ある晴れた夏の日。英梨々は空調が適度にきいている自分の部屋で目覚めた。
ベッドで微睡むような感覚に身をゆだねながら考える。
起承転結の話は詩羽の領域。些細なことを掘り下げていくのは恵の方がずっと上手だ。
自分にできるのは目の前の課題をこなしていくことだけだった。
与えられた役割を淡々とこなしていく。葛藤しながらも決断を物語に委ねてきた。
ここで物語を丸投げされても困る。
けれど、こんな自問自答も自分らしくない・・・
※※※
英梨々がベッドで上半身だけ起こした。
淡いピンクの上等なネグリジェを着ていた。下着は身に着けていない。
控えめな胸のラインに少し浮き出た小さな山。
英梨々はすらりと伸びた白い足をベッドからおろすと、よく磨かれているフローリングの上に立った。
部屋の中を静かに歩き、小さな白いタンスの引き出しを開ける。綺麗にたたまれた下着から白を選ぶ。赤いリボンが小さくあしらわれていた。それを床の上に投げ出す。
クローゼットを開け、首をかしげてから少し迷い、白のワンピースを手にとり、ベッドの上に放る。
部屋を出てバスルームで軽く汗を流し、朝の身支度をすませる。頭をバスタオルで拭きながら部屋へ戻ってくると無造作に床の下着を手にとって身に着けていく。
「読者サービスになっているのかしら?」
英梨々は顔を赤らめた。
下着姿のままドライヤーを使い、髪型をセットしていった。
※※※
天気がよく外は暑かった、「夏」って感じの眩い日光に英梨々は目がくらむ。
白い大きな帽子を手で触った。
自分でも少しあざといかと思うほどの白。白い帽子に白のワンピース、それに白のミュール。それでも腰のところにはオレンジのリボンを巻いてあるし、同じ色のリボンで髪をツインテールに束ねていた。
金色の髪はママレードジャムのように輝いている。英梨々が坂道をゆっくりと歩いていくと白いワンピースのスカートが風でゆれていた。
英梨々は少し大きな白のショルダーバックをかけている。普通の女の子が持つもの以外には小さなスケッチブックと絵画セットが入っている。ケータイで写真を撮るのと、自分でスケッチするのでは違う。写真を撮りたくなるときはない。写真は記録するためにとる。絵は描きたくなるときがある。その瞬間を切り取りたくなるような衝動がおきる。その時のために絵画セットを持ち歩く。
※※※
英梨々は通いなれた坂道を下って、倫也の家へ向かう。いろんな思いを抱えてこの道を通ってきた。小学生の時にケンカした時は、しばらくは避けて通らなかった時もある。
だから、こうして倫也に会いに行く目的で歩くと複雑な気分になる。もっとうまく人付き合いができたなら・・・もっと自分に勇気があったなら・・・こんなに後悔しなかったんだろうか。
※※※
倫也の家の前。英梨々がチャイムを押す。今は合鍵をもっていない。
部屋の撤収作業の時に合鍵も没収されている。
英梨々はそれを思い出して一人で吹き出して笑った。
そもそも、英梨々のエピローグは倫也の部屋ではじまるはずだった。倫也の横で目覚めるはずだった。そこからの流れは、この話と同じささやかなサービスで始まる。
なぜボツになったのか?
おそらく、お見舞いイベントでの不穏な発言が発端だ。
>『年頃の男女が部屋に2人きりで夜を過ごす。何もないほうがよほど不自然でしょう?』
これに恵が怒ったのだろう。ボツになったが何度何度も倫也を怒ったに違いない。正座させられている様子が目に浮かぶ。学園ラブコメよりも昼ドラに近い雰囲気を恵が許さなかった。恵が7月イベントをなかなか渡さなかった理由なのだと英梨々にはわかった。
結局のところ、この物語のエピローグを任されてはいるが、恵による審査があるのだと思っている。逸脱すればおかしなことがおこるか、エピローグの後に『控室』の続きが挿入されることだろう。あるいは『負け犬8』につながってしまうかもしれない。
とはいえ、英梨々は気持ちが晴れていた。それならそれでいい。自分が選んだエピローグを上書きされてもいいと思う。その時、その時で確かに幸せなのだから。
「もう!倫也!いい加減出てきなさいよ!いつまで人にモノローグをさせるつもり?」
英梨々がドアを蹴っ飛ばす。
ドアが開いて、倫也がでてくる。
英梨々の顔が固まる。
「・・・ちょっとねぇ・・・倫也?」
「いやぁ、モノローグを終わるのを待っていただけなんだけど?」
「そんな細かいことはいいのよ・・・なんなのよ・・・その恰好は!」
倫也がアニメTシャツを着ていた。それも美少女が大きくプリントされたヲタク御用達の外には来ていけない種類のものだ。っというか、プリントされているそれ・・・あたし。
「お前なに?またヲタクを否定するのかよ?裏切るのかよ?」
「はぁ!?あんたバカなの?死ぬの?」
倫也がこらえきれず笑う。
「だいたいシリアスな美少女キャラのまま来るなよ」
「・・・人が丁寧に物語の導入をやったら、その対応なの!?」
英梨々の顔が赤くなる。
「もういいわよ!あたし帰るから。緑ジャージに着替えてくるから!」
英梨々が踵を返し、怒って歩いていこうとする。
「冗談だよ、冗談。悪かったよ、英梨々。あんまりかしこまってデートイベントがはじまるものだから、緊張しただけだよ」
「あんたねぇ・・・」
倫也は笑っている。英梨々の緊張もほぐれる。
「うん。オシャレをしてきてくれてありがとう。英梨々。とても可愛いよ」
「・・・だから、そのチャラ男みたいなキャラはなんなの?倫也ってもっと、こう・・・なんていうんだろう・・・」
倫也が考える。こっちも苦労したんだよと言いたかった。
「英梨々っ・・・そのなんていうか・・・」
倫也がもじもじしながら顔を赤らめて目線を横にうつす。
「かわいいな。その服」
「ん~?」
英梨々が首をかしげる。倫也ってそもそも褒めたりするどころか、服装すら気が付かないようなキャラだったような?
「ほら、英梨々。お前もちゃんとやれよ」
「ちゃんとって何よ?」
「はぁ?人にキャラを押し付けておいて、お前はやらないの?」
「・・・ああっそういうこと」
倫也が咳ばらいをする。それから、英梨々に向かっていった。
「英梨々、その服、可愛いな」
「別に、あんたのためじゃないんだからねっ!」
2人で顔を見合わせる。首をかしげる。考え込む。
「倫也・・・ツンデレめんどくさい」
「そもそも、ツンデレとして成立しているか審議が必要だと思う」
「とりあえず、(つづく)いれておくわ」
(つづく)