出海が首をかしげて考える。いくつもの結論がある。物語の未来は確定していなかった?それは作中人物としては不思議な気分である。プロットにそって役割を演じるのが使命だからだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。じゃあ、あたしの『観測』した9月以降はどうなの?」
「それは加藤さんと澤村さんが決着をつけることを合意した場合の分岐だよ」
「なるほど、その分岐にはならなかったってこと?」
「いや、加藤さんは先に進んで、なんどもなんどもリテイクをして物語を進めている。膨大なボツの山を築きながら物語を選んでいる。その意味が出海にはわかるかい?」
「ちょっとわからない」
「結論がでたら途中をする必要がないってことだ。省略できる『過程』を飛ばす」
「ん~?でも、その『過程』が物語なんじゃないの?」
出海も美智留も首をかしげる。
伊織はプロデューサだから全体を把握するのは得意なのだろうけど、やっぱり難しい。
「その通りなんだけどね。だからこうして簡略された物語を我々が話をしている」
「お兄ちゃん。だとしたら加藤ちゃんが退場したってことは、『結論』がでたってこと?」
「そういうことになるんだろうね」
「それはどういう・・・」
伊織が少し真面目な顔になる。
「加藤さんが出した結論は、『この物語は英梨々のものである』ということなんだろうね」
「退場する必要なんてあったのかな?お兄ちゃん。もう少しなんとかなったんじゃないの?」
「出海・・・人を・・・殺したいほど・・・自分が死んでしまいたいほど・・・愛したことがあるかい?」
「えっと・・・笑うとこ?」
「笑えないとこだよ。出海ちゃん」
倫也が言った。
「・・・ごめんなさい。倫也先輩」
「いや、怒っているわけじゃないよ・・・出海ちゃんは出海ちゃんで成長し、判断し、選択し、行動した。それでいいんだよ」
「倫也君は出海を怒らなかったね。加藤さんも怒らなかった。でも未来を一番変えたのは出海の選択だった」
「・・・わたしが物語の終わった恵さんを捕まえてきたことだよね?」
「そのとおり」
「ごめんなさい・・・、こんなことになるなんて・・・」
「いいんだよ出海ちゃん。それはね・・・出海ちゃんがそうした方が面白いと思ったからなんだから。俺らが用意していたオチなんかよりもね」
「倫也先輩!わたしはそこまで考えてなかったです・・・」
「それでいいんだよ。恵もそれでそのオチをやめる覚悟ができたのだから。綺麗になんて終わらなくてもいい、少しでも真剣にやろうって思ったのだから」
「・・・倫也先輩は優しいんですね」
倫也はため息をつく。なんど、この物語の中でため息をついたことだろう。
「出海。そろそろおしまいだ。僕らも退場するよ。いいね?倫也君」
「ああ、潮時だな」
「寂しいです・・・」
出海はいまいちわからない。物語が終わるというのがどういうことなのか。
「倫也先輩・・・わたしが後輩でよかったですか?もっといい後輩キャラがいっぱいいると思うんです。先輩を頼る甘えっことか、もっとセクシーにせまるとか・・・」
「出海ちゃんでよかったし、出海ちゃん以外じゃできなかったと思う」
「そうなんですか?」
「明るく元気な後輩キャラだからこそ、恵が許容できたんだよ・・・他の後輩キャラならつぶされている。めげなかったのも出海ちゃんだけだ」
「なんか、あまり褒められている気がしないですね・・・」
倫也が笑う。
「また、後輩キャラをやってくれると嬉しい」
「もし、わたしが嫌だっていったらどうするんです?どこからか代役の後輩を起用するんですか?」
「そしたら、後輩の出演しないラブコメになるだけだよ」
出海は考える。こんな時、どんな風に答えたらいいんだろう?
どんな風に答えたらラブコメ風になるんだろう?どんな風に振る舞えば・・・『明るい元気な後輩』になれるんだろう?
「・・・なんか先輩・・・ハーレム型主人公みたいなセリフですね」
倫也が笑う。ハニカムような無邪気な笑顔。
出海は俯いた。顔を見られたくない。顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
でも、いいセリフが見つからない。
「・・・ということで、倫也君。僕らはここで退場する、うまくやれよ」
「ああ、任せておけ。こっちには英梨々がいるからなっ」
「じゃ! ほら、出海、最後のセリフだよ」
出海が顔を上げる。倫也を見つめる。
最後?最後って何?
「さよならだ。出海ちゃん」
「倫也先輩・・・また・・・倫也先輩の後輩をやりますからっ・・・」
「ありがとう、出海ちゃん」
伊織が出海を抱き寄せてその顔を隠す。
「どんな時でも・・・うまく笑えるヒロインに、いつかなれ」
伊織と出海が消える。
床が少しだけ濡れていた。
(つづく)