ラノベ3~4冊の分量になります。
約半年の間 ご支援いただきありがとうございました。
お陰様を持ちまして、なんとか完結させました。
最後まで楽しんでもらえたら幸いです。
ここは、とある海外の小さな島の小さな教会。
控室からでてきた倫也と英梨々以外には誰もいなかった。
だから、聴こえて来るのは波の音と海鳥の鳴く声ぐらいのものだった。
空はとても高く、とても晴れていた。少し優しい海風が吹いていて、南国のヤシの木が揺れる。白い砂浜には小さな赤いカニだって楽しそうに歩いている。
「ねぇ、これ、どうかしら?」
「どうかしら?って、なんで巨大な戦斧もっているの!?」
「画面映えすると思って」
英梨々が重々しい諸刃の戦斧を壁に立てかける。
「雑な伏線やめてくれる!?」
英梨々は舌を少し出して倫也をからかう。
※※※
純白のシルクのウエディングドレスに身を包んだ英梨々は、童話のお姫様よりも美しかった。かつての白に近い金色の髪にはオレンジの髪の毛が混ざっている。太陽の光でマーマレードジャムのように輝いている。
「物語の中で一番綺麗だよ。ありがと。英梨々」
英梨々がまたウエディングドレスを着てくれた。『負け犬4』の寂しい物語を思い出したがそれを乗り越えて英梨々はこの島に戻ってきた。
少し沈黙の時間が流れる。
「ちょっと胸・・・盛りすぎたからしらね?」
「自分から、またそこに話題ふっちゃうの!?」
「いや、倫也が『なんで風船いれてんだよ!』みたいにツッコンでくれるかと思ったから」
「そこつっこんで、ハリセンで叩かれたの最近の気がするんですけど!?」
英梨々はくすくす笑いながら風船を取り出した。ペタンコに戻る。
「まっ、よく許したわよね」
「誰がだよ」
「嫉妬深くて、強欲で、細かいことまでこだわって、何事にも全力で、やる気なさそうにみえて誰よりも頑張って、物語をエタるは、投げるは、メンヘラになるは、大量殺人するは・・・」
「英梨々、言い過ぎはあとが怖いから」
英梨々があたりをキョロキョロ見回す。
「倫也っ・・・あたし上手くやれるかな?」
「大丈夫。きっと・・・上手くやれるさ」
倫也が英梨々にそっと寄り添う。
手をとり教会へ
・・・行く前に、ガチャガチャの前に立つ。
「英梨々、これ・・・最終話だからね!?」
「しょうがないじゃない。整合性を気にするから・・・こういうことになるのよ」
「・・・解決しているようには思えないけどな」
英梨々がガチャの前にしゃがむ。そしてコインを入れて回す。
出てきたカプセルを開けると、煙がぼわんと出てドレスアップした等身大の詩羽が現われた。
「ちょ・・・ちょっと・・・ま・・・って・・・」
詩羽はすでに泣いている。裏でいろいろと大変だったのだ。嫌われ役は楽じゃない。でも、今はそんなことはどうでも良かった。英梨々がここにいる。おめでとう言葉を一言いいたかったがまだ声に出せなかった。
次のカプセルからは美智留がでてきた。
「よっ!残業代稼ぎにきたよ」
美智留はマイペースだ。とりあえず幸せそうな舞台で良かったと思った。
その次が出海で、ぼんやりと立っている。
「えっと・・・。このたびは!おめでとう!ございます!」
キャラに迷いがあるが、一生懸命明るく振る舞う。やっぱりよくわからない。なんで最終話がここなのか。頭で考えてしまう。
最後に伊織が神父の恰好ででてくる。
「ん~。こういう役は嫌いじゃないけどね」
伊織が髪を手で触っている。
※※※
石造りの教会の中にみんなが入って準備をする。外は夏らしく暑かったが、中は空調もないのに快適だった。ステンドグラスがとても綺麗だ。
倫也は緊張していて、祭壇の前で待っていた。神父役の伊織と会話をする。
「大丈夫かい?倫也くん」
「俺はできることをするだけだよ・・・」
「他に適任がいないからね」
「なんとかならなかったのか?」
「さぁね。ほら来たよ」
扉が開いて音楽と共に英梨々が一人で入場してくる。ピアノを弾いているのは美智留だ。ピアノはよく調律されていて、ワーグナーの結婚行進曲を澄んだ音色で奏でていた。
「さぁ神に誓うがいい!安芸倫也!この英梨々を生涯愛するということに!」
「だから・・・おまえ、どんなテンションだよ・・・」
「ほら、さっさと誓いなさいよ」
「・・・誓います」
「病める時も側にいつづけますか?」
「いつづけます」
「締め切りが迫った時は手伝いますか?」
「手伝います」
「クライアントが怒った時は身代わりになって怒鳴られにいきますか?」
「いきます・・・英梨々、おまえ伊織買収したのか?」
「勘のするどい子は嫌いだよ」
「この物語は倫也の浮気願望が発端だと認めますか?」
「はいっ??ちょっとまてよ、伊織。ぶっこんでいいボケと、しちゃいけないボケがあるでしょぉぉ!?」
「なにそれ!」
「認めますか?倫也君」
顔をしかめる倫也。焦る。全身から汗がでる。まずい同人として好き勝手やってきたけど、原作の2人には幸せのままでいて欲しい。ふと、そんなわけのわからないことを思う。
「・・・認めません。俺は無実だよ!高2の春から英梨々と付き合って純愛を通してここに到る、ただの主人公であり、原作の人物には一切関係ありません!」
「あんた、ここでヘタるの!?」
「しかたないでしょぉ!?」
会場は少しほっとした雰囲気になる。
「まじめにやれよ!伊織」
「僕はいつだって真面目だよ。実に大真面目だよ。倫也君?」
「次は?」
「『プラチナキャット』は英梨々のものだと認めますか?」
「もう、そんな伏線忘れよぅ!?」
「倫也、その『プラチナキャット』て、なんなのよ・・・」
「・・・知らねぇよ」
倫也の目が泳ぐ。
出海がさらってきた『フィーネ』を終えた恵が胸元にしていたアクセサリー。
そこに到達できなかったため、それを恵は手にしていない。
「一応、倫也くんに渡しておくよ」
ラッピングされた細長い小さな箱を倫也に渡す。
倫也はそれを服の中にしまう。
「・・・これはスルーしてくれないか?英梨々」
「あんたがそう選択するなら、それに従うわ」
倫也の表情は険しい。
「次は?伊織」
「今のが、この『負け犬シリーズ』を通して倫也が選択できるすべてだよ」
「伊織っ!」
伊織の表情は真剣だった。
詩羽は考え込む・・・なるほど、そういうことかと納得する。
美智留は強くピアノの鍵盤を叩いて音楽を奏でている。
出海には何がなんだかわからない。
そして、英梨々はほっとしたように笑っている。
「では英梨々さん、あなたは最後の瞬間までこの物語で倫也の側にいることを誓いますか?」
「誓わないわよ」
「英梨々っ!?」
「その方がいいかなって」
「・・・」
神父伊織が英梨々にうなずく。英梨々もうなずく。
「今、さぁ契約は為された!二人で誓いのキスをして・・・『負け犬』シリーズを終わらすがいい!!」
倫也をみながら英梨々がうなずく。倫也が辛そうな顔をする。そんなバカな終わり方でいいのか?
「最後くらい笑いなさいよ」
「ああっ・・・」
倫也が作り笑いすらできず、泣くのを我慢するので精一杯だった。
「あっ、ちょっとまって。やっぱり心残りがもうひとつあったわ」
英梨々が言った。
その声は晴れやかで楽しそうだった。
「波島・・・じゃない神父さん、ブーケ投げだけしていいかな?」
「別に構わないよ。澤村さん」
「澤村・スペンサー・英梨々のままなのね」
自分で言って、ちょっとむなしくなる英梨々。まだ泣いちゃダメだ。ずっと胸が苦しい。感情があふれてくる。でも今は我慢だ。
「さぁ、並んで、並んで」
「一言もしゃべってないと思ったら、あんたなんでそんな泣いているのよ?霞ヶ丘詩羽」
「だってぇ・・・だってぇ・・・」
英梨々が詩羽の手をとる。
「ちゃんと、あなたの思い描いたエンディングにしたじゃない」
「そうだけど、あんなに幸せになるチャンスがあったのに、何もこんなオチを選ばなくていいじゃない・・・」
「ううん。それは違うわよ、霞ヶ丘詩羽。あなたも強くなって物語を終えるしかないのよっ・・・」
ブーケ投げを用意する英梨々。
みんなが教会の外にでる。白いペンキで塗られてテラスはところどころ、ペンキがはがれていたがそれも趣があってよかった。
参加者は3名。詩羽、美智留、出海である。3人はケータイで倫也と英梨々をとる。
「なぁ英梨々、このまま投げたら詩羽先輩は絶対に取れないぞ?」
「なんでよ」
「運動神経抜群の美智留と、都合よく世界をフォローする出海だぞ?」
「じゃあ、問題ないわよ?」
「ん?」
英梨々が階段の上から後ろを向いて、ブーケを天高く放り投げた。
明るい太陽に、綺麗なブーケが照らされながら舞う。
・・・ぼとっ。
ブーケが誰にもキャッチされずに地面に落ちた。
「あれ・・・現れなかったですね・・・」
出海が不思議そうに首をかしげる。
「そうね。ここで黒い影がさっと横切って、キャッチしながら登場の予定よね」
詩羽が解説する。
美智留と伊織はニヤニヤと顔だけで笑っている。
英梨々がため息をつく。
「やっぱりあの女はとびきりめんどくさいわね・・・倫也!あんた死んでらっしゃいよ!」
「あのなぁ・・・」
「大丈夫。ちゃんと露骨に伏線立てたあげたでしょ」
「殺される方の身にもなってね!?」
倫也はみんなと目を合わせてうなずく。
英梨々には頭を深く下げた。
そして、控室の方へ向かって走り出す。
残された5人が突き抜けるような蒼い空を見上げている。
海は穏やかで静かだった。
ジャッキンッ!
重たい金属が石にぶつかる音がした。
※※※
「もう少しマシなオチはなかったんですか?澤村先輩」
「出海はまだまだ子供ね。あたしもハッピーエンドが好きなのよ」
「でも、ふられてませんか!?」
「あたしは譲ったのよ」
英梨々は笑う。
トコトコッと、『ねんど〇いど』になった倫也が戻ってくる。
英梨々がそれをつまみあげる。
「ちゃんと渡してきた?」
「ああ・・・渡してきたよ」
「なんで、あいつ出てこないのよ」
「どんな顔して出ていいか、わからないんだろ・・・」
英梨々は倫也を左手でぶらぶらと振る。
右手ででこぴんをする。倫也がおでこを抑えて半泣きになった。
「英梨々。かっこつかないから戻してくれよ」
「かっこいいところがないんだから、しょうがないじゃない!?」
「あのなぁ・・・頼むよ」
英梨々が倫也を地面に置いてから、指をバチンッと強くならす。
倫也は戻らない。
「澤村さん。最後ぐらいちゃんとやらないと戻らないわよ」
詩羽が言う。詩羽はけっこう真剣だ。
伊織をはさんで美智留と出海が階段に座って笑いながら眺めている。
※※※
英梨々が地面に手を付ける。
倫也を中心に魔法陣が浮かび上がり青い光に包まれる。
英梨々の金色の髪が逆立ち揺れる。
『Adelheid! Ich liebe ihn für seine Liebe zu Megumi.』
。
BGMが『can't fall in love to be a lover』に変わった。英梨々のようにとても優しい音色。
そして倫也が元の姿に戻った。
高校2年のまだ黒い眼鏡をかけていた頃の倫也が立っている。
※※※
伊織は地面に転がって笑っている。出海は音がもれないようにその口を手で押さえる。
美智留は座禅をして心を落ち着けていた。
「ねぇ倫也。最後にお願いがあるのだけど・・・」
「ん?なんだよ」
「この負け犬シリーズの記念に・・・眼鏡ちょうだい」
「おまえまさか・・・」
英梨々が倫也の眼鏡をとる。それを手で眺めて、へし折った。
「せめて、大事にしろよ・・・」
「倫也・・・あたし、あたしっ」
「えっ・・・!?」
そして、次の瞬間。
倫也の視界が急に、真っ暗に、なった。
それと同時に、唇に、何か、柔らかいものが・・・
「うあああああああああああああああああああ~~~!!!」
そして、英梨々のキンキン響く、超特大のわざとらしい叫び声が。
この物語で我慢していた感情のすべてを吐き出すような叫び声。
「・・・倫也くんっ!」
「って、恵!?」
英梨々が詩羽の方を振り向く。地面に倒れている。
「ちょっと詩羽!何、負けてんのよ!」
詩羽が起き上がる。
「速度勝負で勝てるわけないじゃない・・・」
「最弱のラスボスね・・・」
その顔は2人とも残念そうだった。
コツコツッ
美智留が音を立てる。詩羽は笑えず、その場でため息を深くついた。
「お兄ちゃん・・・もしかして澤村先輩ってこれがしたかっただけなんじゃ・・・」
「ん~、どうだろうね。これぞ澤村さんって感じだけどね」
伊織は無事に終わってほっとしていた。
ここまでさんざん引っ張っておいて、このオチを選ぶ。叫び声の『あ』の数まで完コピしている。演技力と物語に殉ずるサブヒロインとしての誇りに、さすが澤村さんだと思った。
伊織は美智留の方を見ると目が合った。そこで2人は優しく微笑む。
その様子を出海が首をかしげて不思議そうにみていた。
そして伊織は口元を手で隠して、つまらなそうな顔をした。
(結局、本心は隠したままか・・・)
※※※
英梨々と恵が同時にため息をつき、2人は目が合って思わず笑ってしまう。
「英梨々、本当にこれでいいの?」
恵が心配そうに声をかける。胸元の『プラチナキャット』が陽光に輝いて静かに揺れている。
「うん。これがやっぱり、あたしにとってのハッピーエンドなのよ。綺麗な物語じゃないし、英梨々ルートの英梨々じゃないと思う。読者の期待を裏切ったかもしれない・・・でも、この物語のあたしが選んだエンディングなの。ごめんね。恵」
「・・・ありがと。英梨々」
恵が自分の涙を手で拭う。
倫也は恵の隣で心配そうに様子をみていたが、大丈夫なようでほっとしていた。
「ねぇ・・・倫也くん」
「ん?」
「これ終わったら、『負け犬5』の英梨々のとこにもいってあげてね」
「わかった」
「あの子が一番しんどかったと思うから」
※※※
英梨々が倫也の方を向く。
「ねぇ、倫也?」
「ん?」
英梨々は大きく息を吸い込んで、叫ぶようにいった。
「この物語のあたしのこと・・・好きだったあぁぁ・・・!!!?」
倫也は戸惑う。恵の顔をちらりと見る。
「知るかぁ・・・」
恵が倫也の手をつねる。それから、倫也の背中をぽんっと押す。今度は辛くない。
(倫也くん、がんばれ!)
※※※
倫也がよろめいてと英梨々の前に立ちどまった。
「大変な恋人役をやってくれてありがとう。優しい英梨々のこと、ちゃんと好きだった」
英梨々はそのセリフに驚く。恵の前でもちゃんと好きと言ってくれた。
うんうんと、自分を納得させるようにうなずいた。頬が赤く染まっていく。
最後だ。物語はあたしが決めるとばかり、指をさすポーズを大げさにとる。
詩羽に教えてもらったセリフで終わらせればいいんだよね?
「別にあんたのためじゃないんだからねっ!!!」
そうだ。倫也のために恋人役をやったんじゃない。瞳が涙でうるうるしている。
みんながそれを気が付かないふりをして拍手しながら笑う。
英梨々やっと重責から解放されてほっとした。物語が終わった。
強い風が吹き、英梨々の髪のリボンが飛んでいった。
長い美しい金色の髪が陽光に輝き風に揺れている。
鼻水をずずっとすすり、涙がこぼれないように最後に踏ん張って、
英梨々がとびきりの笑顔を作った。八重歯を少し見せながら・・・
だから、英梨々の笑顔に甘えて、この物語はハッピーエンド!
(完結)