負け犬ヒロインの育て方 6 (ラスト)   作:きりぼー

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前回の続き


第二章

 倫也が教室から出て速足で視聴覚室に向い、階段を降りる。クラスメートBは廊下を少し駆けるように走り階段を上っていく、その足音が響く。それから倫也の姿を発見するとほっとしたように速度を落とし・・・落ち着くように深く息を吸った。

 

「あっ安芸くーん」

 

倫也の後ろ姿に声をかける。

透き通った声が廊下に響いた。

 

同じ廊下の横に隠れて立っていた英梨々がぼそりという。

「タイミングもセリフ間違ってるわよ」

 

クラスメートBが固まる。声をする方を向いたがすでに立ち去って誰もいなかった。

歩いたままの倫也を追いかけながらセリフを言うシーンである。しかし、追いかけることができない。次のセリフも飛んでしまった。『間違えた』と思った。アドリブでリカバリーすることなんて考えていなかった。何度も何度も反復して覚えたはずなのに。体が震えて力がだせない。

 

 倫也は歩きながら後ろに神経を集中させる、ついてくるはずの足音が聞こえない。呼びかけられてからセリフが続いていない。何かアクシデントが起きたか。振りかえるとクラスメートBが立ち止まっていた。

 倫也は踵を返して、ゆっくりとクラスメートBの元へ歩きだす。目の前で立ち止まって優しく言った。

 

「大丈夫。まだ何も間違ってない。落ち着いて?思い出してからでいいから」

 

そう言うと窓の外を見た。

夕日がさしている。下校中の生徒が見えた。

 

クラスメートBは深呼吸をする。『間違ってない』と倫也くんはいった。わたしはその後のセリフを言ってないから、まだ続けることができる。落ち着いて。

 

「ハスミ先生が職員室来てくれって」

一言でれば続きが考えなくてもでてくる。練習を重ねた成果だ。

「なんか、視聴覚室に教材運んで欲しいみたい」

 倫也がそれを断るセリフをいう。

 

「そっかぁ」

 

 軽い口調である。続いて、

 

「じゃあ、わたしが先生に断っておくね」

 

ここは棒読み。

 

「わかった。伝えとく」

 

ここも棒読み。抑揚も感情もない。印象に残らないように言うセリフ。

それがクラスメートBの演技。くせを出さない。

 

「あっ、それとさー」

 

ここはさりげなく話を切り替えるシーン。

 

「この前ありがとね・・・」

 

(この『ありがとね』がなぜ言うのかわからない・・・

感情を込めていうべきなのか、それを押し殺すようにさりげなくいうのか・・・

でも、今のわたしはこのセリフをいう時に、なんだか悲しくて、声が震えてしまった。)

 

「なんのことだ?」

 

「ほら、春休みの時、帽子拾ってくれたじゃん?白いベレーの・・・」

 

(これはわたしのセリフ。確かにわたしが言うべきセリフだよ。でもその『春休みの時』が思い出せない。なんのことだかわからない)

 

「そんなことあったっけ、覚えてないな」

 

(これは安芸くんのセリフ。台本通り。だけど本当に覚えてないのかな?安芸くんは憶えていて、わたしだけが忘れているのかな?)

 

 

「そうだよね、何日も前のことだもんね。それじゃあ」

「また明日な」

 

 よし、言えた。最初躓いたけど・・・なんとかセリフは言えた。歩きながらの演技はできなかったけど、物語が進んでいるはず・・・

 

 しかし、倫也がまだ目の前に立ったままだった。

何か言い忘れていたかな?あっ、お礼をいわなきゃだ。

 

「ありがとうね、安芸くん。フォローしてくれて。ごめんなさい」

「いや、大丈夫。なんか変な台本だよな」

「そうなの?」

「おまえ、春休みのこと覚えてる?」

「ううん、ぜんぜん。わたしも何のことだかさっぱりで・・・」

「そっかぁ。それにしても初セリフ緊張した?」

「うん。それもあるけど・・・」

「何かあった?」

「えっと、わたしが『あっ安芸くーん』って声を掛けたら、誰かが『タイミングもセリフも間違ってるわよ』って言ってきた。それで動転しちゃって・・・」

「いや、タイミングもセリフもばっちりだった。ってことは・・・邪魔されたんだな?」

「なんでわたしが?」

「さぁな・・・でも、この物語はなんか変なんだよ・・・」

 

 倫也が天井を見上げる。おそらく声の主は英梨々だ。何か理由があるのだろう、そして何かを隠している・・・

 

「許せねぇなぁ・・・」

 

倫也がつぶやく。

 

「安芸くん、目が怖いよ・・・」

 

「ん?ああ、ごめん。眼鏡が壊されちゃって・・・ほら、近眼だから目つき悪くなっちゃうんだよ。ごめんな」

「ううん」

 

 それだけならいんだけど・・・と、クラスメートBは考えていた。

 

(つづく)

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