詩羽が屋上でメロンパンを食べている。そこに英梨々が訪れる。
「まずまずの出だしじゃないかしらね?」
「ええ、正攻法でしょ。正面突破で一気に決めてしまいたいわ」
「そうよね、それが一番・・・」
「恵を傷つけない方法だもの・・・知らないまま物語が終われば・・・ね」
「とはいえ、今日の放課後イベントが最大の難関よ。ここで倫理君が加藤恵の存在を一年の時と同じように認識しなければ、私達の勝ちはほぼ確定よ」
「わかってるわよ。彼女に渡った台本はどれくらい修正できたの?」
詩羽が英梨々に台本を渡す。
「完全には消せなかったわ」
「坂の上のイベントが消えている以上、このセリフはおかしいわね」
「記憶を消しても潜在的に残っているんでしょう・・・加藤さんからすれば存在理由そのものみたいなもんじゃない。あの坂の上のイメージは」
「気になるけど・・・このイベントそのものをつぶさせてもらうわ」
「あなたがそれほどの覚悟を持つなんてね」
「台本通り実行できなければ彼女のクラスメートBは降板、元のモブキャラに戻ってもらう。それで終わりよ」
「そうね・・・健闘を祈るわ」
※※※
体育館での始業式が終わり、みんなが教室へ戻る途中でクラスメートAが声をかける
「よろしくね、クラスメートBさん」
クラスメートBが照れくさそうに会釈する。
「クラスメートBさんなら、名前付きキャラもすぐだと思う」
「どうして?」
「かわいいもん」
「そんなことないよ~」
「それにね、真面目だし、どんなこともやり遂げるし、絶対に大丈夫。がんばって」
「うん。ありがとう。わたしもクラスメートAさんみたい、どんな状況でも落ち着いて役をこなせるようになりたいな」
2人が談笑しながら教室へと戻った。
クラスメートBの席は廊下側の一番後ろ。教室の全体が見渡せる。クラスメートAが中央の前列。ここから教室の雰囲気に対しての指示をだし統率している。ざわざわさせたり、シーンとさせたり、野次を飛ばしたり・・・けっこう神経を使う役どころだ。クラスメートBはその指示にしたがって行動し、ときにアドリブでセリフをまぜて雰囲気作りをサポートする。今は新学期初日の緊張感や新しい友達作りのぎこちない会話などが教室で行われている。
倫也の席は窓側の前から二列目で、こういう時には台本を読んだり、セリフの校正をしたりと気を使っているようだ。本番でのヒロインとのやりとりはアドリブも多く、話が脱線しがちで、それでも物語を進めるためにいくつかのパターンを準備している。
クラスメートBはそんな倫也の様子を遠目で眺めていた。自分の薄っぺらい台本と比べながら・・・。
(なんか眼鏡じゃなくなってる・・・あんな顔してるんだなぁ・・・さすがハーレム型主人公くんは違うなぁ。真剣な眼差しで本読みしているし、さりげなく右手でペンを器用に回しているし・・・絵なる人だなぁ・・・って、あれ?ヲタク男子みたいな設定だよね・・・)
クラスメートBは首を振って妄想を振り払う。もうすぐ出番だ。失敗はしたくない。
※※※
倫也はモブとの会話で学校の事情や詩羽や英梨々のキャラを説明するなど、無難に主人公らしい行動をこなしていった。
それから放課後まで台本をチェックして進行状況を確認する。あとは視聴覚室に向かうだけだ。これで終わる。なんで視聴覚室に向かうのか理由がわからない。少し頭が痛む。
「ここでクラスメートBと会話だけど・・・」
どうも不自然だった。春休みに特別なイベントが起こってない・・・。
何かシナリオが変更されている?初日に立つべきフラグが折られているような・・・。
※※※
放課後になり、クラスメートBが職員室に向かう。ここで先生から伝言を受け取り、倫也に伝えるのが役割だ。
一方の倫也は所定の時刻まで教室で過ごし、その後、視聴覚室に向かう。そこから物語が動き出す。
(つづく)