイベントに強制介入は許されない。わかるよね?」

「ちょうどいいタイミングだったと思うけれど?澤村さんも強いフラグを立てられたじゃない?」

「相変わらずだね、ストーリーなんて関係ないって、さんざん言われてきたのに」

「・・・」

「『加藤恵』のイデアを穢してまで、話すべきことなんてこの物語には皆無だよ」

「そう。あなたがそう判断するならわかったわ。で、8月のイベントはどうするのかしら?すべてお蔵いりかしら?『フィーネ』のように?」

「『霞ヶ丘シナリオ』はこちらで再利用できたらする。そこまでたどり着ければね。それだけのことさ」

「あとはよろしく。プロデューサーさん」

「ああ、やれるだけはやるさ」

「さよなら。よい物語を」

 

伊織がため息をつく。

町田苑子が怒るだろうか?降板する?また外部侵入を許す?

いや、もうそうはならないだろう。みんな成長している。イデアは以前よりもずっと強い。詩羽のシナリオがなくても、彼女たちは演じていけるはずだ。自分達で物語を紡げる。

 

「何も消さなくても・・・」

 

英梨々が苦言を言う。とはいえ、霞ヶ丘詩羽が強制介入してこなければ、恵ルートに戻ったことだろう。

 

「君は確かに優しいね」

「それって褒められているのかしら?」

「どうかな」

 

美智留がレポートを読み終わる。

 

「・・・これはひどいね」

 

恵は演出を中断されるとひどく混乱する。

直前のお見舞いイベントでの不穏なフラグでナーバスになっていた。

さらに不慣れなサブヒロイン側としてのイベントであり、心とは違う役割である。

神経質に企画を練って、倫也のサポートの元、こつこつと進めてきた。

何気ないつまらない日常会話。それを進めるのにどれだけ気を使ったか。

 

「それにしても澤村ちゃんもえらく強いフラグ立てたね?」

 

英梨々が困った顔をする。

 

「・・・つい・・・流れに流されてしまって・・・」

「ううん。いいと思うよ?シリアスでやるんでしょ?」

「あんたシリアスはダメっていってなかった?」

「今の2人なら大丈夫じゃないの?というか、だいぶラブコメになってない?」

「ラブコメっていうかホラーじゃないの・・・」

「そうかなー。でもさ、加藤ちゃん強いけど、なんだかんだ澤村ちゃんは対抗しているから、やっぱり強いんじゃないの?」

「どんな基準よ・・・」

 

英梨々はため息をつく。

 

「そうだ、澤村さん。倫也君の部屋なんだけど、現状復帰してくれる?」

「えっ?」

「あれが今回の加藤さんが怒る理由だから、さすがに倫也くんも守り切れないと思うよ」

「・・・わかったわよ・・・」

「あたしも手伝いにいくよ。澤村ちゃん」

「お願いするわ・・・氷堂美智留」

 

英梨々と美智留が倫也の部屋へ『どこでもドア』を使って移動した。もはや物語に余裕はなかった。

 

伊織はうなずく。だいぶ片付いてきた。

 

「あとは出海。魔法瓶に味噌汁を作って加藤さんに届けて」

「お兄ちゃん・・・わたしはもうそんな便利なフォロー能力ないよ」

「使えない妹になったもんだな」

「ひどっ!」

 

出海もどこでもドアを使って、教室の外で待機する。タイミングを間違えれば自分も消えるだろう。でも、そんな風に物語を終わらせたくはなかった。

ひどいなりにここまでやってきたのだ。

例え加藤恵が絶望して投げ出しても、すべてを茶番にしても・・・出海は結末まで走りたかった。

 

(つづく)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。