美智留が頭をかく。
「トモ、本当にこの物語は終わっていくんだね」
「ああ、いままでありがとうな」
「ずっと続けるわけにはいかないの?」
「俺がしっかりしていてれば、もう少しみんなにフラグを立てながら物語を長くできたかもしれないな」
「ははっ、2人でも倒れる主人公じゃ、5人のヒロインのハーレム型主人公なんてできないよね」
「そうだな」
美智留が立ち上がる。
英梨々は神妙な顔で何かを考えている。
こんな状況で最後を任されるヒロインの気持ちを思うと、美智留はちょっと辛かった。
「澤村ちゃん・・・ううん、英梨々ちゃん」
「何よ・・・氷堂美智留」
「フルネームでなくていいよ」
「何?美智留」
「シリアスすぎるから、少し茶化して、あたしは終わっていいかな?」
「好きにしなさいよ」
美智留は体を伸ばす。
それから、英梨々に手を伸ばして・・・
「英梨々ちゃん、100円玉くれる?」
※※※
美智留がガチャガチャの台をテーブルの上に置く。
100円玉を3枚入れ、回す。
ゴトンッと音がなって、カプセルは一つ出てきた。
それを開ける。
中には小さなボイスレコーダがはいっていた。
英梨々がそれを再生する。
「あらやだ、こんな再登場の仕方・・・かっこ悪いじゃない?」
詩羽の声だった。
「霞ヶ丘詩羽!」
英梨々が叫ぶ。ずっと頼りにしてきた。恵ルートになるのは身を挺して回避してくれた。
「まっ、あたしじゃ役立ちそうにないからさ・・・少し、センパイと話をしてみてよ」
美智留が倫也の方に近寄る。
「そういうわけで、あたしも退場するよ」
「いろいろサポートありがとうな」
「幸せにしてあげなよ。英梨々を」
「そうだな。物語にこだわらず、やれるだけのことはやるさ・・・」
「ヤっちゃだめだろ・・・」
「最後に下ネタぶっこんでくるな!」
美智留が笑いながら消えた。内心はとても心配だったけれど。
「英梨々。いい?私が最後にあなたにできるアドバイスわね・・・
『あんたのためじゃないんだからねっ!』
って、終われば、それなりにオチたように見えるはずって、ことだけね」
英梨々は吹き出して笑う。
「何よそれ。なんのアドバイスにもなってないじゃない?」
「大丈夫そうね?覚悟はできたのかしら」
「そんなんじゃないわよ。実感がなにもないだけ」
「じゃ、がんばりなさいよ。最後ぐらい」
「ずっとがんばってきたわよ!」
「あら、そう? ポンコツをがんばるって発想がなかったわ」
ちゃんと会話になった。
英梨々は天井を見上げる。
「ねぇ、倫也。わたしって今、制服を着ているのかしらね?」
「ああ、そうだな。学校イベント中から戻ってきているからな」
「いったん、家に帰って着替えてきていい?」
「何もかも、もう自由だよ。いったん仕切りなおして、お前の部屋から始めろよ」
「そうさせてもらうわ・・・」
英梨々が立ち上がる
「それにしても・・・プロットがないって不思議な感じね」
「そうだな。でもまぁ『観覧車』イベントぐらいは消化しておいたほうがいいんじゃないか?」
「そうね。(つづく)のあとにでも考えてみるわよ」
英梨々が玄関に向かう。倫也が玄関まで見送る。
「あんたを慰めるところからはじめるのかと思った」
「ん?」
「だって、あんた恵が消えて悲しいんでしょ?」
「もちろんそうだけど・・・でも、ほっとしているのも事実だよ」
「・・・そう」
「恵もそうだから、心配しなくていいよ」
「どういうことよ?」
「・・・お前のボートイベントがあまりにも良かったから・・・恵は嫉妬したんだよ。だから突然・・・詩羽先輩を暗殺しようとしたんだろう。物語を茶番にしたかった」
「そうなの?」
「お前は彼女の立場だけど、結局、ボートぐらいしかデートしていないだろ?あとはお正月に少しでかけたか」
「そうね・・・」
「それってさ、恵が嫌がったからなんだよ。この物語は恵の影響が強かったからな」
「なるほどね。恵は嫉妬している自分自身が嫌だったのか」
「よし。これで恵の話はおしまいだ」
「なぜ?」
「だって、出海ちゃんが言っていたろ? 女の子とデート中に他の女の子の名前を出したり考えたりするのは失礼だって」
「そうね・・・あたしも気をつける」
玄関で靴を履いたまま話し込む2人。
「倫也。約束してくれる?」
「ん?」
「わたしをフォローしてね」
「わかった。約束する」
「あたしは下手くそだけど、ラブコメヒロインを精いっぱいやるから・・・」
「ああ、そうだな。まったくだ。変な展開はやめよう。普通の世界で普通に過ごそう」
「うん」
「じゃあ、またな」
「まって・・・、この物語って恵ファンで成り立っているじゃないの?」
「そうかもしれないな」
「だったら期待を裏切ることになるんじゃないの?」
「そんなつまらないこと・・・心配することないよ。英梨々は英梨々の魅力があるのだから」
「原作とは全然ちがうけど」
英梨々がそこで照れる。ツインテールが揺れる。
「優しい英梨々が好きだよ・・・」
「そう、ありがとう・・・いい物語にするわよ。倫也」
照れて頬を紅く染めながらも、笑顔を倫也に向けた。
八重歯をすこしのぞかせる英梨々の笑顔があまりも可愛いから・・・
どんな物語になっても、英梨々が笑顔で終わればいいと倫也は思った。
(つづく)