プロット『波島伊織は静かに誰よりも怒る』
※※※
「お兄ちゃん」
出海が心配そうにしている。
ここは波島家の地下の秘密基地。今は緊急対策室として機能している。
「大丈夫だ、出海。多少ダークファンタジーに歪んでも、クラスメートAさんが生き残っている。加藤さんはちゃんと記憶しているさ」
伊織は難しそうに手を顔の前で組んでいる。
もっともらしいことを言うのも彼の仕事だ。
「出海ちゃん、あたしにも読ませてくれる?」
「はい」
出海が美智留にレポートを渡す。美智留が読み進めていく。
「まずは簡単な方から処理していこうか」
「わかった。お兄ちゃん、霞ヶ丘先輩と澤村先輩は復活でいいんだね?」
「・・・澤村さんはもちろんだけど、『霞センセ』は、もういらない」
「そうかもしれないけど、ちゃんとさよならしないと後味悪いよ?」
「なら復活させて釘をさすか」
英梨々と詩羽が現われる。
「・・・」
「霞センセ。残念だけど、お別れだ」
「そう・・・で、誰があとのシナリオを引継ぐのかしら?」
「さぁね」
「・・・」
「あんな不穏な『お見舞い』イベントに続き、まさかの加藤さんイベントに強制介入は許されない。わかるよね?」
「ちょうどいいタイミングだったと思うけれど?澤村さんも強いフラグを立てられたじゃない?」
「相変わらずだね、ストーリーなんて関係ないって、さんざん言われてきたのに」
「・・・」
「『加藤恵』のイデアを穢してまで、話すべきことなんてこの物語には皆無だよ」
「そう。あなたがそう判断するならわかったわ。で、8月のイベントはどうするのかしら?すべてお蔵いりかしら?『フィーネ』のように?」
「『霞ヶ丘シナリオ』はこちらで再利用できたらする。そこまでたどり着ければね。それだけのことさ」
「あとはよろしく。プロデューサーさん」
「ああ、やれるだけはやるさ」
「さよなら。よい物語を」
伊織がため息をつく。
町田苑子が怒るだろうか?降板する?また外部侵入を許す?
いや、もうそうはならないだろう。みんな成長している。イデアは以前よりもずっと強い。詩羽のシナリオがなくても、彼女たちは演じていけるはずだ。自分達で物語を紡げる。
「何も消さなくても・・・」
英梨々が苦言を言う。とはいえ、霞ヶ丘詩羽が強制介入してこなければ、恵ルートに戻ったことだろう。
「君は確かに優しいね」
「それって褒められているのかしら?」
「どうかな」
美智留がレポートを読み終わる。
「・・・これはひどいね」
恵は演出を中断されるとひどく混乱する。
直前のお見舞いイベントでの不穏なフラグでナーバスになっていた。
さらに不慣れなサブヒロイン側としてのイベントであり、心とは違う役割である。
神経質に企画を練って、倫也のサポートの元、こつこつと進めてきた。
何気ないつまらない日常会話。それを進めるのにどれだけ気を使ったか。
「それにしても澤村ちゃんもえらく強いフラグ立てたね?」
英梨々が困った顔をする。
「・・・つい・・・流れに流されてしまって・・・」
「ううん。いいと思うよ?シリアスでやるんでしょ?」
「あんたシリアスはダメっていってなかった?」
「今の2人なら大丈夫じゃないの?というか、だいぶラブコメになってない?」
「ラブコメっていうかホラーじゃないの・・・」
「そうかなー。でもさ、加藤ちゃん強いけど、なんだかんだ澤村ちゃんは対抗しているから、やっぱり強いんじゃないの?」
「どんな基準よ・・・」
英梨々はため息をつく。
「そうだ、澤村さん。倫也君の部屋なんだけど、現状復帰してくれる?」
「えっ?」
「あれが今回の加藤さんが怒る理由だから、さすがに倫也くんも守り切れないと思うよ」
「・・・わかったわよ・・・」
「あたしも手伝いにいくよ。澤村ちゃん」
「お願いするわ・・・氷堂美智留」
英梨々と美智留が倫也の部屋へ『どこでもドア』を使って移動した。もはや物語に余裕はなかった。
伊織はうなずく。だいぶ片付いてきた。
「あとは出海。魔法瓶に味噌汁を作って加藤さんに届けて」
「お兄ちゃん・・・わたしはもうそんな便利なフォロー能力ないよ」
「使えない妹になったもんだな」
「ひどっ!」
出海もどこでもドアを使って、教室の外で待機する。タイミングを間違えれば自分も消えるだろう。でも、そんな風に物語を終わらせたくはなかった。
ひどいなりにここまでやってきたのだ。
例え加藤恵が絶望して投げ出しても、すべてを茶番にしても・・・出海は結末まで走りたかった。
(つづく)