6と7を入れ替えた時に読者が半分ぐらいに減りましたが(汗
せめて、ここまでお付き合いしてくれた方にはしっかりと英梨々オチをお送りしたいなと思っております。
今回は状況整理となっています。
倫也と英梨々が小綺麗な部屋にいる。
壁一面が大きな鏡になっていて、その前に丸イスがいくつか置いてある。
他にはアンティークの木製の2人がけの丸テーブルがあり、そこには飲みかけのコーヒーと半分だけつかったシュガースティックが転がっている。
「本日の英梨々は、なしよ?」
「わかってる」
倫也は神妙な面持ちで椅子に座っていた。『英梨々ルート』について悩んできた。恵が引いたことでなんとか最終話までたどり着いた。それも強引にだ。ふと横いる英梨々を見る。
英梨々は鏡の前に座って、その綺麗な金色の髪をいじっていた。ヘアメイクはいない。
「控え室とかいう、どこでもない場所に連れ出して悪かったわね」
「大事な場所だよ。少なくとも俺らにはな」
「あたしの選んだエンディングでいいのかしら?」
「もちろんだ、英梨々。俺とおまえが選んだエンディングだよ。何もすべてお前が1人で選んだわけじゃない」
「・・・そう・・・うん。嬉しい」
英梨々が下を向いて赤くなる。でも、胸が苦しい。でも、あと少しだ。あと最終話だけ恋人役をやる。それで終わる。
「回収できなかった話をサクッと消化していいかしら?」
「構成下手だよな」
「物語が適当すぎるのよ」
「突然ヒロインが作りこまれたプロット投げ出すしなっ」
倫也が笑う。
英梨々は眉をひそめて、申し訳なさそうにしている。プロットがあれば楽だ。それも自分を幸せにしてくれるプロットなら避ける理由なんてなかったのかもしれない。
「回収できなかったのはボツになったルートなのよね」
「そういうことになるな。別にそれはしょうがないだろ」
「そうだけど・・・」
「気になったのがあるのか?」
「3つ。過去へ行ったあたしの話。3月まで進んだ時のラスト。そして恵が7月で退場した理由のところ」
「うーん。過去は結局さ、変えても過去の倫也と英梨々の未来が変わるだけだよな。この物語で成長したおまえは過去を受け入れることができているんじゃないか」
「そうね。あのクソ生意気なガキの倫也と英梨々は伊織が仕込んだんでしょ?すごく性格が悪かったわ」
「ああそうだな。過去へ戻っても、過去役をやっているモブがいるっていうのは、この世界観ならではだろ?それに、過去の記憶って、自分が思っているほどはっきりしていないんだよ。長くなるから詳しくは省くが。結局のところ、自分でどう解釈するかってことだからな」
「そうね。ケンカして今があるのよね。確かに辛い日々を送ったと思うけれど、毎日がずっと辛かったわけじゃないものね」
「もうふっきれたか?」
「うん」
英梨々は目を閉じる。小学校の頃のケンカを受け入れる。今は気まずかった10年も愛おしい。
「でも、3月のあたしの誕生日・・・本来のエンディングがボツになったのは納得できないところもあるわね」
「あれは8月の霞ヶ丘シナリオを乗り越えた先の話だろ?恵ができなかった。それがすべてだよ。物語はいろんな人が関わって作っていくものだからな」
「そっか・・・」
「でも、お前が3月生まれだといいなって思ったら、3月生まれだったのは驚いていたよ」
「あたしは自分に誕生日があったことに驚いたけどね」
「・・・おいっ」
倫也はそれはバカげているけれど、確かにそうだなと思った。物語に直接関係なくても主要な人物には誕生日がある。するとキャラに少しだけ厚みがでる。不思議なものだ。
「7月の恵が退場した理由って他にもあったのよね?何か怒るって言ってたし」
「まぁ詳細はともかく、英梨々ルートに進むなら『離婚しろ』って話だな」
「重っ!!!」
「そうだな。それでまろやかにするための夫婦漫才があったんだけどな」
「へぇ・・・」
「作り込まれる前に退場するって決断したようだな」
「それって、クラスメートBバージョンの恵が関係しているのかしら?」
「ああ。こっちは物語を壊すというか、この物語での加藤恵キャラが許せなかった分岐だ」
「こっちも重いの?」
「ああそうだな。離婚よりも重いな」
「へぇ・・・」
英梨々は驚く。離婚よりも重いこと?死はすでに選択されていた。他にどんなことがあるのか想像がつかない。
「英梨々と詩羽先輩は、『負け犬3』で加藤恵には救済がない。倫也がすべて、みたいなことを話していたがな。実はそうじゃなかった。加藤恵には医大生の従兄弟いた」
「あっ!」
「クラスメートBの提案は、倫也が英梨々を選ぶなら、自分は従兄弟を・・・という提案をして倫也の英梨々ルート選択を阻止する案だった。これに気が付いた時点で嫌になったんだよ」
「なるほど・・・恵らしいわね」
「本当のところはわからんが、ふられる側は楽しくないという理由で飽きたのだというのが真相かもしれん」
「それはありそうね」
倫也は話終えて少しすっきりした。
「あたしだってわかっているわよ。結婚した旦那を巻き戻したからといって盗られるのは、やっぱり面白くないわよね」
「『if』の同人でそんなこといってもしょうがないけどな。だから、それを恵は『不倫!』って表現してもしょうがないし、俺目線では『浮気』のような感覚はぬぐいきれない」
「うん。あたしもどうしたって『略奪愛』は否めないわね。さわやかな学園ラブコメなんて無理なんだわ」
倫也と英梨々は立ち上がる。そろそろ時間だ。
「それでもみんなの協力があって、英梨々ルートを進んできた。横浜でのデートはそういうドロドロした部分はなかったんじゃないか?上手くいってなかったか?」
「うん。確かにそうだと思う。あたしは『英梨々』として、英梨々ルートを演じていればよかったかもしれない。でも、あたしは選ぶ。失敗してもいい。自分で選んで、それで後悔したい」
「わかった」
倫也がうなずく。
英梨々がシルクの白いロンググローブをした手を差し出す。
倫也その手を握る。
「いこう、英梨々。最終回だ」
「うん。あっ倫也。もう一つあった」
2人が立ち止まる。
「・・・伊織とデートした。ごめん」
「なんだってぇぇええええええ!!」
英梨々がびっくりするぐらい倫也が大げさに驚いてみせる。
「・・・なんてな。大丈夫。最初は何をしているのか驚いたけれど・・・」
「怒らないの?」
「うん。怒るようなことじゃない。小話をしただろ?RさんとJ君の話」
「うん?」
「あの伊織はな。J君が思っていた理想像なんだよ。でもさ、実際にデートしてみると、その理想の展開があまり意味ないとわかったろ?」
「そうね・・・うん」
倫也は英梨々に優しく微笑む。
「あれはな・・・本命と失敗したくないために、事前に他の人とデートするという複雑な心理なんだよ。・・・観覧車デートの小話で回収するつもりだったんだけどな」
「なんか、不純な感じもするけれど・・・弱い自分だからこそわかるわ・・・」
「だから、気にするな」
「ありがとう。倫也」
英梨々が倫也にうなずく。臆病な自分のことをちゃんとわかってくれていた。
倫
也がした小話は、負け犬6の英梨々が伊織とのデートをフォローするためのものだ。英梨々は倫也とデートするのが不安だった。失敗することが怖かった。だから、最初に伊織と予習してしまった。だから、これっぽっちも浮気ではない。
優しさと弱さは少し似ている。倫也はそんな英梨々のことも好きだった。
※※※
倫也が控室の扉を開けた。英梨々の手を握っている。ペンダコのない左手がちょっと震えていた。
英梨々には覚悟がある。だから心の中で祈った、この長い物語がどうかハッピーエンドで終えられるようにと。
(次回、最終話。負け犬シリーズ完結です)