「なぁ、まだ放課後時間あるか?」
「うん。予定なんてあるわけなくて・・・」
「なら、荷物運び手伝ってくれるか?」
「いいよー」
2人が笑う。それから階段を並んで降りながら職員室に向かう。
「今年も同じクラスだね、よろしく安芸くん」
「えっと・・・名前なんだっけ・・・?」
「まだクラスメートBになったばかりで、名前キャラじゃないよ?」
「そうじゃなくって・・・出席簿で呼ばれたり、家の標識だったり・・・」
「だから去年までは教室の背景モブでほとんどセリフなかったし・・・」
「生き難い世界観だな・・・」
「そうだねー」
「これは再考の余地があるな」
「まったく同感」
「じゃあ、どうやって加納恵になるんだ?」
「今、安芸くんが呼んだからだよ。でも、加藤だよ?」
「そうだよなぁー、だと思ったわー」
職員室に入り、倫也が先生から荷物を受け取る。段ボールに入った教材がけっこう重たかった。
「わたしが少し持つね」
「ああ、悪いな」
「いいよ」
段ボールから教材の一部を恵が取り出した。
残りを段ボールごと倫也が抱える。一礼して、職員室を出る。
「でも、なんでこんな世界観なんだ?」
「わたしがクラスメートBだから、クラスメートAがいるでしょ」
「まぁそうだよな」
「クラスメートAは名前も容姿もないんだよ。でもがんばっている」
「ほうほう・・・」
「だからさ、わたしもクラスメートBとして、この物語をがんばるよ」
「そうだな。それでいいと思うけど・・・ただなぁ・・・何かひっかかるんだよ」
「ん?」
「加藤、サブヒロインじゃないよな?」
「うん。ほら」
恵が台本をみせる。役どころは「クラスメートB」だった。
「ほんとだ・・・」
「ねぇ安芸くん、この物語ってサスペンス調なのかな?」
「いや、それはないと思う・・・」
2人考え込む。荷物を視聴覚室に置く。
「加藤、このあとお茶でもどうだ?」
「わたしはただのクラスメートBだよ?そんなフラグ立てられても困る」
「ごめん・・・」
「ううん。じゃあ、また明日ね」
「またな」
恵が視聴覚室から逃げるように駆け出す。
倫也はぼんやりとその後ろ姿をみていた。
※※※
(優しい人だったな・・・安芸くん)
恵は思い出してニヤニヤしては、その表情をフラットに戻しながら家へと帰った。
部屋に戻るとベッドの上に倒れ込むように寝転んだ。
(セリフは失敗したかと思ったが安芸くんがリカバリーしてくれた。その後の時間はアドリブだったけれど、会話の流れはよかったと思う。わたしはクラスメートBとして、物語の役に立てたのだろうか?)
恵は落ち着いてから、起き上がって机に座った。引き出しからフラグを取り出す。手製のフラグは、つまようじに紙の旗をつけ、練り消しの土台に立てている。
これはモブ時代からの隠れた趣味で、ヒロインになりきってフラグ管理をするというちょっと痛い行動だった。
机の棚にはすでに、『クラスメートBに昇格する』というシルバーフラグが立っている。今日は白フラグで『初セリフを言った』『リカバリーしてもらった』『荷物を一緒に運んだ』の三つのフラグが一気に立った。
それから、銀色のフラグを眺めて『お茶を誘われた』を立てそこなったのを残念に思う。やっぱりそれはヒロインたちのイベントであって、クラスメートBの役割ではないと思ったから・・・いや、正直逃げたのだ・・・クラスメートBを演じるのには、主人公の安芸倫也への感情は邪魔になるから・・・
・・・そうこの『負け犬6』はクラスメートBに徹しようとする加藤恵と恋人役が確定した英梨々の物語である
(つづく)