プロット『7月クラスメートB』⑧
※※※
恵がランチボックスの袋から、ピンク色と水色の楕円のお弁当箱を出す。
それを抱えて立ち上がる。
倫也がその様子を座って見ていた。
恵が弁当箱をもったまま歩きだした。倫也は気が付いて慌てて止めようしたが、恵はそれを弁当箱ごとゴミ箱へ投げ捨てるほうが早かった。
「・・・恵」
「もう崩れているから」
「・・・食べ物は粗末にしたらダメだよ」
「ただの文字だよ」
「違うよ。恵が作った大事なお弁当だよ」
倫也がゴミ箱から弁当箱を拾う。ゴムバンドで留めてあるので中身がこぼれていなかった。
「安芸くん。お願いだから開けないで?」
「開けないと食べられないよ」
倫也が弁当箱を抱えたまま立っている。
「それ・・・一つはキャラ弁だから・・・」
「えっ?」
「崩れたのをみられるぐらいなら・・・お願いだから捨てて。わたしのために食べ物を粗末にしてくれる?」
倫也はうなずく。弁当箱をゴミ箱の中にそっと置いた。
「消して」
倫也が指を弾くと弁当箱が消えた。倫也の胸が痛む。恵の表情も辛そうに見えた。恵がどんな気持ちでお弁当をつくってきたのだろう?どんな下準備をしてきたのだろう?
「ごめんね、倫也くん」
「恵は何も悪くないよ」
「お腹空いたでしょ?」
「恵は?」
「よくわからない。お腹ってすくの?」
「お腹はすくよ。怒れれば疲れるし、疲れれば眠くなる」
「眠ったら夢オチにできる?」
「この話を?」
「うん」
「恵が望むなら」
「どうやって?」
「五限目が『古文』になるだけの話だよ」
「ああっ・・・なるほど・・・ね」
恵が少し笑った。
倫也はほっとして、一緒に笑う。泣くのを我慢しながら。
「ねぇ、わがままいっていい?」
「きけるわがままならいいんだけど」
「やり直したい」
「どこから?」
「4限目ぐらいからでいい?」
「もちろんいいよ」
「そしたら、お弁当も元に戻る?」
「もちろん戻る」
「いい加減な物語なんだよね」
「そこがいいところなんだよ」
「じゃあ、お願い」
「わかった」
倫也が一呼吸置く。
「待って」
「どうした?」
「また、失敗したらどうしよう?」
「そしたら、失敗した話が紡がれるだけだよ」
「それは困る」
「誰も困らない」
「そしたらがっかりされる」
「誰もがっかりしない」
「そうなの?」
「うん。ここまで読んでくれた人は、みんな、この物語の恵が好きだから大丈夫」
「そうだといいけど」
恵の表情が少しだけ軽くなった。こんな滅茶苦茶な自分を応援してくれる人がいるんだろうか?
「ねぇ倫也くん。さっきから呼び方が変わってるよ」
「そうだな」
「これからは倫也くんって呼んでいい?」
「もちろんだよ」
「倫也くんも恵って呼んでくれる?」
「そう望むなら」
「それはずるいよ」
「そう呼ばせていただけるなら」
「変なの」
倫也が笑う。恵が不思議そうに倫也を見ている。まだ、どこかぼんやりしている。
「倫也くん、わたしのこと好き?」
「大好きだよ、恵」
「わたしも好きだよ、倫也くんのこと」
「ありがとう。うれしい」
「あれ、言っちゃだめなんだっけ?」
「そうだな。英梨々ルートに進むならダメだろうな」
「どうしよう?」
「大丈夫だよ、これからリテイクするから」
「いい加減だなぁ・・・」
「そこがいいところなんだろ?」
「うん」
『リテイク』
2人が口をそろえていった。
(つづく)