負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

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エピローグ⑨

 

 公園を登り切った倫也と英梨々は港を眺めていた。

 

 英梨々は茶色の帽子に黒ぶちメガネ。白いシャツの上にオレンジ色のおしゃれなサロペットを着ていた。服は絵の具であちこち汚れている。

 

「あそこに見えるのがガンダム」

 

倫也が指でしめす。

 

「うん」

「赤いドレスを着た英梨々が強いフラグを立てた場所」

「あははっ。やっぱ本家は強いわね」

「まぁなぁ・・・」

 

英梨々はイゼールを組み、スケッチブックを置く。

日陰のベンチに座って、絵を描く準備をしていた。

 

「ん?今日は絵を描くのか」

「うん。どっかで描こう思っていたの」

「ふむ」

「あんたは小話の続きでも話しなさいよ」

「そんなたいした話でもないのだけど」

「あたし達のデートも別にたいした話じゃないでしょ」

「うーん」

 

英梨々が八重歯を見せて少しだけ笑う。

だいぶ物語になれたようで、緊張も警戒もしていない。

画用紙に鉛筆で下書きをしていく。

目が真剣になる。

 

※※※

 

『倫也君。大丈夫そうじゃない?今の澤村さんなら物語をちゃんと終えられると思う』

『伊織、待て。念のため過去へ行くフラグもあるし準備だけはしておいてくれよ』

『ん~、なるほどね。準備だけはしておくけど・・・『負け犬8』や、反省会の名目の続編はしない』

『わかった』

『倫也先輩。いい感じですよ~』

『ははっ、ありがと』

 

※※※

 

 倫也は英梨々の邪魔にならないように離れて座った。

 

「ラジオでも聴くつもりで気楽に聞いてくれ」

「うん」

「Rさんはその後、デートは下準備をしっかりする子になった。というよりは、シミュレートを繰り返すようになった。現地に下見もする」

「それ、やっぱりトラウマになってない?」

「そういうことが好きなだけなんじゃない?結局、旅行代理店に就職して、窓口でお客の相談にのって旅行計画を立てる仕事をした」

「おおっ、禍を転じて・・・ってやつね」

「この話だけを聞くと、きっかけにはなったかもしれないけど・・・いろんなことがあって仕事を決めたのだと思う。そこで、ついに運命の人と出会う」

「まさかのJ君との再会?」

「いや、ただのもの静かな独身男性。一人旅行をしようと窓口にやってきた。一回だけならそこまで印象には残らなかった。ただ、お礼にと旅行のお土産をもってきた」

「気があるわけね」

 

 英梨々は手を止めない。鉛筆の下書きが終わると、パレットに水彩絵の具を順番にだしてく。

倫也は水彩用のバケツに水を汲みに行った。

あまり邪魔しないほうがいいかな?と考えながら戻る。

 

「それで?」

「二回目の旅行の相談にきた」

「それはもう、確定的ね」

「そうとも限らないだろうけど、Rさんの同僚がこっそり教えるわけだ。こないだも来ていたけれど、Rさんが窓口にいないから帰ったわよって」

「同僚もよく見てたわね」

「そういうのって、傍から見た方がわかるものだよ。いい雰囲気の2人だなぁって」

「あんたと恵みたいなものね」

 

倫也がため息をつく。

 

「そこは、あたしと倫也みたいなものねっていうべきだろ?」

「そこまで自惚れてないわよ?あなたがそういってくれれば悪い気はしないけどね」

 

英梨々がいじわるに笑う。倫也と恵には敵わない。でも、これはあたしの物語なのだ。

 

「2回目の旅行計画も楽しく進めることができたけれど、だからと言って2人の間は発展しない。お客を誘うわけにもいかないし、男の方も物静かな紳士だしな」

「ああ、だれかおせっかいな人がいてくれれば」

「でも、そういうのって、他人にはどうこうできないんじゃないか」

「そうね。それに一目ぼれみたいのと違うようだし、恋愛には発展しにくいのかも。大人ってどんな風に恋愛をするのだろう?」

 

英梨々が筆を走らせる。水彩画は手前のものから塗っていく。

 

「ここで『転』が起きる。中学校の同窓会だ」

「J君との運命的な再開ね」

「そうだな。あのデートを放り出した痛い子のJ君。高校も別だった。あれいらい口もきいていない。でもやっぱり同窓会に参加するかどうか迷った理由は、J君のことが気になったからだ。Rさんにとって、やっぱり一番の青春の思い出だったんだろうな」

「でも、悪い思い出なのよね」

「どうかな」

 

筆をバケツの水で洗う。ベンチに結び付けたタオルでふく。

 

「休憩」

「ああ、そうだな」

 

倫也が英梨々の絵をじっと見る。上手い人が描く水彩画。すべてを描かず水彩のまざるボカしや、白い紙をいかした光の表現。

 

階段を上まで上がってきた人が英梨々の絵を見て感心する。地味なかっこうの英梨々に見惚れる人はいない。

 

倫也がケータイをカメラモードにして構える。

 

「英梨々。笑って」

 

 英梨々が振り向く。口を大きく開けて笑顔を作る。風が吹くがまとめられた髪はそんなには揺れない。

 

※※※

 

『大丈夫そう?』

『おまえは』

『うん』

 

※※※

 

 英梨々は今、この瞬間を過ごす。気分がとても良かった。絵を描いていて楽しい。そんな素敵なことって他にある?

 

 

(つづく)

 

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